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美しいくらし
直径9センチに込めた技と情熱 陶芸家
ブルーノ・ピーフル
第1回 東北に根を下ろしたフランス人陶芸家
 2023年夏。宮城県仙台市のギャラリーで、小さな展示会が開かれました。会場に飾られたのは、素材もデザインもさまざまなメダルの数々。2020年東京オリンピック・パラリンピックに合わせて行われた『東北復興メダルプロジェクト』に賛同した、東北の工芸家たちが創作しました。同プロジェクトは、2011年に起きた東日本大震災の際に世界の国々から寄せられた支援への感謝を、創作メダルに込めて届けようというものです。発起人となったのは、山形を拠点に活動するフランス人陶芸家ブルーノ・ピーフルさん。長年にわたり日本で創作活動を続けてきたブルーノさんに、日本との出会いやメダルプロジェクトの構想、実現までを聞きました。

東北復興メダルプロジェクトのポスター
(写真提供:玉田俊郎)


個性豊かな陶芸文化にひかれて日本へ


 陶芸家を志してフランス中部の町シャルトルで修業を積んでいたブルーノさんが、初めて日本を訪れたのは22歳のとき。日本独自の陶芸文化に興味をひかれたのがきっかけだと言います。

 「日本の陶芸はフランスの本でもよく紹介されていました。面白いと思ったのは、産地がたくさんあること。フランスにもセーヴルやリモージュなど有名な陶磁器がありますが、主要な産地は数えるほどです。一方、日本には100以上の産地があり、それぞれの個性がはっきりしている。それを自分の目で見てみたいと思ったのです」

フランス出身の陶芸家、ブルーノ・ピーフルさん


 1カ月間の予定で来日すると、京都、伊賀、信楽、備前、有田、伊万里といった日本を代表する焼き物の産地を次々に訪問。「日本の方に親切に案内してもらったり、産地のことを教えてもらったり。陶芸に興味を持っている方も多くて、いいことばかりだったね」と、多くの出会いに恵まれたブルーノさん。土地ごとの特色ある焼き物にふれるたび、「もっと時間をかけて学びたい」という気持ちが大きくなっていきました。日本滞在の最後に訪れた栃木県・益子町で、のちに人間国宝となる陶芸家・島岡達三氏に出会うと弟子入りを決意。翌年改めて来日し、以降日本で陶芸の道を歩んでいくことになります。

大石田を陶芸の町にしたい


山形県のほぼ中央に位置する大石田町

 現在ブルーノさんが自宅兼工房をかまえるのは山形県の大石田町。最上川の雄大な流れと周囲の山々の景色が美しく、冬にはすっぽりと雪に包まれる自然豊かな町です。

 約40年前、益子で2年間の修業を終えた後、自身の創作の地を探した末に選んだのが大石田でした。決め手は「土」。大石田はガラスの原料となる硅砂(けいしゃ)の産地で、その精製工程で作陶に適した土が豊富に採れるのです。
 「土がたくさんあるほど、いろいろなものが作れます。そう思うと夢が膨らむじゃない? 焼き物が盛んな地域ではないことも、求めていた条件に合っていました。すでに有名な陶磁器がたくさんある場所よりも、そうではない場所で新しい産地を作るほうが面白そう。新しい陶芸仲間もできたらいいなと思いました」

 以来、それまで陶芸になじみがなかった大石田に、少しずつ陶芸文化を根づかせてきたブルーノさん。地元の子どもたちを対象に毎年開く陶芸教室は、移住から間もなく始めた活動で、今や35年以上続く恒例の学校行事になっています。12年前には、同じように土にほれ込んで、大石田に移住した陶芸家仲間もできたそう。「大石田を陶芸の町にしたい」という夢を少しずつ形にしてきました。

焼き上がったばかりの子どもたちの作品。3日がかりの本焼き作業は地元有志の協力で行われる

使用する窯は、移住後ほどなくブルーノさんが同世代の地元の若者たちと一緒に作ったもの


「変わる」を楽しむ工芸家の新しい挑戦


ブルーノさんが作る「大石田焼」のコーヒーカップ。素朴な土の風合いと薄く軽やかな質感は、大石田の土だからこそ出せる味

 ブルーノさんのものづくりは自由そのもの。コーヒーカップや花瓶などの日用品からメッセージ性を込めたオブジェまで、動物や乗り物をモチーフにしたり、ときには不思議な生き物を創造したり、豊かな発想を10本の指に委ね、自在に形にしていきます。「いつも何かしら発想の種が転がっていないかと探しています。一つのものを作っても、もっと面白く、もっとよいものにするには、と考える。考えるほどに変化していく。それが面白いですね」

仙台で開催したメダル展示会の様子(写真提供:玉田俊郎)

 そんなブルーノさんが、東京オリンピック・パラリンピックに合わせて近年取り組んできたのが『東北復興メダルプロジェクト』。陶芸家や木工芸家、金工芸家、ガラス工芸家、染色家など、東北で活動する工芸家たちがそれぞれの技で直径約9cmのメダルを作り、東日本大震災時に被災地を支援してくれた国や地域に感謝の印として贈るというものです。ブルーノさんの発案から7年、プロジェクトの主旨に賛同した70名の無償の協力によって、27カ国に届ける61個のメダルが完成。さらにメダルは展示用も作られ、これを披露したのが2023年に仙台で行われた展示会です。多彩なメダルを通じて東北と世界をつないだプロジェクトですが、これまでに例のない試みは困難の連続だったと言います。(つづく)

――日本という異国の地に飛び込み、陶芸文化がなかった大石田を作陶の地に選んだブルーノさん。作品についても「どちらかというと、同じものを作り続けるのは苦手。どんどん変化させたい」と話し、枠にとらわれない発想で創作活動を続けてきました。その中で生まれたのが、新たな挑戦となるメダルプロジェクト。次回はその舞台裏を探ります。

(構成:寺崎靖子)
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【ブルーノ・ピーフル】
1957年フランス西部のル・マンに生まれる。陶芸の道を志し、76年からシャルトルのPoteries du Maraisで修業したのち、80年に来日。栃木県益子町の島岡達三氏に師事する。82年には銀座たくみにて卒業展を、84年にはパリで個展を開催。以降、国内各地で個展を開催する。85年に山形県大石田町に移り住み独立。創作活動のほか、地元小中学校で陶芸教室を開催するなど、地域の陶芸文化育成に取り組んでいる。
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