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美しいくらし
直径9センチに込めた技と情熱 陶芸家
ブルーノ・ピーフル
最終回 この輝きを、いつまでも
 ブルーノさんの熱意と、たくさんの人たちの協力でついに形になったメダルプロジェクト。東北の工芸家の技と思いが詰まったメダルたちは、実に多彩な顔触れです。制作上の主なルールはサイズのみ。9cm×9cm×2cm以内に収まれば、素材は自由、形も円形に限りません。

世界にたった一つの個性豊かなメダルたち

 

多彩な工芸の技で作られたメダルたち

 陶芸、ガラス、七宝、木工、金工、鋳物……。素材も技法もバラエティーに富んだメダルがずらりと並べば、工芸技術を集めた立体図鑑のよう。手のひらサイズの小さな世界に、その土地の伝統や風土、作り手の発想と表現が凝縮され、どれ一つとして同じものはありません。中にはブルーノさんが予想していなかった作品も。「驚いたのは布製のメダル。皆さんいろいろな素材を使われるだろうとは思っていましたが、布でメダルを作るとは全く頭に浮かびませんでした。集まったメダルは、私が想像していた以上のものでした」

「平和」をテーマにしたブルーノさんの創作メダル

 ブルーノさん自身は「平和」をテーマにメダルを制作。子どもから大人まで多様な人たちが手をつなぎ、丸い地球を囲むデザインに「戦争や人種差別のない、平和な世界になるように」との願いを込めました。素材はもちろん大石田の土。規定サイズを決める前から、大きさや釉薬の有無など、数十個のパターンを試作したのだとか。形も円形、四角形、五角形とバリエーションをつけて制作しました。

新しい表現を生むコラボレーションの可能性


 山形の工芸家5名の合作も見どころです。ドーナツ状の外枠は陶器製で、制作者はブルーノさんです。その表側を飾る組子の蓋は、伝統建具職人の伊藤曻さんによるもの。裏側にはこけし職人の伊豆徹さんが制作した木製の蓋を合わせ、漆工芸家の江口忠博さんが螺鈿の装飾も施しました。さらに表裏の蓋の間には、刀匠の上林恒平さんが手がけた装飾パーツを格納。組子の透かしの奥で鈍い金属光を放ちます。最後に江口さんが各部位を漆でつなぎ、一つのメダルに仕上げました。

陶芸家、建具職人、こけし職人、刀匠、漆芸家の技を結集した合作メダル。それ
ぞれの技法で作り上げたパーツを組み合わせ、見事に一つのメダルになっている


 作家同士がコラボレーションしたその意図について、ブルーノさんはこう話します。「ものづくりはどれも歴史が長く、時代とともに進化していますが、焼き物なら焼き物、漆なら漆と、それぞれの分野での進歩に留まっていることが多いように感じます。異なる素材を掛け合わせて新しいものが生まれれば、作る側も見る側も面白いし、新しい発見がある。日本のものづくりのレベルアップにもつながるでしょう。一人で物を作ることに慣れていると、はじめは戸惑うかもしれないけど、すごく大事なことだと思います」

 こうした合作が数多く生まれることを期待したブルーノさんですが、実際には居住地や調整の問題でたくさんのコラボレーションにつなげるのは難しかったそう。その中でも「刺し子×木工」「油彩×漆」あるいは「3Dプリント×漆」など、異なる素材の組み合わせや、デジタルと伝統の融合に挑んだ独創的なメダルが誕生しました。

直径9cmの世界が見せるものづくりの面白さ


フランス大使館でのメダル贈呈式の様子(写真提供:玉田俊郎)

 新型コロナウイルスの影響で、各国へのメダル贈呈も大きく予定を遅らせましたが、2021年にフランス大使館で行われた贈呈式にはブルーノさんも参加することができました。コロナ禍であらゆるつながりが途絶えていたこともあり、メダルを通じて生まれた交流は非常に喜ばれたそう。美しいメダルと、そこに込めた感謝の思いを直接届けたこの日、いつまでも話が絶えることはありませんでした。

 2023年に仙台でのメダル展示会を終え、プロジェクトは一つの区切りを迎えました。今後は、機会があれば山形でも展示会を開催できたらと考えているとか。しかし「これからやってみたいことは?」との質問には、「いやいや、簡単には言えない。『また大変なことが始まるのか』って皆に言われちゃうから(笑)」と控えめなブルーノさん。「今は世の中が不景気ですし、もう少し余裕がある時代ならいろいろな試みも受け入れられやすいけど……ものづくりは本当に大変ですよ」

「もしも全国各地にご当地工芸メダルができたら面白い。コレクターが現れるようになれば最高だね」と話すブルーノさん

 それでも、一つひとつのメダルの魅力を教えてくれるとき、ものづくりの楽しさを語るとき、ブルーノさんの瞳は生き生きと輝きます。
 「プロジェクトを通して全く知らない人たちが出会って、いろいろな考えに触れられたことは、よい機会だったかなと思います。わずか9cmという小さな空間で、皆がそれぞれ腕をふるって、いかに自分の個性を生み出すか。それはやっぱりすごく面白いよね」

 ものづくりの厳しい現状を背景に、さまざまな葛藤もあったプロジェクト。しかし、工芸家たちの磨き上げた技と豊かな発想が詰まったメダルを前にしたとき、ただ感じるのは、人の手で生み出したものが持つ圧倒的なパワーとその美しさです。この輝きを10年先、100年先へとつないでいくためには何ができるだろう。色とりどりのメダルたちは、私たちにものづくりの未来を問いかけているようです。(おわり)

――ブルーノさんに「そもそも陶芸を始めたきっかけは?」と尋ねると、こう教えてくれました。「初めて陶芸を見たとき、自分の指だけでモノを作っていく姿にすごく感動したんです。ろくろと粘土と自分の指だけ。あとは何もない。そこからこんなものが作れるなんて、マジシャンか魔法使いみたいだなと思って。自分も下手くそなマジシャンでもいいからなりたいな、と思ったんです」。思うままに発想を形にし「焼き物で作れないものはない」と話すブルーノさんは、まさにマジシャン。これからもワクワクするような魔法を見せてくれるに違いありません。

(構成:寺崎靖子)
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【ブルーノ・ピーフル】
1957年フランス西部のル・マンに生まれる。陶芸の道を志し、76年からシャルトルのPoteries du Maraisで修業したのち、80年に来日。栃木県益子町の島岡達三氏に師事する。82年には銀座たくみにて卒業展を、84年にはパリで個展を開催。以降、国内各地で個展を開催する。85年に山形県大石田町に移り住み独立。創作活動のほか、地元小中学校で陶芸教室を開催するなど、地域の陶芸文化育成に取り組んでいる。
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