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美しいくらし
シーラさんと50の着物物語 着物研究家、十文字学園女子大学名誉教授
シーラ・クリフ
第2回 物語が映し出す現代の着物事情
箪笥開きプロジェクトでは、幅広い世代の日本人女性50人を対象に、所有する着物の種類や入手方法、着物にまつわる悩み、お気に入りの着物エピソードなどを調査しました。プロジェクトを通じて出会った着物はのべ2472枚。一枚一枚に物語を秘めた着物たちは、現代のリアルな着物事情を教えてくれます。


――新刊『箪笥開き THE KIMONO CLOSET』の見どころは、なんといっても女性たちが語る十人十色の着物物語です。さまざまな年代の方々のエピソードから、時代ごとの暮らしの様子も感じられます。

年齢層が上がるほど「自分が子どものころ、祖母は日常的に着物を着ていた」と話す方が多いですね。「明治生まれのおばあちゃんはいつもおしゃれに着物を着ていた」「着物に割烹着で買い物に行っていた」といった思い出話をいくつも聞くことができました。同時に「母は普段は着物を着なかったが、ハレの日には着ていた」といった話も聞かれました。時代とともに着物が普段着から晴れ着へと変わっていく過程が見えてくるエピソードです。

一方、若い世代の「今は子育て中なので、あまり着物を着られない」「洗える素材のものだけ着ている」といった話には、現在進行形の着物と日常生活の関係性が感じられます。私も娘たちが小さいころ、着物を触らせないよう気をつけていたことを思い出しました。

――さまざまなエピソードの中でも、やはり家族との思い出は多くの方が語っていましたね。

「着物は血」だと語った方がいました。受け継いだ着物をきっかけに、それまで知らなかった家族の半生を知り、着物の糸の一本一本が家族をつなぐ血管のように思えたのだそうです。また、まさに家族のつながりを体現した着物を見せてくれた方もいました。「背が高く、なかなかサイズが合う着物がない娘のために、母方と父方、娘にとっての2人の祖母の着物をほどき、1枚の着物に仕立てた」というものです。着物ならではのエピソードですよね。

忘れられないのが、亡くなったお母さまの着物を大切に保管している、ある女性のお話です。ご本人は着物を着ません。若いころ、これから着物を楽しもうと思っていた矢先にお母さまの闘病生活が始まり、介護で着物を着る暇がなかったのです。その後お母さまはお亡くなりになりましたが、残された着物を部屋に置くことで、家族がそばにいるような気持ちになるのだそうです。切ないけれど、とても素敵なエピソードだと思います。

――受け継いだ着物は、家族そのものといえる存在なのですね。ところで、衣服を代々受け継ぐのは日本ならではの文化なのでしょうか。シーラさんの母国であるイギリスではどうですか?

4代にわたって受け継がれている着物

ドレスを受け継ぐ、といったことはめったにありません。家族から受け継ぐものといえば銀食器やアクセサリーです。
着物が時代を超えて受け継がれる理由の一つには、形状がシンプルであることが挙げられます。体型がある程度は違っても着られますし、洋服に比べるとサイズ調整も容易です。箪笥開きプロジェクトでも、何代にもわたって受け継がれてきた着物にたびたび出会いました。
もう一つは、流行に左右されにくいこと。洋服のようにデザインの流行り廃りが顕著でなく、昔の着物も小物のアレンジで今風に楽しめます。プロジェクトに協力してくれた20代のある女性は「おばあちゃんからもらった着物は落ち着いた色の普段着なので、小物を使って自分の好きな華やかなスタイルにして着ている」と話してくれました。

家族に限らず、無二の友人や、お世話になった方から譲り受けた着物を大切にされている方もいました。人から人へ、過去から現在へ、着物はさまざまなものをつないでくれます。

――シーラさんは以前から着物の魅力を伝えてきましたが、女性たちの体験談によってその実像がくっきりと見えてきたのですね。

着物は自分自身の思いや感性を表現するものでもあります。思い入れがある着物として「初めて自分のお金で買った着物」や「初めて自分の好みで選んだ着物」「作り手の素晴らしい技術に感動した着物」を挙げる方は何人もいました。それもまた素敵なことです。

