日本の恵み豊かな海を守る、そして世界のどこにもない日本独自の食文化を未来につなげるために、私たちに今できることがあるのでしょうか?―― 日本の漁業の深刻な状況をうかがっていると、私たち消費者も何か行動を起こさなければという気持ちになってきます。
日本初のマガキMSC認証を取得したマルト水産株式会社の養殖場を訪問

水産養殖にテクノロジーを用いたシーフードブランド「うみとろん(旧:うみとさち)」
サプライチェーンの中で強い力を持っているのは、日本の場合、消費者です。特にスーパーマーケットなどは消費者の動向にとても敏感です。水産資源や環境に配慮した魚を選ぶ消費者が多くなれば、たとえばそうした認証ラベルの付いた魚を積極的に売り場に取り入れようと考えるでしょう。ただ、難しいのは、現在の日本には、「サステナブル(持続可能)な魚だから食べてください」と言える魚がほとんどないことです。第三者機関によってサステナブルであると認証された魚も販売されていますが、流通量が圧倒的に少ないのです。
それ加えて、昨今は生活スタイルや嗜好の変化などから食事の欧米化が進み、魚離れに拍車をかけます。一般の人たちが魚への関心が減ってしまうのは、ますます状況を悪化させかねません。
こうした状況であっても、皆さんにお願いしたいのは、魚を食べ続けることを諦めないでほしいうことです。マーケットを動かす消費者が支持してこそ、日本の海を守るための水産改革は必ずできると信じています。
――店の売り場では養殖魚も多く見かけます。海で魚が獲れなくなるのなら、養殖する魚を増やせばよいのではないでしょうか?
IT技術を使い環境に配慮した養殖が導入されている養殖場
実は養殖魚が持続可能とは一概に言えません。一例として、日本の養殖はブリやカンパチ、マダイ、クロマグロといった魚が主流ですが、これらの魚は成長するために大量のイワシやサバなどのエサを必要としています。つまり養殖のために大量の魚を獲らなければならないのです。ですから養殖魚に関しても、持続可能性を高めるための新しい取り組みが行われています。
例えば、IT技術を使って環境負荷を減らした魚の養殖に取り組んでいる「ウミトロン」というベンチャー企業があります。この会社ではAIを使って魚の食欲を判定し、餌量やスピードを最適化、制御して育てる試みをしています。これにより、エサを無駄にすることがなく、余ったエサで水質を汚すこともなくなります。こうして養殖された魚を「うみとろん(旧:うみとさち)」というブランドで売り出していて、私たちはレシピの提供やイベントなどでこのブランドに協力しています。
――日本の海を守る。その視点でいつもの鮮魚売り場を見渡せば、新たな発見がありそうです。できることからぜひ始めてみたいです。 選ぶことは投票をすること。スーパーを訪れて鮮魚コーナーを見れば、そこには外国から輸入した魚があふれていて、日本の海で獲られた魚がわずかなことに気づきます。いつもの買い物の中で、何回かに1回はきちんと魚を選んで買うこと、それが私たち消費者ができる小さな一歩です。初めは小さな波かもしれませんが、それが大きな波になっていけば、無関心を関心に変え、それがやがて行動となり、水産資源の保全を後押しすることになるでしょう。
私たちは魚を獲るなと声高に訴えるつもりはありません。漁業者に始まる水産サプライチェーンのさまざまなステークホルダー(利害関係者)とともに手を携えながら、魚ともに育んできた日本独自の魚食文化を次世代へとつなげていけたらいいなと考えています。(おわり)
70年ぶりに漁業法が改正され、持続可能な漁業を目指して日本の漁業が大きく舵を切ったとはいえ、まだ、その流れは始まったばかりです。この変わりつつある流れが「きっといい方向に向かいます」と力強く語ってくれた佐々木さん。日本の豊かな海を守るために日常的な買い物の視点を少し変えるだけで、私たちもささやかなエールの風を起こせるかもしれません。【Chefs for the Blue(シェフス フォー ザ ブルー)】の公式サイト
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https://chefsfortheblue.jp/(構成:小田中雅子、写真提供:Chefs for the Blue)