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美しいくらし
東京、なのに島ぐらし トラベルジャーナリスト
寺田直子
最終回 そして旅は続く
 伊豆大島で好きな季節は秋。ツバキやオオシマザクラが咲く春や、生命力あふれる新緑のころも大好きです。でも、冬の気配を感じながら、移ろいゆく季節を五感で受け止める秋のはかなさ、美しさは格別です。中年から初老へ。自分の年齢と重なるようでもあります。

秋の三原山


 この時期、カフェが定休のときはよく三原山へ行きます。夏には暑すぎて登る気にもならなかった山を歩き、澄み切った空気とよどみなく晴れ渡った青空を見上げる爽快感。山肌に広がるススキが秋の斜陽にきらきらと踊るようにゆらぐ様子も心に染み入ります。あれだけたくさんいた観光客もすっかり少なくなり、見渡す限り誰もいない、ということもよくあります。
 心身をリフレッシュさせる自分だけの大切な時間です。

人気メニューのアフォガード

 思えば、20年近く伊豆大島に通うようになったのも、こんな自分だけの贅沢な時空間をいとも簡単に味わうことができるからでした。ちょっと時間があればポンっと船に乗って、あるいは飛行機で。さっきまで足早に人が行きかう雑踏の都心にいたのに、ほんの1時間半ほど(飛行機ならわずか25分!)で海と山の別世界にいることの不思議さ。島の中心にたたずむ三原山の圧倒的な存在感にも毎回、感動していました。お気に入りの居酒屋を見つけたり、言葉を交わす知り合いも増えたりと、ゆるやかに島の暮らしになじんでいく楽しさは格別でした。そんな中で今、暮らしている古民家と出会い、ついに島ぐらしを始め、さらにはそこでカフェを営むことになるのですから人生は面白いものです。

ハブカフェのある中通り

 島ぐらしをはじめて5年近く。自分が想像した以上にさまざまな出会いがあり、たくさんの予期せぬ体験をさせてもらいました。テレビドラマ『東京放置食堂』の舞台に店をお貸ししたのは最も大きな「事件」かもしれません。飲食店や観光施設が少なかった波浮港に唯一となるカフェをオープンしたことで、人と人が交流するきっかけ、新しいつながりが生まれていったことも手ごたえがありました。
 現在、波浮港では新しい宿泊施設や飲食店、ギャラリーといった小さいけれど個性ある施設が増えつつあります。港のレトロな風情と、観光としてのポテンシャルはずっと感じていたので、それに気づいてもらえたのかな、と嬉しい気持ちです。大好きな波浮港の魅力を一人でも多くの方にゆっくりと楽しんでもらいたい。その思いでずっと駆け抜けてきました。これからもハブカフェにたくさんの島の方、観光の方をお迎えして、自分だけのかけがえのない時間を過ごしてもらえたらいいな、と願っています。(おわり)

波浮港にかかる虹



WEB連載が本になります

『東京、なのに島ぐらし』

2024年10月下旬発売!


定価2200円(税込)

訪れた国は約100カ国、旅歴約40年の著者が、セカンドステージの舞台に選んだのは、東京の離島・伊豆大島の古い小さな港町、波浮港。こよなく愛するコーヒーを相方に営む「ハブカフェ」は、いつしか地元の若者や観光客が集う「ハブ」として地域で欠かせない存在に。いくつもの偶然に導かれ、さまざまな人に出会いながら、新たな人生を醸し始めた著者の「島ぐらし」を綴ります。

帯文は俳優・片桐はいり氏!
「波浮の港に放置された空き家がすてきなカフェになるまでの、これは詳しい記録で、ちょっとスリルなドラマです」

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【てらだ・なおこ】
トラベルジャーナリスト。東京生まれ。日本及びシドニーでの旅行会社勤務を経て、フリーランスライターとして独立。旅歴約40年。訪れた国は約100カ国。ホスピタリティビジネス、世界の極上ホテル&リゾートに精通。雑誌、週刊誌、ウェブ、新聞などに寄稿するほか、ラジオ出演や講演など多数。豊富な取材経験を活かし、インバウンドを含め日本の地方の活性化、観光立国化に尽力、関連セミナー、ワークショップ、講演などに登壇するほか、山口県観光審議委員(~2017)、青森県の観光アドバイザーを務める。2013年、第13回フランス・ルポルタージュ大賞インターネット部門受賞。JATA ツアーグランプリ審査員(~2018)。Yahoo!Japan ニュース・エキスパートとして「サスティナブル」「レスポンシブル・ツーリズム」を軸に最新の旅トレンドを発信中。著書に「ホテルブランド物語」(角川書店)、「ロンドン美食ガイド」(日経 BP 社 共著)、「イギリス庭園紀行」(日経 BP 企画社、共著)、「泣くために旅に出よう」(実業之日本社)、「フランスの美しい村を歩く」(東海教育研究所)など。「ホテルブランド物語」は韓国で翻訳出版され、ホテリエたちの教本的存在になる。現在、東京都・伊豆大島を拠点に執筆のかたわらハブカフェを運営。
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