ただ、思い入れの深さゆえに困ることもあるようです。特に家族から受け継いだ着物については、大切だからこそ捨てられない、収納場所がない、サイズが合わなくて着られない……といった悩みを抱える方が多くいました。家族から着物を受け継ぐのは素晴らしいことですが、そこには現実的な問題もあるのです。

――新刊には、着物の実態をデータで紹介するコラム「数字でひも解く着物事情」も掲載されています。これも見どころの一つですね。

収納方法はさまざま

着物の写真を貼った箪笥

各年代の着物にまつわる悩みも、箪笥開きプロジェクトで得られた興味深い発見でした。中でも年齢を問わず共通していたのが、「収納」の問題です。でも、収納方法は世代によってさまざまでした。特に若い世代では、正統派の桐の箪笥のほかに、プラスチックの衣装ケース、風呂敷、段ボールなど、さまざまな方法が見られました。どの方法が正しいということはありません。どれも着物と一緒に生きるための手段だからです。桐の箪笥には、「中身が見えないので不便」といった難点があります。そのため、箪笥に着物の写真を貼り、中に何がしまってあるかわかるように工夫している方もいました。暮らしの中に着物があるからこそ生まれる工夫も、生きた着物の姿だと思います。(つづく)

シーラさんがこの本の中で紹介する着物が生き生きとして見えるのは、そこに一人ひとりの思いがあるからかもしれません。語り手の女性たちは、年齢も、着物の好みも、着物との付き合い方もさまざま。色とりどりの人生の物語には、どの世代の方にとっても、共感や発見があるはずです。最終回では、着物のこれからをシーラさんと一緒に考えます。

(構成:寺崎靖子)

『箪笥開き THE KIMONO CLOSET』
\刊行記念トークイベント/


着物に秘められた家族の記憶や人生の物語から、実践的な収納術、コーディネートのコツまで、着物の多彩な魅力をたっぷりとお届け。オンラインでの参加も可能です。

【日時】2026年6月11日(木)19:30~21:30

(19:00オンライン開場)
※トーク+質疑応答(90分)を予定。終了後に来店参加者限定でサイン会を開催します

【会場】本屋B&B


東京都世田谷区代田2-36-15BONUS TRACK2F+オンライン配信
※京王井の頭線「下北沢駅」西口徒歩10分、小田急線「下北沢駅」南西口徒歩5分、小田急線「世田谷代田駅」西口徒歩10分 ※東口(IC専用改札)から徒歩8分

【参加費※税込み】


・会場参加:2,750円(1ドリンク付き)
・配信参加:1,650円
・サイン入り書籍つき配信参加:4,400円
(1,650円+書籍『箪笥開き THE KIMONO CLOSET』2,750円)※サイン入り書籍はイベント開催後の発送となります

【主催】本屋B&B



◆詳細&申し込みはこちら⇒★

(本屋B&Bイベントページに移動します)

シーラさん待望の新刊・好評販売中!
『箪笥開き THE KIMONO CLOSET』


定価2750円(税込)
B5判・並製・128頁(オールカラー)

自由でカラフル、キュートな着こなしで、着物の新たな魅力と可能性を発信しているシーラさん。愛する着物についてもっと多くを知りたいと取り組んだのが、“秘密の場所”ともいえる女性たちの箪笥を開き、その隠された世界を記録する「箪笥開きプロジェクト」です。4年間で出会ったのは、20代から65歳以上までの50人の日本人女性と、合計2472枚の着物たち。これまでの人生と家族の歴史が詰まった一人ひとりの着物物語を、オールカラーの写真とともに紹介します。

★書籍の詳細・購入は⇒

こちら

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【Sheila Cliffe シーラ・クリフ】
1961 年イギリス生まれ。着物の歴史や技法に関する探究を続けながら、国内外で着物展覧会やファッションショーの企画・プロデュースなど多彩な活動を展開。2018 年に刊行した自身初の写真集『SHEILA KIMONO STYLE』(東海教育研究所)では、古着やアンティークを中心とした私服の着物コーディネートを紹介し反響を呼ぶ。「徹子の部屋」(テレビ朝日)、「世界はほしいモノにあふれてる」(NHK)など、テレビやCM、雑誌にも多数出演。2002年、民族衣裳文化普及協会の「きもの文化普及賞」受賞。2019~2020年「丹後ちりめん創業300 年」のアンバサダー。
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