
ハブカフェの特等席
古民家でカフェを営む。最近、こういうのって多いよね。そう思う方もいらっしゃるかと思います。当事者でなければ私もそう思います。でも、私が伊豆大島・波浮港にハブカフェを作ったのにはもう少し、深い理由があります。
ノー・コーヒー、ノー・ライフ(コーヒーのない人生なんて)。私にとってコーヒーは生活に欠かせない大切なもの。まさにコーヒー偏愛者です。

コーヒーソーサーに昔から集めていた印判皿を使うのも以前からのスタイル
中学生のころ、ある日、父親がコーヒーサイフォンを買ってきました。アルコールランプに火をつけてポコポコとお湯を沸かし、蒸気圧を利用してコーヒーを淹れる過程は魔法のようでした。技術畑の父は化学の実験のようなサイフォン式コーヒーを楽しんでいたのでしょう。私にも試させてくれることもあり、コーヒー豆から丁寧に淹れる時間の楽しさと、淹れたてのコーヒーの芳醇な香りがうっとりするほどかぐわしいものだということを知りました。インスタントコーヒーとは違う奥深きコーヒーの世界でした。
フラットホワイト、カフェラテ、カプチーノ、マキアート…。そんなコーヒーの種類を知るのは20代半ば。オーストラリアで暮らすようになったときでした。カフェカルチャーが盛んなオーストラリア、なかでもメルボルンにはそれはステキなカフェがたくさんあります。他民族国家であるオーストラリアはイタリアやギリシャ、ベトナムなど各国の人たちが暮らすエリアがあり、そこではイタリア式の濃いエスプレッソや、たっぷりコンデンスミルクを加えたベトナムコーヒーなど、国によってこんなに淹れ方は変わるけれど普遍的に愛されているコーヒーは日常を彩る存在なのだとあらためて認識したものでした。
驚くほど美味しいカフェラテを飲んだのもメルボルンでした。聞けば地元のフレッシュで濃厚な牛乳を使っているからとのこと。良質な食材、生産物がコーヒーをこれほどまでに美味しくするのかとうなったものです。

メルボルンのカフェ

カフェの店内(メルボルン)
独立してフリーランスとして事務所を構えた際、真っ先に購入したのがカフェラテやエスプレッソも作れるコーヒーメーカーでした。当時はお金がなかったので安い中で良さそうなものを一生懸命探したことをおぼえています。それと気に入った豆を淹れるためのハンドドリップ用のドリッパーと呼ばれるガラス器具。朝、起きたらまず一杯。これがないと一日が始まりません。
執筆で事務所にこもっているときはキリのいいタイミングでリフレッシュを兼ねてコーヒーを淹れる。常時、2~3種類の豆を用意して多いときは一日に7、8杯ほど飲んでいました。

愛用のエスプレッソマシン
お湯を沸かし、豆を挽く。
ふわりとかぐわしい挽きたての豆から立ち上るなんともいえないふくよかな香り。静かにお湯を注いでいくとぷっくりと豆がふくらみはじめ、内に閉じ込めていたうま味がじわりじわりと液体として落ちていく。美味しく感じないときは疲れていたり、風邪気味だったりと体調を教えてくれるのもコーヒー。季節によってコクのある深入りや、サッパリした浅煎りなどあれこれと豆を変えて楽しんでいましたが、こういったコーヒーをたしなむスタイルが今のハブカフェの原型といえます。

ラテの練習
事務所でも旅先でも。コーヒーがない生活は考えられません。逆にいうと世界のさまざまな場所、国でコーヒーは愛されているということ。波浮港の古民家を見つけたときも、「ああ、この場所で美味しいコーヒーが飲めたらいいなぁ」とスッとアイデアが降りてきました。
私がいままでしてきたように、一杯のコーヒーのくれる幸せな時間を波浮港に来られた方にもおすそわけしたいとシンプルに思ったのでした。(つづく)