好評発売中の新刊『東京、なのに島ぐらし』。著者の寺田直子さんが運営するハブカフェの味わいをより深めてくれる“名わき役たち”を3回にわたって紹介します。いずれも寺田さんのこだわりを感じさせるものばかり。イラストとともに、ハブカフェ・ワールドをお楽しみください。 手に入れた古民家の改装がついに終わり、入口の鍵を現場監督から返してもらったのが2020年も終わりの頃。ここから店主である私のカフェの空間作りと準備がスタートしました。まず、決めるべきはエスプレッソマシンの購入でした。これが本当に悩ましいものでした。
正直、一番悩みました。
紙のフィルターで淹れるハンドドリップはずっと自宅でも楽しんでいたので肌感覚でわかっています。お湯の温度や豆の量などを微調整していけばまぁ、大丈夫だろうと。問題はエスプレッソ。高温高圧で瞬時に豆からコーヒーの液体を抽出するエスプレッソには専用のマシンが必須。カフェラテのミルクフォームを作るのもエスプレッソマシンです。バリスタ教室に通ったのもマシンを使っての技術を習得するためでした。
悩んだ理由は色々ありますが、業務用のエスプレッソマシンはそれこそ千差万別、多種多様。どんな形態の店舗で一日にどれだけエスプレッソを抽出するか、ラテ用のミルクフォームもどれくらいの頻度で作るのか。そういったことを決めたうえで最も適した機種を選ぶ必要があるからです。どれくらいお客さまが来るのか、そもそも来てくれるのだろうか。そんな状況ですから本当に悩みました。

イラスト:高尾 斉(bit)
そして、最終的にハブカフェに迎えたのはイタリア・ロケット社のマシンでした。小型ながらパワフルな仕事ぶり。わずか8席のハブカフェにちょうどいい機種です。バリスタ教室の講師からアドバイスをいただき、日本の代理店で実際にパフォーマンスを試したうえでの決定です。
シルバーボディがまぶしいイタリア生まれの相棒は、お客さまからもよく見えるカウンターのとっておきのスペースに鎮座。エスプレッソの豆を挽き、ポルタフィルターという専門道具を装着してエスプレッソを一気に抽出。トロリとフィルターから注がれるエスプレッソは濃厚でコク深いおいしさが特徴。そこに大島牛乳で作ったミルクフォームを加えたカフェラテはハブカフェの人気メニューです。
実はさんざん悩んだ理由はもうひとつあります。業務用のエスプレッソマシンはとても高価なのです。トップブランドの大型機ともなれば新車1台が買えるほど。それゆえ慎重に選ぶ必要があったわけです。ロケット社はその中でも性能と値段のコスパがいいと判断。それでも導入した機種は島で購入した中古の軽自動車よりも高いものでした。ですから、一番怖いのはこの大切なマシンを盗まれること。でも、たぶん大丈夫。うちの相棒は重さが30キロ。小型ながら密度のある重量級。そうそう持ち運べるものではありませんからね。(つづく)
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定価2200円(税込)
新刊『東京、なのに島ぐらし』 訪れた国は約100カ国、旅歴約40年の著者が、セカンドステージの舞台に選んだのは、東京の離島・伊豆大島の古い小さな港町、波浮港。こよなく愛するコーヒーを相方に営む「ハブカフェ」は、いつしか地元の若者や観光客が集う「ハブ」として地域で欠かせない存在に。いくつもの偶然に導かれ、さまざまな人に出会いながら、新たな人生を醸し始めた著者の「島ぐらし」を綴ります。
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フランス観光開発機構の推薦に基づき厳選した美しい30の村々に加え、パリからアクセスがよいフランス北西部の風光明媚な5つの村を新規取材で書き下ろし。“旅のプロ”が案内するフランスの通な旅の入門書として、また、あたかも著者と一緒にまだ見ぬ村を訪ね歩くかのような紀行エッセイとしても、読み応えのある一冊。
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