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美しいくらし
シーラさんと50の着物物語 着物研究家、十文字学園女子大学名誉教授
シーラ・クリフ
最終回 変わりながら続いていく、私たちと着物の旅
女性たちの生の声を聞くことで、今を生きる着物の姿をひも解いた箪笥開きプロジェクト。しかし現代の多くの人にとって、着物は身近な存在とはいえないのもリアルな実情です。それでも「なくしてはいけない」と思う人は少なくないはず。私たちはこれからどのように着物と一緒に歩いていくことができるでしょうか。

――着物は大切な文化である一方、長らく衰退の危機にあると言われ続けてきました。着物文化を守り伝えていくために、シーラさんは着物の今後にどのようなことを期待しますか?

着物の良さに、もっとたくさんの人が気づいてほしいですね。着物は単なる衣服ではありません。私の新刊『箪笥開き THE KIMONO CLOSET』を通して、着物の持っているさまざまな力に目を向けてもらえることを願っています。着物は日本にしかない、かけがえのない文化です。長い歴史の中で人々が培ってきた知恵や技術には、お金では計れない価値があります。そのかけがえのない文化を絶やさないためにも、日々研鑽を積みながら、新しい表現を生み出している現代の職人さんたちの仕事にも目を向けてもらいたいと思っています。

――シーラさんの大切な着物として、新刊の中では「職人の技が光る着物」も紹介しています。

箪笥開きプロジェクトで着物の購入傾向について聞いたところ、新品と中古品がほぼ半々という結果になりました。今はインターネットでもたくさんの中古着物に出会えます。私自身、リサイクルのリーズナブルな着物も大好きです。けれどもそれと同様に、今を生きる職人の技とセンスが詰まった着物にも心を奪われるのです。新品の着物には高価なイメージがありますし、呉服店に入ること自体「敷居が高い」とちゅうちょしてしまう方もいるでしょう。けれどもそうした着物を買う人がいなければ、大切に受け継がれてきた知恵や技術を後世に残していくことはできません。買い支えることも、文化の継承の一つの形だと思うのです。

継承という意味では、イギリス出身の私には祖母や母から受け継いだ着物がありません。ですから私は、2人の娘のために成人式の振袖をあつらえました。娘たちが次の世代へと受け継いでいくための新たなレガシー(伝統、遺産)を作りたいと思ったからです。制作を依頼したのは、友人でもある東京手描友禅作家の田邊慶昴さん。何度もやり取りを重ねながら数年がかりで完成した着物は、娘たちの個性と作家さんの感性を掛け合わせたような仕上がりで、家族の宝物になりました。

シーラさんが2人の娘のためにあつらえた振袖。
新刊では、この着物にまつわるエピソードも紹介しています


――「これは」というものに出会えるのは幸せなことだと思いますが、職人さんの技術の結晶ともいえる着物を手にするにはそれなりの覚悟がいりそうです……。

一枚でいいのです。人生の節目に自分の宝物になる一枚を手にし、それを次の世代に受け継いていく。それこそが着物の文化を守り、伝えていくことになると思うのです。
海外メディアでも、着物は絶滅寸前の文化だと報じられることがあります。ですが私は、着物は「変化している」のだと考えています。箪笥開きプロジェクトで、「着物好きな娘の影響で、母親である自分も着物を着るようになった」と語ってくれた方がいました。着物文化の継承ルートとして、子どもから親へという流れは珍しいようにも思えますが、意外とありえることかもしれません。
というのも、年齢層が高い世代には「着物=礼装」というイメージを持つ方が多いからです。その場合、着物を着るのは特別な日に限られます。しかし、世代が下がるほどその認識は変わっていくようです。若い世代は、ファッションとして着物を捉えている方が多いのです。着物が生活必需品ではない今の時代だからこそ、ファッション性がなければ着物を着ようと思わないのではないでしょうか。若い世代のような感覚は、これからの着物文化の継承に良い影響を与えてくれるのではないかと期待しています。

――正統派の着こなしから個性豊かなアレンジまで、さまざまな着物の楽しみ方に触れられるのも新刊の魅力ですね。箪笥開きプロジェクトを通して、シーラさん自身の着物の見方は変わりましたか?

