ハブカフェ店内のインテリアで最も悩んだのは照明でした。
店舗のイメージを大きく変える照明は、ここまで設計士や大工のみなさんの協力のもとに築いてきた店の個性、雰囲気をキッチリ仕上げるための重要な存在です。
選ばなければならないのは5席のカウンター上、そしてハブカフェの特等席となるソファ&テーブルの上部。あ、そうだ。入口の外部につける外灯も必要でした。
まず決まったのが、カウンター上部につける照明でした。選んだのは後藤照明という墨田区にある会社の製品。後藤照明は1895年(明治28年)創業の老舗。食器硝子の焼き付け加工から会社をスタートし、現在はクラシカルな照明の製作・販売を行っています。ハブカフェ店内のスペックを考慮しながらオンラインでカタログを見て選んだのは、丸みのあるオフホワイトの古風なタイプ。今でもお客様の中には「わぁ、懐かしい」とおっしゃる方も。
そして後藤照明のカタログでもうひとつ気になったのが、アンティークな透かしが入ったガラスのブラケット(笠)でした。19世紀のベルギーのウェディングドレスに施されたレースをモチーフにしたもので実に優雅。ひとつだけそんな愛らしい照明があってもいいかもと、ソファ席の候補にしました。

イラスト:高尾 斉(bit)
外灯には主に工事用照明器具の製造・販売をしている大阪の笠松電機の、これもレトロなタイプを選びました。島の潮っけのある風雨にさらされてもいい丈夫さと古民家の外観によりそう風情はまさに私が求めていた形。笠松電機も古くから工事関係者、デザイン関係者に愛されてきた照明器具メーカーでしたが、残念ながら数年前に照明器具事業から撤退。今、ハブカフェで使っている商品も手にはいらなくなったのがさびしい限りです。
結局、最後まで悩みに悩んだソファ席上の照明は後藤照明のアンティークブラケットに決めました。ところが! カタログで見ていたときは購入可能だったのですが、再度購入しようとアクセスすると「生産完了」の文字。すでに在庫もない様子で、やっと決めただけにショックが大きすぎました・・・。でも、そこであきらめるわけにはいきません。そこからはヤフオク、メルカリを含め各種ショッピングサイトに検索をかけまくりました。後藤照明ファンは多いようで、しばらくはまったく見つかりませんでした。そろそろ別の照明にしようかしら、と思い始めていたある日、ポンっとサイトに中古のアンティークブラケットが出ているではないですか。「現物限り」となっていたので急いで購入手続き。無事、購入完了で待つこと数日。伊豆大島に届いたそれは想像どおりのエレガントさで、みごとにソファ席の空間に溶け込んでくれました。
そんな日本のモノ作りの会社が作った照明たちは、築80年超えの古民家を今日もあたたかく照らしてくれています。(おわり)
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