× close

お問い合せ

かもめの本棚に関するお問い合せは、下記メールアドレスで受けつけております。
kamome@tokaiedu.co.jp

かもめの本棚 online
トップページ かもめの本棚とは コンテンツ一覧 イベント・キャンペーン 新刊・既刊案内 お問い合せ
食べるしあわせ
種を継ぎ、いのちをつなぐ 種継ぎ農家×二期倶楽部シェフ
田村和大×富岡良一
第3回 本当に「体によいもの」を
 種を採ることから始めて野菜を自然栽培している田村和大さんと、その野菜を料理する富岡良一シェフの対談。今回は、2人を結びつけた固定種・在来種の野菜への思いと、それぞれが目指す世界についてのお話です。

――田村和大さんが、自分で育てた野菜から種を採る「自家採取」を始めて5年目になる。現在耕作しているのは40アールの田んぼと1.6ヘクタールの畑。約40種にのぼる固定種や在来種の野菜を、すべて自然栽培している。田村さんはなぜ固定種、在来種の野菜を作るに至ったのか、そして富岡シェフが田村さんが育てた野菜を使い始めたきっかけは何だったのだろう。

田村 私の祖母は、種を自家採取する昔ながらの方法で野菜を栽培をしていたんですよ。ホウレンソウや豆類の種を、毎年自分で採っていました。東日本大震災で物流がストップし、関東の業者に頼んでいた種が届かなかったときに祖母の種採りを思い出し、「これだ!」と直感したんです。
 一方、無理やりに新しい野菜を作るのではなく、その土地で長く栽培されてきた在来種の野菜を作って食べたほうが理にかなっているんじゃないか、という思いもありました。地元にはそうした野菜の種を扱う種屋があったので、店の人から「種を自家採取してもいいですよ」という了解を得て種を買い、固定種や在来種の野菜の栽培を始めたんです。

富岡 二期倶楽部で固定種や在来種の野菜を使おうと決めたのは、田村さんとの出会いがあったからですね。種を継ぎ、その土地に根づいた野菜を自然栽培で育てるという考え方に共感しました。それに、田村さんに送ってもらった野菜を食べた時、本当に「自然の味」だと感じたのです。
 子どもが生まれたときに、「できる限り体によいものを食べさせたい」と思ったことも理由の一つです。自分にできるのは、「最先端の料理」よりも、「本当に体によい料理」を作ること。そう考えて食材を探し続けていたら、固定種や在来種の野菜にたどり着いたんですね。

田村 種をまいてから収穫するまでの期間も、種を採るまでの期間も、品種によっては「けっこう長いな」と感じることがあります。でもその成長を見ていると、こちらも頑張らなければと思えてくる。自分の好みの野菜を選別して種を採っていくから、収穫する野菜はみんな「田村野菜」になってしまうのですが(笑)、でも、だからこそ「種採り」はやめられない。
 初年度は田んぼを畑に転換したばかりだったので、畑が湿気るし、発芽もばらばらで生育が弱く、思うように育たなかった。4年目くらいから発芽がそろってきて、かなり味の濃い野菜ができるようになってきたかなと、感じています。

――農業と料理。ステージは異なるが、2人に共通していることの一つは地元の人々との交流だ。そこには、新しい食材を探す楽しみ、使う楽しみがあるという。

舞台奥の女性は、ワークショップのナビゲーターを務めた田村佳世さん。「山のシューレ」ではヨガの講師も担当した
田村 在来種の野菜を探すのは楽しいんですよ。岩手県は中山間地域が多いのですが、ひと山こえると違う品種に出合える。ある地域のキュウリは緑なのに、山をこえたら白いとか、そういった多様性があるんですね。出会った人の話がまた面白い。農作物のことを聞きにいったのに世間話ばかり。帰ってきてからそれに気づいて、同じ人を2回、3回とたずねることもしばしばで……。
 在来種を追いかけていくと、その土地の文化が見えてきます。農具の使い方や畑の作り方も、地域によって違うんですよ。あちこちで食べさせてもらう郷土料理もうれしい。出会った人や土地のことをもっともっと知りたいと思うようになりました。

