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食べるしあわせ
種を継ぎ、いのちをつなぐ 種継ぎ農家×二期倶楽部シェフ
田村和大×富岡良一
第1回 土ごと食べられる野菜をつくる
 栃木県那須高原の横沢地区で、毎年夏に開催される「山のシューレ」。NPO法人アート・ビオトープが主催するこのイベントは、自然に耳を傾け、人々が創り上げてきたさまざまな物事について学び、領域をこえて語り合い、思想を深め合う“山の学校”です。8回目となる今年は「庭と農の新たな想像力」をテーマに、講演や鼎談、舞台、演奏会などさまざまなプログラムが実施されました。かもめの本棚では、6月8日に行われた「食といのちのワークショップ」を取材。自家採取した種で野菜を自然栽培する田村和大さんと、その野菜を料理するリゾートホテル二期倶楽部・富岡良一シェフの対談を、4回にわたってお届けします。


田村 岩手県にある私の畑で採れた野菜は、二期倶楽部のレストランで使ってもらっています。富岡シェフは、野菜が届くとすぐに連絡をくれるんですよ。とにかく反応が早い! 味や香りについての率直な感想だけでなく、料理方法やお客さまの反応も聞かせてくれるのがとてもうれしいし、励みになります。

富岡 食いしん坊なんですよ。食材が届いたらすぐに食べちゃう(笑)。風味や食感、水分や粘りなどを確かめながら、「あ、これはこういう料理に合いそうだな」とか「こうアレンジしたほうがいいな」と想像を巡らせます。田村さんは「固定種」や「在来種」の野菜を、本当に真面目に育てている。そういう野菜を生かした料理を作るには、まずはそのままの状態のものを食べてから考えるのが楽しいと思っています。

――「固定種」とは、形や特徴が親から子へと何代でも受け継がれる種のこと。これに対し、さまざまな親の優性特徴だけが一代目に現れるものは「交配種=F1種」と呼ばれる。栽培しやすく大きさや形が均一なことから、現在、市場に出回っている野菜のほとんどは「F1種」だ。一方、「在来種」は時間をかけてその土地の気候風土に合わせて進化し、根づいた種。田村さんは自分で種を採って、固定種や在来種の野菜を栽培している。

田村 その年の気候や季節、土の状態などによって味や形質が変わるのが、固定種の野菜の特徴ですね。F1種に比べて多様性があるのだと思います。

富岡 そういえば、夏の終わりごろにジャガイモを送ってもらいましたよね。最初はホクホクして水分が多く、蒸かしたり、ポテトサラダにすると合う感じだったのですが、冬になってからマッシュポテトを作ろうと裏ごしたら、餅のように固まってしまった。寒くなるにつれて糖度が高まって、デンプン質と甘みが強くなるんですね。凍らないように、イモが自分を守ろうとする。田村さんのジャガイモはその力がすごかった。試しにしょうゆをかけて食べたら餅そのもの。コース料理の前の「一口のお楽しみ」としてお客さまにお出ししたら、「珍しい」と喜ばれました。

田村 固定種の野菜は、いろいろな顔を見せます。見た目や繊維質などが毎回違いますから、たとえば「おでん用に」と頼まれても、いつも「おでん」に合うとは限らない。だから、そのつど野菜の個性を見極めて、特長を生かした料理を作ってもらえるのは、生産者にとって本当にうれしいことなんです。

富岡 米粉と餅粉も面白かった。フランス料理では両方とも使わないのですが、何とか挑戦したいと思って、ひらめいたのが「ダイコン餅」。最初は思うように固まらなかったのですが、試行錯誤を繰り返し、濃厚な味わいで甘みも深い一品を完成させました。今日のランチでお出ししますので、ぜひ味わってみてください。 

――二期倶楽部では、自家菜園で収穫するもののほか、全国から届けられる有機栽培や無農薬の野菜を使っているという。では、田村さんの生産した野菜の印象はどうなのだろう?

富岡 いろいろな産地の野菜を届けてもらっていますから、料理人として、とても幸せだと思っています。生産者によってそれぞれ個性がありますが、田村さんの野菜は「自然そのまま」という感じ。食べると“土の味”がする。

田村 出荷するとき、あまりゴシゴシ洗わないからかな(笑)。

富岡 田村さんの畑の土は安心して食べられるんですよ。だから野菜に土が付いていてもそのまま食べてしまいます。それに、なにより「おいしい」。

田村 それはうれしいですね。私は「自然栽培」という方法を選択していて、農薬はもちろん、化学肥料も堆肥も使っていません。
 農業を始めようと思ってから、さまざまな栽培法を調べた結果、無肥料・無農薬でリンゴを栽培している人のことを知りました。その人に会ってお話を聞いたときに、「これだ!」と思った。今も自分なりの自然栽培を模索しているところですが、その栽培法に適しているのが、自家採取した種から育てる固定種・在来種の野菜だと考えています。


――大地の力と植物が持つ本来の能力を生かして作られる、個性的な「固定種」の野菜。いろいろな味わいが楽しめるからからこそ、田村さんも富岡シェフも、心からそれを愛おしむのだろう。次回は、農家として、料理人として、それぞれの歩んできた道と、2人が出会うまでのお話です。

(構成・川島省子)

※この記事は、2015年6月8日に栃木県那須高原山麓・横沢地区で開催された「山のシューレ」(主催:NPO法人アート・ビオトープ)の、「食といのちのワークショップ」の内容を再構成したものです。
◇山のシューレ http://www.schuleimberg.com/
◇NPO法人アート・ビオトープ http://www.artbiotop.jp/
◇田村和大さんが代表を務める「Cosmic Seed」(種を自家採取する任意団体)
 http://cosmicseed.org/index.html
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【たむら・かずひろ×とみおか・りょういち】
【田村和大】1980年岩手県生まれ。 東京都内の企業に就職するも、過労のため退社。療養中に食の大切さに目覚め、2011年に帰郷して農業を始める。固定種の種を自家採取して自然栽培で野菜を育てる傍ら、「Cosmic Seed」を立ち上げてその普及活動に取り組んでいる。
【富岡良一】1966年福島県生まれ。高校卒業後、東京の老舗会館「上野精養軒」で修業。六本木のフレンチレストラン「ヴァンサン」などを経て2005年7月に栃木県那須町のリゾートホテル二期倶楽部のシェフに就任。素材を吟味し、より自然で健康な「食」を追求し続けている。
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