なぜ自分が着物を好きなのか、なぜこんなにも着物に心ひかれるのか、その理由を再確認できました。一人ひとりのエピソードを聞くたびに、心の底から「あぁ、着物っていいな」と感じていました。家族の思い出が詰まったストーリー、着物で自分自身を表現したストーリー、職人の技にほれ込んだストーリー。一枚一枚に語るべきことがあるのです。それに、美しいものを身のまわりに置くと、心が豊かになりますよね。眺めるだけでもうれしくなる。お気に入りの布を愛でたり、家族との思い出を懐かしんだり……。着物は物質的なものとは別の豊かさで、心を満たしてくれるのです。

一枚の布の中に、文化、歴史、家族、さまざまなものが詰まっている。外側の美しさも素晴らしいけれど、内側にはプラスアルファの思いを秘めている。ひと言で表現するのは難しいのですが、それが私にとっての本当の着物の姿です。これからもたくさんの着物に出会い、もっと深く着物を知り、その魅力をたくさんの人と分かち合っていきたいと思っています。(おわり)


新刊『箪笥開き THE KIMONO CLOSET』の冒頭で、「ファッションは旅」だと綴ったシーラさん。50人の女性たちの物語は、時代とともに変わり続ける着物の旅の現在地を示します。ハレの日にとっておきの着物を着るうれしさも、普段着で毎日を彩る楽しさも、時には面倒で手間のかかるところも、すべて等身大の着物の姿。そこには、これから新しい着物物語が生まれるためのヒントがあるように思えます。

(構成:寺崎靖子)

『箪笥開き THE KIMONO CLOSET』
\刊行記念トークイベント/


着物に秘められた家族の記憶や人生の物語から、実践的な収納術、コーディネートのコツまで、着物の多彩な魅力をたっぷりとお届け。オンラインでの参加も可能です。

【日時】2026年6月11日(木)19:30~21:30

(19:00オンライン開場)
※トーク+質疑応答(90分)を予定。終了後に来店参加者限定でサイン会を開催します

【会場】本屋B&B


東京都世田谷区代田2-36-15BONUS TRACK2F+オンライン配信
※京王井の頭線「下北沢駅」西口徒歩10分、小田急線「下北沢駅」南西口徒歩5分、小田急線「世田谷代田駅」西口徒歩10分 ※東口(IC専用改札)から徒歩8分

【参加費※税込み】


・会場参加:2,750円(1ドリンク付き)
・配信参加:1,650円
・サイン入り書籍つき配信参加:4,400円
(1,650円+書籍『箪笥開き THE KIMONO CLOSET』2,750円)※サイン入り書籍はイベント開催後の発送となります

【主催】本屋B&B



◆詳細&申し込みはこちら⇒★

(本屋B&Bイベントページに移動します)

シーラさん待望の新刊・好評販売中!
『箪笥開き THE KIMONO CLOSET』


定価2750円(税込)
B5判・並製・128頁(オールカラー)

自由でカラフル、キュートな着こなしで、着物の新たな魅力と可能性を発信しているシーラさん。愛する着物についてもっと多くを知りたいと取り組んだのが、“秘密の場所”ともいえる女性たちの箪笥を開き、その隠された世界を記録する「箪笥開きプロジェクト」です。4年間で出会ったのは、20代から65歳以上までの50人の日本人女性と、合計2472枚の着物たち。これまでの人生と家族の歴史が詰まった一人ひとりの着物物語を、オールカラーの写真とともに紹介します。

★書籍の詳細・購入は⇒

こちら

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【Sheila Cliffe シーラ・クリフ】
1961 年イギリス生まれ。着物の歴史や技法に関する探究を続けながら、国内外で着物展覧会やファッションショーの企画・プロデュースなど多彩な活動を展開。2018 年に刊行した自身初の写真集『SHEILA KIMONO STYLE』(東海教育研究所)では、古着やアンティークを中心とした私服の着物コーディネートを紹介し反響を呼ぶ。「徹子の部屋」(テレビ朝日)、「世界はほしいモノにあふれてる」(NHK)など、テレビやCM、雑誌にも多数出演。2002年、民族衣裳文化普及協会の「きもの文化普及賞」受賞。2019~2020年「丹後ちりめん創業300 年」のアンバサダー。
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