富岡 確かに、地元の人たちとの交流は、新しいものを生み出す発想の源にもなりますね。二期倶楽部では那須町にある精肉店の指導をいただき、2年ほど前から熟成肉づくりを始めています。今は主に牛肉を使っていますが、熟成が進むと酵母菌がタンパク質を分解し、とても柔らかくなるんです。繊細でコントロールが難しいのですが、だからこそやりがいがある。子どもを育てるようなものですね。上手に熟成した肉は、ナッツのような香りがするんですよ。

――野菜作りも料理も、根気と情熱と知恵と工夫のいる作業だ。簡単に結果は出ない。それでも、2人はそれぞれに目指すものを志向し続ける。

野菜の花や種を使ったキャンドル。岩手県のアロマキャンドル作家・佐々木香織さんとのコラボ作品
田村 農業を通じて、地元の消費者や料理人だけでなくキャンドル作家さんなどとの出会いもあって、地元の人たちと楽しく交流しています。一方で、田畑がどんどん草むらになっていく状況に愕然としているもの事実です。
 後継者がいないために農業を続けられず、田畑が荒れていく。そういう土地を見放さないで農業をしてほしいと、若手の私に依頼が来る。そのすべてに応えられるわけではないけれど、周辺の農地で、できるだけ種を継ぎながら、自然栽培をしていくのが今後の課題です。もちろん自分一人ではありません。未経験でもいいから、「農業をやりたい人たちと一緒に」です。
 農薬も肥料も使わない自然栽培による農業は、経済面からみるとまだまだ信頼度が低いのですが、だからこそ、「安定した生業として成り立つ」という事例をつくって広めていかなければと思っています。

富岡 確かに、固定種や在来種の野菜は、まだそれほど知られていません。でも、田村さんの作った野菜をお客さまに食べていただくことで認知度が高まれば、需要が増えて生産する人も多くなるでしょう? そんなふうに循環していけばいいな、と思います。
 自然栽培した野菜は、まさに「自然そのもの」。それが、「本当に体によいもの」だと思うんです。フランス料理はいろいろと手を加えて作るのですが、あまりいじりすぎずに、「食材が持っている自然のよさを生かした料理」として提供していきたいですね。 

 次回(最終回)は、田村和大さんが講師の「種採り体験」と、富岡良一シェフが腕を振るった「ランチ会」の様子をお届けします。

(構成・川島省子)

※この記事は、2015年6月8日に栃木県那須高原山麓・横沢地区で開催された「山のシューレ」(主催:NPO法人アート・ビオトープ)の、「食といのちのワークショップ」の内容を再構成したものです。
◇山のシューレ http://www.schuleimberg.com/
◇NPO法人アート・ビオトープ http://www.artbiotop.jp/ 
◇田村和大さんが代表を務める「Cosmic Seed」(種を自家採取する任意団体)
 http://cosmicseed.org/index.html
ページの先頭へもどる
【たむら・かずひろ×とみおか・りょういち】
【田村和大】1980年岩手県生まれ。 東京都内の企業に就職するも、過労のため退社。療養中に食の大切さに目覚め、2011年に帰郷して農業を始める。固定種の種を自家採取して自然栽培で野菜を育てる傍ら、「Cosmic Seed」を立ち上げてその普及活動に取り組んでいる。
【富岡良一】1966年福島県生まれ。高校卒業後、東京の老舗会館「上野精養軒」で修業。六本木のフレンチレストラン「ヴァンサン」などを経て2005年7月に栃木県那須町のリゾートホテル二期倶楽部のシェフに就任。素材を吟味し、より自然で健康な「食」を追求し続けている。
新刊案内