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にっぽん味噌蔵めぐり
実践料理研究家・みそ探訪家
岩木みさき
第2回 基本を学んだ、はじまりの蔵㊤(糀屋川口・神奈川県)

糀屋川口ののれんを持って。川口さんと岩木さん


 料理に携わる仕事をしているのに、調味料のことをきちんと知らない――。
 自身の摂食障害や肌荒れの経験から、栄養士の資格を取得して料理家になっていた私は、いわゆる健康オタク。料理教室のレッスン中、材料の切り方や調理方法、この野菜にはこんな栄養があるという話はしていましたが、味のベースをつくる調味料そのものについて深く説明できていないことに気づきました。まずは実践!と思っていたタイミング、知人からの誘いで参加したのが糀屋川口の主催する味噌づくり講座でした。

 講座で、味噌の原料は大豆・麹・塩の3種であること、麹と塩を混ぜた塩切り麹と呼ばれる状態にしたものを蒸す、または煮て潰した大豆に混ぜること、空気を抜くように小分けに丸めてから容器に詰め、表面はカビがつかないように密閉し、1年常温で保管し発酵熟成させて味噌が完成することを知りました。「笑いながら、楽しんで作ったら、おいしい味噌ができますよ」と教えてもらったのが、2015年秋のことです。

横浜市内にある糀屋川口

 神奈川県横浜市の住宅街に、創業文政元年(1818年)、200年続く老舗麹屋「糀屋川口」があります。私は神奈川県出身なのですが、こんな近くにあったんだ…という驚きが第一印象。
 手づくりだという立派な木製の看板を目印に、のれんをくぐりガラガラっと蔵の引き戸を開けると、奥にも天井にもスーッと抜ける広々とした空間が広がります。
 味噌づくり講座から半年後の2016年早春、「味噌のことを知るなら、まずはこの蔵から」と思い、一人で訪ねてきた緊張気味の私に「何でも聞いてくださいね」と、丁寧に味噌の話をしてくれたのが9代目の川口恭さんでした。

 川口さんは子どもが生まれ、安心して食べられる食について考え始めたのをきっかけに、1996年に20歳で蔵を継ぎました。先代と大ゲンカしながらも、より質の高い麹を目指し、麹を造る環境はクリーンで良いという考えを基に、麹室を洗い、麹を管理する温度を変えたそう。麹菌に負荷をかける独自の作業も加え、パワーある川口流の麹を編み出しています。

9代目の川口恭さん

 まだまだなんとなくしか味噌造りについて理解できていないレベル1の私が、講座の内容を復習しながら話を聞いていると「茹でた大豆はひと晩置くことで、煮汁に流れ出たうま味成分が還元し、大豆自体がおいしくなりますよ」と教えてくれました。煮込み料理みたいで、「へー」とあいづちを打ちながら思わず笑顔になれました。

 原料の大豆と塩は知っていたけれど、麹が何なのかよくわからなくて、麹について詳しく説明をしてほしいとお願いしました。「麹は、蒸した米などの穀物に麹菌と呼ばれる粉状の菌をふりかけて、菌が繁殖しやすい温度と湿度の管理をしながら造ります。麹菌は和名でニホンコウジカビ、洋名でアスペルギルスオリゼーと呼ばれる、日本の国菌です」

 私が難しい顔をしていたからか、川口さんは「これが菌です」と実物を見せてくれました。初めて見た麹菌は、苦そうな渋い緑色、片栗粉みたいに空中にほわわっと舞う粒子の細かい粉末でした。続けて完成した米麹を持ってきて、味見させてくれました。口に入れてゆっくり味わうと、栗みたいに甘い。「麹は酵素という働きを持っていて、米に含まれるデンプンを分解しブドウ糖にして甘みを、大豆に含まれるタンパク質を分解しアミノ酸にして旨味をつくり出すんですよ」ゆっくり繰り返し説明してもらい、ようやくメモが取れた状態。帰り際に「ものすごく良い米。美味しいからさ」と、麹にするための特別なお米を分けていただきました。

 帰宅して炊いてみると、体験したことのない華やかで優美な香り、ひとくち食べて「うっわ!」と思わず声が出てしまったことを今でもはっきり覚えています。「麹があるから大豆は味噌になる。美味しい味噌をつくるには、笑いながらつくることと、素材がおいしいことが大事」。これが、このときの最大の理解だったと思います。(つづく)

◆◆糀屋川口◆◆


〒246-0005 神奈川県横浜市瀬谷区竹村町24-6
TEL:045-301-0036
https://ja-jp.facebook.com/takashi.kawaguchi.106
 文政元(1818)年創業。日本各地から厳選して取り寄せる米や麦を使い、昔ながらの伝統製法で糀を造っている。その糀を使い、米味噌のほかに麦味噌、金山寺味噌、塩こうじ、醤油こうじなどを製造・販売している。

(写真提供:岩木みさき)

★岩木みさきさんが味噌との出会いや奥深い魅力について語るインタビュー「今こそ伝えたい、味噌の力」もぜひお読みください。

【実践料理研究家・岩木みさきのみそ探訪記】http://misotan.jp
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【いわき・みさき】
1988年神奈川県生まれ。10代のころに摂食障害や肌荒れに悩んだ経験から、食の大切さを実感して料理の道へ。病院栄養士として3年間勤務したのち、2012年に実践料理家として独立。その後、日本の伝統調味料である味噌に魅せられ、4年で日本各地60カ所以上の味噌蔵探訪を続け、その成果をWEBサイトやレシピ、イベントなどを通じて発信している。
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