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にっぽん味噌蔵めぐり
実践料理研究家・みそ探訪家
岩木みさき
第14回 地元に愛される珍しい辛口麦味噌(貝島商店・熊本県)
 味噌蔵めぐりをするようになってから(最近はコロナ禍で難しかったのですが)、熊本駅から路面電車で20分ほどの場所にある味噌天神宮へ毎年御挨拶にうかがっています。
 味噌天神宮はその名のとおり日本で唯一の“味噌を祀る神社”。奈良時代の713年(和銅6年)に悪疫が流行した際、「御祖天神(みそてんじん)」を祀ったのが始まりとされています。その後、741年(天平13年)に聖武天皇の勅令により各地に国分寺が置かれ、寺の僧侶たちの食事によく味噌が使われるようになりましたが、ある年、大量の味噌が腐敗。困った僧侶たちが御祖天神に祈願しに行くと、「境内にある小笹を味噌桶の中に立てよ」と神様からのお告げがあり、そのとおりにしてみると味噌がおいしくなったのだとか。このことから、御祖天神は「味噌天神」として味噌を祀る神社になったと伝えられていて、現在も敷地内には立派な笹が伸び伸びと茂っています。

味噌天神宮の祭礼

さまざまな味噌が奉納される


 毎年10月25日の午前中に例大祭が行われていて、熊本県みそ醤油工業協同組合の皆さんを中心に熊本名物・南関揚げ入りの味噌汁や味噌の配布があります。数百人の行列になるほどにぎわうため、参加する場合は朝から並ぶのが必須です。
 ほかにも、この場所が元は菅原道真公の「御祖=洋服」を納めていた「御衣天神(ぎょいてんじん)」だったのではないかという説もあり、瓦やのぼりには梅鉢の家紋が使用されています。このお話は例大祭で出会ったおじいさんに教えてもらいました。

 この味噌天神からほど近くにある味噌蔵が、1927年(昭和2年)創業の貝島商店です。
 私は、木桶仕込みの味噌蔵を探すために各県の味噌組合に電話をかけて情報を集めることも多いのですが、そのときに熊本県みそ醤油工業協同組合の方から教えてもらったのが出会いのきっかけでした。

貝島商店

味噌天満宮の祭礼にて貝島さんと筆者


 専務の貝島慶治さんは好青年という言葉がぴったりのイケメン。組合の青年部副会長も担っていて、味噌の話だけでなく、不思議と恋愛相談もできてしまうお兄ちゃんみたいな存在です。私が横浜で催事に出店したときには、熊本からサプライズで駆けつけてくれたこともありました。
 「大切な人に笑顔になってもらえると幸せじゃないですか」と、自分の家族や恋人に喜んでもらえる製品づくりを心がける経営がモットーで、最近では地元の方に向けた情報発信や熊本県産のトマトと味噌を合わせた調味料「とまとみそーす」といった新商品の開発にも力を入れています。

 貝島商店の特徴は、最先端の機械と昔ながらの木桶の良さの両方を生かした味噌造りをしている点です。2016年の熊本地震で半壊した蔵を建て直す際、日本三大杉の一つである地元熊本阿蘇産の小国杉(おぐにすぎ)を使用して木桶を新調しました。現在は昔からのものを含む7本の木桶と、1960年に熊本県内で先駆けて工場化した機械の両方を活用しています。

小国杉の新桶

 もう一つの特徴は、人気の「小国杉樽仕込み味噌」は辛口の麦味噌だということです。主に九州地方で製造されている麦味噌は一般的には甘口のものが多いので、初めて食べたときはとても驚いたのですが、あえて地域の味わいと異なる味噌を造ることで、しっかりと自社の味を確立しファンを増やしています。
 塩味がしっかりしている味噌は料理に使うとその力が発揮されるのですが、辛口の麦味噌はしらす、ミニトマト、ルッコラなどを入れたオイルベースのパスタを作るといい意味で味噌感が出ず、味の骨格になり料理をまとめてくれるのです。ほんのり香る麦香はオリーブオイルとの相性も抜群。バジルやディルなどのハーブと合わせるのもオススメで、ガパオライスやサーモングリルのハーブタルタルのせなど、ぜひ作ってほしいメニューです。

 「うちの麦味噌は40~60日の短期間で製造します。旨味と塩慣れのバランスが取れた辛口の味、濃くなりすぎない淡色、麦らしい香り、固さを考えて完成させるためには、高い技術が必要なんです」

表面に旨味成分のチロシンが白く結晶化している

 味噌は熟成期間が長いほうが旨味は増すのですが、味わいとともに色も濃くなるのが一般的です。そのため、麦味噌らしい淡色を保ちつつ旨味もしっかり造り出すというのは、貝島さんのお話からもわかるように簡単でありません。特にここ最近は夏季の暑さが増しているため、その調整は一段と難しいことが察せられます。
 貝島さんの造る麦味噌の表面には白い結晶が肉眼で確認できますが、この正体はチロシンという旨味成分。熟成期間が短くても旨味がしっかりある証しで、その完成度の高さが感じられます。

 味噌が紡いでくれた出会いはすでに数えきれないほど増えました。感謝の思いを胸に、今年もたくさんの報告をしに熊本味噌めぐりへ行きたいと思います。(つづく)

◆◆貝島商店◆◆


熊本県熊本市迎町2-2-15
TEL:0120-823-304
https://www.yebisumiso.co.jp/

◆岩木さんセレクトのイチオシ味噌◆


小国杉樽仕込み味噌

【種類】麦味噌
【配合】8割麹、食塩相当量11g
【色】黄色(熟成期間約40日~)

天然醸造・木桶仕込み、珍しい辛口の麦味噌。オイルベースのパスタに加えると旨味がグッと増すのでぜひ試してほしいです。ハーブとの相性も◎

(写真提供:岩木みさき)

★岩木みさきさんが味噌との出会いや奥深い魅力について語るインタビュー「今こそ伝えたい、味噌の力」もぜひお読みください。

【実践料理研究家・岩木みさきのみそ探訪記】http://misotan.jp
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【いわき・みさき】
1988年神奈川県生まれ。10代のころに摂食障害や肌荒れに悩んだ経験から、食の大切さを実感して料理の道へ。病院栄養士として3年間勤務したのち、2012年に実践料理家として独立。その後、日本の伝統調味料である味噌に魅せられ、4年で日本各地60カ所以上の味噌蔵探訪を続け、その成果をWEBサイトやレシピ、イベントなどを通じて発信している。
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