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美しいくらし
五感が目覚めるサバンナライフ 南アフリカ政府公認サファリガイド
太田ゆか
第3回 自然のサイクルの中で体感する
 太田ゆかさんがサファリガイドを務める南アフリカのクルーガー国立公園エリア。ここでは、ラグジュアリーなツアーから、ガイド訓練学校での生活を体験できるサバンナスタディツアー、スリリングな冒険を満喫できる野宿トレイルツアーまで、さまざまなスタイルのサファリが用意されています。学びのあるツアーを提供し、誰よりも率先してサファリを楽しむことをモットーとしている太田さんのおすすめは野宿トレイルツアー。自然のリズムとともに過ごすことで、現代人にとってうれしい変化が生まれると言います。


予測不能の出会いを楽しむ
 ありがたいことに2023年は、毎日のように日本からお客さまが来てくれて、私もずっとサファリをしていました。そして毎回、全く違う展開になります。その日歩いてみるまで、どんな生きものに出会えるのか、私たちガイドにも予測できないからです。
 大木の立つ角を曲がったらその裏にはゾウがいるかもしれないし、ライオンがいるかもしれないし、何もいないかもしれない。野宿するために歩きながら見つけた木の下を寝床にすることもあれば、次にその木を目指して行っても、すでに様子が変わっている。毎回違う内容になるのもサファリの魅力だと思います。もちろん、その場所の傾向を狙って行くのですが、同じ状況を提供することは約束できないので、そこは運次第となってしまいます。

ウオーキングサファリ中にカバの群れに遭遇

世界最大のカタツムリ、アフリカマイマイ


 ただ、どんなパターンであっても、皆さんとても満足されます。初めてサバンナを歩く人たちにとっては、どんなこともすごく楽しいし、魅力的なのですね。出会ったものがカメレオンだったり、バッタやオオヤスデなどの虫だったり、動物のフンだったり、あるいは生きている動物ではなくて死んでしまった動物であっても。むしろ、死骸に遭遇することのほうが珍しいので、「弱肉強食の世界を感じる」と感動してくれます。

 サファリの人気者ともいえるゾウやライオン、キリンなどの大型野生動物以外にも、たくさんの見どころがある。それもサファリの魅力のようです。「生態系の一員になる」感覚は、どの野生動物と出会えるかとは関係なく得られるものだと思いますね。
野宿で変わる睡眠と時間感覚
 実は、野宿すると睡眠時間が延びるんですよ。テントなしでサバンナの大地に寝袋ひとつでも、「人生で一番の快眠だった」という声もあります。初日は緊張感や恐怖感があるので眠れない人も多いのですが、2、3日目になると「こんなによく眠れたことはない」と驚かれます。不眠症に悩んでいる人ですら、自然のサイクルにうまく入っていくと快眠できるようになる。夜は安全確保のために交替で常に一人は起きてるので、夜番のときは少し寝不足になってしまうかもしれませんが、それ以外の時間は眠りの質が違うようです。毎回、皆さんから快眠の報告をもらうたびに、「そうでしょう?」と私はうれしくなります。


 さらに、時間の感覚という面では、時計を見ないほうがより敏感になれると思います。本来、時間は時計で見たり計ったりするのではなくて、「察する」ものなのですね。時計を見て焦って動くのではなく、太陽の動きや動物たちの様子から時刻を察知して行動する感覚。これも、かつて人間が持っていた感覚だろうと思います。その感覚をゲストの皆さんに体験してほしくて、野宿ツアーでは時計を皆さんから預かる企画にトライしたこともあります。

もう一人のガイドと火を起こす

 訓練学校でも、時間の分かるデバイスを一切持たずにフィールドに出る実習がありました。朝も時計を見て起きるのではなく、太陽が出たらみんな自然と目を覚まします。日の出とともに片付けをして歩き始めて、日が高くなって暑くなってきたら日陰に入る。陽が落ちてきたら、薪を集めて寝床を見つける。それを4日間、5日間、1週間と続けると、全く違う時間感覚で生きられるようになります。「太陽とともに起きて寝る」という、人間が太古の昔から続けていた生活を試してみるのは、時間の捉え方が変わる貴重な体験になると思いますね。

 でも最近は、皆さん写真を撮りたいからスマートフォンを持っていて、結局時間が分かってしまう。「デジタルデトックスをぜひやりたい」という要望もあるのですが、スマホで写真は撮りたいですよね? 私自身も写真だけはまだ譲れなくて、どうしたらいいんでしょう(笑)。そこが悩みどころなのですが、時計を見ない生活はとてもおすすめです。

美しい星空の下で出会ったオスライオン

 サバンナでは電気が来なかったり、暑かったりといった不便があっても、夜はライオンの遠吠えや、ゾウが水を飲んでいる音を聞きながら眠りにつく。そういった自然の中にいる感覚には、ヒーリング効果のようなものがあります。どんなに疲れていても、自然の癒しや力強さを感じられる場にいると、エネルギーがチャージされていく感じです。もちろん、すごく暑い場所からクーラーのある部屋入ったら、気持ちよくて感動するのですが(笑)。都市生活での快適さは、自然の中で癒される心地よさとは全く違うものなのですね。

 南アフリカのサバンナに住んでいると話すと、「そんなに危ないところによく住んでるね」と言われることがあります。でも、実際にサバンナに来てみたら、「こんなに平和なんだ」と感じると思います。生態系の中で生きていくための感覚や振る舞い方を備える必要はありますが、サバンナにはとても平和な世界が広がっているのです。(つづく)

――大自然のサイクルの中で過ごすことで起きる変化は、五感にだけでなく、睡眠や時間感覚にまで及ぶ……まさにサバンナでしかできないワイルドな体験です。私たち人間にとっても大きなパワーを秘めたサバンナ。その中で、太田さんは今、動物たちの危機を痛切に感じていると言います。次回は、サバンナの生態系が抱えている問題と現状について語ってもらいます。

(写真提供:太田ゆか、構成:尾高智子)

★太田ゆか オフィシャルサイト【Yuka on Safari】⇒ https://yukaonsafari.com/about/
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【おおた・ゆか】
1995年アメリカ、ロサンゼルス生まれ。神奈川県育ち。立教大学観光学部在学中に南アフリカ共和国のサファリガイド訓練学校に入学。日本人女性で初めて南アフリカ政府公認サファリガイドの資格を取得する。2016年からクルーガー国立公園エリアでサファリガイドの活動をスタートし、野生動物保護や密猟対策の活動にも取り組む。現地の様子をサバンナから生配信するバーチャルサファリをはじめ、Podcast やYouTube、SNSなどでも発信し、サバンナの魅力と現状を日本にも伝えている。著書に『私の職場はサバンナです!』(河出書房新社)。
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