× close

お問い合せ

かもめの本棚に関するお問い合せは、下記メールアドレスで受けつけております。
kamome@tokaiedu.co.jp

かもめの本棚 online
トップページ かもめの本棚とは コンテンツ一覧 イベント・キャンペーン 新刊・既刊案内 お問い合せ
食べるしあわせ
食卓から魚が消える前に シェフス フォー ザ ブルー代表
佐々木ひろこ
第2回 日本の水産資源が危ない!
 日本の海で起きていることをもっと知ろうと、佐々木さんの呼びかけで深夜の勉強会が始まりました。集まった顔ぶれは有名レストランガイドに名を連ねているようなトップレストランのシェフばかり。今すぐにも行動を起こさなければというシェフたちの熱い思いが、勉強会から社会に働きかける運動へと実を結んでいきます。

――シェフス フォー ザ ブルーは2017年に結成され、活動を始めました。最初の周囲の反応はいかがでしたか?

キッチンカーのイベントに参加したシェフやスタッフと

一般向けトークショーを開催

 勉強会で学んだことを発信しようと、まず2017年に東京・青山で開催されたファーマーズマーケットにキッチンカーを出店しました。料理人たちが、環境に配慮した魚「サステナブル・シーフード」を使った料理6種類、450食を提供し、その後に研究者も招いてトークショーも開催するという内容です。このときに使ったサステナブル・シーフードは、海の資源や環境に配慮した漁業で漁獲される水産物や、環境負担が少なく地域社会に配慮した養殖業で生産される水産物です。
 シェフス フォー ザ ブルーが主催した初めてのイベントでしたが、料理はあっという間に完売するほどの大盛況。記事に書いてもらおうと、張り切ってメディアにいる多数の知人をイベントに招待しました。が、どこも記事に取り上げてくれませんでした。企画を出しても編集部に理解してもらえないというのです。そのころは、まだマグロやウナギなど一部の魚に関して、漁獲量が減っていることが騒がれていたぐらいで、メディア関係者の中にも「水産王国日本」そのものが揺らいでいることに気づいている人は少数。その後も料理人たちとセミナーやトークイベントを開催しましたが、取材にも来てくれません。心が折れそうな日々でした。

――最初は何をやっているのかなかなか理解されなかったシェフたちの思い。それにも負けずに活動を重ねてきたのですね。

シェフス フォー ザ ブルーのメンバー・石井真介さんがサステナブルシーフードのレストラン「シンシアブルー」を2020年にオープン。写真はその店で提供された、千葉県産のスズキをパイ包み焼きにした料理

 社会の風向きが変わったなと感じたのは、2020年9月にメンバーのシェフの一人が、環境に配慮した魚しか扱わないフランス料理レストランをオープンしたときです。そのとき、コロナ禍にもかかわらず、東京の民放テレビ局や主要な全国紙各社といった大きなメディアから、レストランの取材にはあまり来ない環境関連のメディアまで2カ月間で50社以上が取材に訪れました。環境はもちろん経済や生活、社会などさまざまな角度から取り上げていただきました。
 たった3年間でこんなに変わるのかと感動した瞬間でした。この流れの変化には、SDGsへの注目や漁業法の改正の影響があったかと思います。

――2020年、70年ぶりに改正された漁業法の施行によって、社会がようやく海の危機に目を向けるようになったのですね。

 この法律で画期的だったのは、水産資源を適切に管理することがしっかりと条文に明記されたことです。国が持続可能な漁業へと舵を切った瞬間でした。ただ、これで現場が劇的に変わったというわけではありません。この法律は漁業生産に関する指針を示しているだけなので、実際に海を守るためには、漁業現場での細かなルール作りが必要。今も水産関係者たちの間で話し合いが続けられているところです。
 しかし、これまでの“海の幸に恵まれた日本”というイメージが危機にさらされているということにメディアをはじめとした多くの人が気づき始め、関心を寄せるようになりました。社会がようやく海の危機に目を向けるようになったのです。

―― 料理人による活動に期待を寄せる声も多いのではないでしょうか?

 日本の漁業が危機を迎えた原因の一つに、地域の人たちが自分たちの海に興味関心を持てなくなっていることがあると思っています。近年は、地方で水揚げされた魚はほとんどが大都市の市場に運ばれ、地元の消費者にはなかなか出回らないことが多いのです。ですから、そこで暮らしている人たちは、地元の海がどうなっているのかに関心が薄く、実情を知らなかったりします。その中で、地元の海の異変に気づけるのは、長年営業を続け、地元の漁業関係者とつながり、食材としての魚を見詰め続けている料理店や旅館の料理人たちです。日本の海を見守る料理人が増えていけば、今よりずっと未来は明るくなる。シェフス フォー ザ ブルーのような動きが全国に広がることが大切だと思っています。(つづく)

 日本の豊かな海を守るために、イベントの開催やサステナブル・シーフードを使ったレシピの開発、講演などを活発に行うシェフス フォー ザ ブルー。次回は、日本の和食文化を未来につなげる取り組みについて教えてもらいます。

【Chefs for the Blue(シェフス フォー ザ ブルー)】の公式サイト
https://chefsfortheblue.jp/

(構成:小田中雅子、写真提供:Chefs for the Blue)
ページの先頭へもどる
【ささきひろこ】
シェフス フォー ザ ブルー代表理事、フードジャーナリスト。日本で国際関係論を、アメリカでジャーナリズムと調理学を、香港で文化人類学を学び、企業勤務ののちフリージャーナリストに転向。食文化やレストラン、食のサステナビリティ等をテーマに雑誌、新聞、ウェブサイト等に寄稿している。ワールド・ガストロノミー・インスティテュート(WGI)諮問委員。水産庁 水産政策審議会特別委員。
新刊案内