イタリア全土に340近くも点在する「最も美しい村」の多くは交通事情が悪い場所にあります。フィオレッロ・プリミ会長と著者の中山久美子さんが、不便だからこそ訪れる楽しみがある村歩きの魅力について語り合います。
中山 話をうかがっていると、村それぞれに個性があり見どころがあるため、実際に旅するとなると、どの村に行こうか迷ってしまいます。
プリミ会長 確かに1つとして同じ村はないのですが、共通項がいつくかあります。村に城壁が建設されたのは中世、西暦1000年ごろ。絶えず戦いが繰り広げられていたせいです。通常は城壁の中に貴族や中流階級、城壁の外には農民が住んでいましたが、敵がやってくると農民も城壁の中に逃げ込んでいました。攻めにくく守りやすくするために、切り立った崖や標高の高い丘、山間部といった場所につくられることが多かったようです。
電車やバスなど公共交通機関を利用して訪れることができる村を北部から南部までラインアップしているのも本書の特徴
そのため現代でも、村のすぐ近くに鉄道が通っていることはほぼありません。何世紀もの間に世界は発展してきましたが、村はその影響を受けることがなく、そのままの形を維持してきたのです。
村が歩んだ歴史も、その背景も、村の一部として受け入れるというのが私たちの考え方です。ですから、村にたどり着くまでの行程もぜひ楽しんでほしい。交通事情が悪く村まで時間がかかったとしても、道中の風景、細い道でさえも美しいと感じる瞬間がきっとあるはずです。
そういえば、シチリアにノヴァ―ラ・ディ・シチリアという村があるのですが、そこへ行くには40kmものくねくね道を通らなければなりません。でも、そのカーブ一つひとつに違う風景が広がっていて、山間の村ならではの絶景に遭遇します。世界遺産に登録されたエトナ山が見える場所もあるんですよ。移動中の出来事も、村を訪れる楽しみなのです。
中山 不便と言われる村ですが、コロナ禍中にあった2021年ごろから一種の小さな村ブームが起こりました。トスカーナ州のサンタ・フィオーラでは、リモートワークをきっかけに「スマート・ヴィレッジ」とよばれる移住促進のプロモーションを展開していましたね。
サンタ・フィオーラ(本書128頁)の中心・ガリバルディ広場
プリミ会長 そうした制度はコロナ禍を機に自治体主導で始められましたが、協会でも村の活性化の一助となる新しい取り組みが進行中です。
その一つが、インターネット上に仮想空間を設けた「最も美しい村」のバーチャル・ミュージアムです。州ごとの部屋があり、壁にはその村が所有する芸術作品が展示されていて、各村のアイコンをクリックすると村のミュージアムや教会、風景などの写真が出てくる仕組みです。今月(2022年12月)に協会の公式サイトで公開する予定なので楽しみにしていてください。
さらに大きなプロジェクトとして、村の特産品のデジタル化があります。村の生産者と彼らが生産している農産物や加工品の情報をデータベース化し、生産者のファイルからカタログで閲覧できるようになっています。まだ制作途中ですが、2024年ごろからオンライン販売できるようになり、約8000~9000人の生産者と2万5000の特産品が紹介される予定です。
中山 まさに小さな村の小さな生産者を応援するものですね! このようなプロジェクトを立ち上げようと、誰かが声を上げるのかですか?
「イタリアの最も美しい村協会」のフィオレッロ・プリミ会長
プリミ会長 私です。私が人を集めると、次は何を言い出すのかと皆が心配するんですよ(笑)。
こうした企画の多くはEUのテリトリー・マーケティングと再生可能エネルギーのプロジェクトに申請するのですが、これまでに2つ選ばれ、現在も4つ申請中です。再生可能エネルギーについては、リミニという都市で会議が開催されましたが、これに30の「最も美しい村」の市長が参加し、電力の自給自足について話し合いました。村で発電した過剰な電力は周辺の町や村に販売できますし、そうなると協同組合ができ、村の雇用や収益が生まれます。エネルギー問題は小さな村が自立する意味でとても大事なテーマなのです。
中山 観光客を呼び込むだけでなく、村自体がしっかりと存続していくための仕組みづくりが必要なのですね。
プリミ会長 話は変わりますが、先ほど名前が挙がったサンタ・フィオーラで1つ思い出しました。村にあるぺスキエーラの池で飼っているマスは、どこに卵を産むかご存じですか? 実は池の畔にある教会の下に卵を産むんですよ。
中山 ぺスキエーラはこの本の中でも写真付きで紹介しています。教会の床に張られた透明なパネルの下は池の水が流れ込でいて、その様子が見えるようになっていましたが、まさかそこに産卵するとは知りませんでした!
ペスキエーラは村の憩いの場
池のほとりに建つ「雪の聖母教会」
プリミ会長 サンタ・フィオーラの池にマスが泳いでいるのは偶然ではありません。かつてメディチ家が経済発展のためにあの池でマスを飼い、キャビアを採って輸出していた名残なのです。実際に村に足を運ぶと、イタリアの知られざる歴史にもふれることができる。小さい村の魅力は尽きません。(つづく)
――中世のままの姿形をそのままの残している「最も美しい村」。不便な場所にあるからこそ、訪れるべき価値を発見できるのかもしれません。最終回は、村を訪れた際にどう過ごすのか? 村巡りの楽しみ方について聞きます。かもめの本棚の特設サイトで新刊『イタリアの美しい村を歩く』を購入すると、
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