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食べるしあわせ
今こそ伝えたい、味噌の力 実践料理研究家・みそ探訪家
岩木みさき
第1回 木桶仕込みの味噌を未来に残す
 全国各地の味噌蔵をめぐり、その魅力を自身のサイトや料理教室、イベントなどを通じて発信している実践料理研究家の岩木みさきさん。実際に現場を見て、つくり手と語り合う体験を通してあらためて気づいた「味噌の力」についてお話しいただきます。「味噌」といえば日本の家庭料理に欠かせない調味料ですが、これまで慣れ親しんだ味噌以外、ほとんど使ったことがないという人も多いのではないでしょうか。その多様性を知って、いろいろな味噌をもっと料理に活用したくなるヒントを探っていきます。

―― 岩木さんが、全国各地の味噌蔵に出向く活動「みそ探」を始めたきっかけは?

実践料理研究家・みそ探訪家として活躍する岩木みさきさん

 もともとは自分自身の摂食障害や肌荒れをきっかけに20歳で料理の道に入ったのですが、8年目となった2017年、もう少し専門的な研究をしたいと思っていたなかで、日本の家庭料理に欠かせない伝統的な調味料である味噌に目を向けました。
 ちょうどそのとき、発酵がテーマのイベントを任されることになり、「それなら味噌のイベントをやります!」と言ったのが「みそ探」の出発点です。せっかくだから特徴のある味噌を紹介したいと思って、伝統製法である木桶仕込みの味噌をつくっている蔵にこだわって訪ね歩いています。

―― 木桶仕込みの味噌は、普通の味噌とどう違うのですか?


味噌蔵に並ぶ木桶(写真提供:岩木みさき)

 木桶は昔から仕込み容器として使われてきました。木桶で仕込むと微生物がすみ着き、蔵ごとの味わいである「蔵ぐせ」を生み出します。木がやせたり膨らんだり、カビなどの管理をするのが大変なのですが、「60点のときも200点のときもあって面白いんだよ」と、木桶仕込みの蔵元さんたちは言います。もちろん木桶でなくてもおいしい味噌はたくさんありますが、個人的には木桶のほうが味のバランスがよく、塩角(舌を直接刺激する塩味)が取れてなじみがいい印象です。

 ところが、FRP(強化プラスチック)などメンテナンスのいらない容器の需要が高まり、高さが2メートルぐらいある醸造用の大きな木桶をつくれる桶屋さんは、現在、日本に1カ所しかなくなってしまいました。木桶の寿命は100~150年といわれていますが、今、各蔵元さんにある木桶は戦前につくられたものがほとんど。約50年後にはほぼすべての木桶が使えなくなってしまいます。
 この現状を「なんとかしなくては!」と若手の醸造家さんたちが立ち上がり、自らが木桶職人の技を継承する「木桶職人復活プロジェクト」が8年前から始まっています。実は、「職人醤油」の高橋万太郎さん(『にっぽん醤油蔵めぐり』著者)は同プロジェクトの立ち上げメンバーの一人。私も3年前から参加しています。

 今や、木桶仕込みの味噌は全体の生産量の1%以下といわれていて、とても希少。でも正確な数はわからず、味噌に関する専門の研究機関である中央味噌研究所でも実態は把握していません。そこで、勝手な使命感を抱いて私が数えようとしているんで(笑)。伝統ある木桶仕込みの味噌をもっと広めたい、蔵元さんの本気(ガチ)な思いが込められた味噌を未来に残したい。扱いが難しくて本気じゃないと維持できない木桶仕込みの味噌を「ガチみそ®」と名づけ、各地域の味噌組合さんに聞き込みをしながら全国各地を回って調査をしているところです。

「みそ探」で味噌蔵を訪ねる岩木さん(写真提供:岩木みさき)



―― 「ガチみそ®」、いいネーミングですね! これまでに何カ所回ったのですか?

 味噌蔵自体は50カ所以上、木桶仕込みに限っては今のところ37カ所です。最初は電話をしても社長さんにつないでもらえなかったり、味噌は醤油や日本酒と違って混ぜる工程がなく、仕込んでそのまま熟成させるだけなので、「蔵を見るためだけに、なぜ東京から?」と何度も聞かれたりしました。私はどちらかというと声のトーンが高めで、電話だとかなり若い女性のように受け取られたと思います。企業スパイではありませんが、かなり不審がられました(笑)。
 それでも、実績も何もない私に「どうぞ、いいですよ」と言ってくださった蔵元さんから関係を築きました。あとから聞くと、「うちは岩木さんに押し切られて受け入れたけれど、あのときは、家内と『本当に大丈夫かな?』『若いお嬢さんが何しにくるのかな?』と言っていたんだよ」と、笑いながら教えてくれました。

―― 確かに不審者扱いですね(笑)

 各県の味噌組合さんに電話で問い合わせたところ、登録している会社が全国で970社ほどあるなかで、宮崎県と長崎県には木桶仕込みをやっている蔵元さんがないことがわかりました。あとの45都道府県には複数存在すると仮定して、今のところの感触ですが、およそ150カ所には木桶があるのではないでしょうか。ただ、全体の生産量の1%以下ということは、蔵の容器をすべて木桶にしているところはほぼなくて、生産するうちの1つか2つが木桶なのだと思います。それを一つずつ自分の目で確かめ、情報を発信していこうと考えているところです。(つづく)

―― 次回は、全国各地の味噌蔵を探訪して気づいたこと、自分でも行ってみたくなるポイントについて聞きます。

(構成・宮嶋尚美)

【実践料理研究家・岩木みさきのみそ探訪記】http://misotan.jp
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【いわき・みさき】
1988年神奈川県生まれ。10代のころに摂食障害や肌荒れに悩んだ経験から、食の大切さを実感して料理の道へ。病院栄養士として3年間勤務したのち、2012年に実践料理家として独立。その後、日本の伝統調味料である味噌に魅せられ、4年で日本各地60カ所以上の味噌蔵探訪を続け、その成果をWEBサイトやレシピ、イベントなどを通じて発信している。
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