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かもめアカデミー
「気質」に合わせてゆったり子育て 東海大学文学部教授
芳川玲子
第3回 子どもの心と社会性の発達
 第2回では、生まれながらに持っている9つの「気質」についてお話しました。自分の子どもはどんな気質なのか、ちょっと振り返っていただけましたか? それを念頭においたうえで、乳幼児期、児童期の子どもの成長過程について考えてみましょう。

人は集団の中で育つ
 先日、ある発達心理学者から面白い話を聞きました。太古の人間は「狩る人」ではなくて「狩られる人」だったのに、なぜ生き延びることができたのか? それは、人間は群れを作ることができたからなのだそうです。集団で村や建物を作り、互いに守り合ったからここまで生きてこられた。つまり、私たちはもともと集団の中で、仲間に支えられて生きる動物だということなんですね。

乳幼児期の子どもの成長
 子どもの成長には人の支えが必要です。子どもは怖いとき、親の後ろに隠れたり、服をつかんだりしますね。それは、「親のどこかにつかまっていれば安心だ」と思うからです。誰かに寄りかかったりつかまったりすることを、心理学では「愛着(アタッチメント)」と呼びますが、これは人間の本能です。

 成長するにつれて、今度は気持ちのうえで親に寄りかかるようになります。言葉や視線、あるいは同じ空間の中にいることで安心感を得るのです。この「心理的に寄りかかる場所」というのを、発達心理学では「安全感の輪」と表現しています。

資料提供:芳川玲子       


 子どもは、親に守られた安全な場所の中で育ちます。「あなたは、お父さんとお母さんの宝物だよ」というメッセージを送られることで、自分が愛されていることを感じます。そうした安心感の中で自信を得て、やがて、自尊感情、自己肯定感などのいわゆる自尊心が芽生えていきます。

 しかし人間はやっかいなもので、さらに成長するためには「嫌な気持ち」が必要です。自律心(自分をコントロールする力)は欲求不満から生まれます。人間は「嫌な気持ち」になると、それを解消するために努力したり工夫したりします。不快感が成長のエネルギーになるわけです。

 自律心の次には自己効力感が生まれてきます。自己効力感とは「私は人のために役に立つ人間だ」という感情で、児童期の子どもにとって非常に大切です。なぜなら、「人のために役に立った」と感じることが、さらに自尊感を高めることになるからです。

 他人を思いやり、人と心を通わせるための共感性も大切です。たとえば、転んでけがをして泣いている子どもに「痛かったね。でも大丈夫よ」と言って手当てをすれば、子どもは「自分の痛みをわかってくれた」と感じます。こうした交流から人を思いやる心が育つのです。

資料提供:芳川玲子       


児童期の子どもの成長
 子どものしつけは、たいてい3~4歳から始めます。人間社会の規範や規律、礼儀作法のほか、今の社会に合った立ち居ふるまいをトレーニングして、人と上手にかかわる方法を学んだうえで小学校に入るわけです。

 小学校は子どもにとって新鮮ですが、ショッキングな場所でもあります。学校は大きくて複雑な組織です。幼稚園や保育園とはまた違う環境ですから、大きなストレス。たとえば、「忘れ物をしちゃいけない!」と思うだけで緊張し、神経質になってしまう子どももいます。

 人間関係も大きく変わります。先生からの評価だけでなく、友だち同士の評判を気にするようになり、リーダーシップをとる子、リーダーに従う子に分かれていきます。仲間同士の関係が特に大きく変化するのは、3年生から4年生になるとき。これを心理学では「9歳の壁」と呼んでいます。
 
 小学校の5年生くらいになると、いわゆる思春期前期になり、男女の自覚も出てきます。それまでは一緒に遊んでいた男女が分かれるようになって、男は男らしく、女は女らしくと考えるようになっていきます。小学校の高学年になっても男の子とばかり遊んでいる女の子は、同級生からヤキモチを妬かれたり、ときには仲間外れにされる場合も出てきます。

 さらに役割意識も芽生えてきます。共感性がより成長して、他人の立場や気持ちが理解できるようになり、他人の立場で物事を考えて、自分はどうすべきかを考えるようになります。クラスの中で褒められたり叱られたりしながら、集団の中で自分の果たすべき役割は何か、どのように行動するべきかを学んでいきます。

 家庭では親が子どもを最大限に理解して受け止めていきますが、学校の先生は違います。先生の役割は、勉強のほか集団生活やチームワークなどを教えることですよね。こうした立場の異なる大人たちとかかわりながら、子どもは自分の役割を学んでいくわけです。

※環境の変化の中でストレスをかかえながら成長していく子どもたち。次回はそんな子どもから発せられたメッセージの受け取り方と、親からのメッセージの伝え方を紹介します。

(構成・川島省子)


※この記事は2014年12月18日に東海大学サテライトオフィス地域交流センター(神奈川県秦野市)で開催された、「To-Collaboプログラム地域連携講座 子どものこころの理解と対応~第1回児童期編~」の内容を再構成したものです。同センターは東海大学と地域社会を結ぶ情報交流の場として、さまざまなイベントを開催しています。
【東海大学サテライトオフィス地域交流センター】http://www.u-tokai.ac.jp/satellite/
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【よしかわ・れいこ】
1958年神奈川県生まれ。東海大学文学部心理・社会学科教授。医学博士、臨床心理士、学校心理士スーパーバイザー。専門は学校臨床心理学、教育相談。スクールカウンセリングや、学校風土と医学との連携などを研究している。共著に『教師のための学校教育相談学』(ナカニシヤ出版)。
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