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美しいくらし
旅する写真家に聞く世界の「最も美しい村」 写真家
吉村和敏
最終回 スペイン編:複雑に交錯する歴史文化が魅力
 スペインの「最も美しい村」は、「フランスに似ていて、統一感のある美しさが特徴的だった」と吉村さん。キリスト教、イスラム教、ユダヤ教と、宗教が複雑に混じり合った歴史や文化もそれぞれの村の個性になっているのだとか。最終回は、そんなスペインの村の思い出を語ってもらいます。そして最後に、吉村さんにとっての「旅」とは?

アラゴン州のアルバラシン村


素朴な村に溶け込む豪華な聖堂
 スペインは「最も美しい村」協会に登録された村の数が79と少ないうえ、国が広く、村と村の距離が遠く感じました。1年に2回か3回、海を越え、レンタカーで村めぐりをして3年半。さらに本づくりで1年半。スペインも結局、フランス、イタリアに続く長いプロジェクトになりました。
 スペインはまた、複雑に絡み合った歴史を持っています。紀元前、イベリア半島に定住したフェニキア人とケルト人に始まり、ローマ帝国から西ゴート王国への文化の継承、イスラム勢力とカトリック勢力との争い。その後、レコンキスタ(国土回復運動)を経て、スペイン統一国家の誕生へとつながっていきます。石畳の路地や広場を歩き、聖堂をはじめとする歴史建造物と接していると、この国の時代の流れ、当時の文化を肌で感じることができます。

 北部のアラゴン州の深い渓谷にあるアルバラシンもそうでした。14世紀、キリスト教徒によって生み出された巨大な城壁が崖に連なり、そこから眺めた風景の素晴らしさが印象に残っています。イスラム教、キリスト教、ユダヤ教の聖堂が点在しているのもスペインの村ならでは。中でも16世紀に建てられたサルバドール・デ・アルバラシン大聖堂は象徴的な建物です。かつてモスク(イスラム教の礼拝堂)があった場所にアラブ人が寺院を建て、その後、キリスト教徒がルネサンス様式で聖堂を建設したのです。主祭壇はまばゆいばかりの金箔で装飾されており、大都市の博物館に匹敵するほどの宗教芸術に圧倒されました。
 田舎にある教会だからといって、素朴な佇まいとは限りません。絢爛豪華な聖堂も珍しくなく、それがまた妙に村の景観に溶け込んでいるのです。ただ、スペインの教会はほかの国に比べても派手なほうで、宗教の影響の大きさを感じました。

美しい村めぐりを旅のメインに
 一方、北西部のカスティージャ・イ・レオン州は雄大な自然と膨大な文化財を有する地域です。ここにある20の美しい村の一つ、ラ・アルベルカはイベリコ豚の産地として有名で、村の至るところに肉屋さんがあり、天井からたくさんのハモン(後ろ脚)とパレタ(前脚)がぶら下がっていました。この村のホテルを拠点に地域の村々を回り、毎日違うレストランで食事をしましたが、熟成された生ハム、カリジュラス(ほほ肉)、セクレト(大トロカルビ)などが日本では考えられない低価格で提供され、どれも唸り声をあげるほどおいしかったのを覚えています。

 スペインは物価が安く、ワインもボトルが3ユーロほど。日本円にすれば400円以下でうまいワインがいただけるんです。おいしい料理とワインは、やはり心に残り続けますね。

 内陸部のカスティージャ=ラ・マンチャ州に位置するアルマグロは、世界的名作『ドン・キホーテ』の出身地のモデルとされ、演劇の故郷として名高い村です。17世紀、人々の楽しみといえば演劇だった時代に造られた287席の小劇場が、当時の面影をそのまま残しています。毎年7月には古典演劇のフェスティバルが開催されるそうです。
 また、ここにはスペインで最も美しい広場といわれるマヨール広場があり、そこには古めかしい建物が連なっていました。築年数が長い故、建物にわずかなゆがみがあるのですが、それがいい味を出しています。夕暮れどきに同じ広場に行くと、たくさんの村人たちが集い、それぞれの時間を過ごしていました。なんでもないシーンですが、地元の人と村のつながり、そこからもたらされる日常の風景に感動します。

アルマグロの小劇場

マヨール広場


 ヨーロッパ旅行といえば、どうしても大都市の観光がメインになりがちですが、もっとゆったりした時間を楽しみたいという人は、「最も美しい村」めぐりを旅のメインにしてみるのもおすすめです。村の中にある宿に泊まり、地元のレストランで食事をするだけでも豊かな時間が過ごせますし、早起きして、朝の光とともに村を歩いてみるのも気持ちいいでしょう。村の歴史なども頭に入れて出かければ、村への愛着がわき、さらに思い出深い旅になるに違いありません。

 僕はこの先、スイス、ポルトガル、ドイツ、レバノンといった世界の美しい村を全踏破し、写真と旅行記をまとめた本にして、また日本の皆さんにお届けするつもりです。この1年半はコロナ禍で思うように動けませんでしたが、そろそろスイスの取材を始めようと準備を進めています。いずれは「日本の最も美しい村」も一冊にまとめたいと思っています。
 一方で、常に新しいテーマを求めて焦っている自分もいます。その焦りが写真家としての原動力なのかもしれませんが、テーマを見つけるために旅をし、テーマが決まれば、魂を込めた一冊をつくり出すためにまた旅をする。そんな旅をこれからも続けていきたいと願っています。(おわり)
 

――一日も早く自由な旅を再開できますように。そして、ヨーロッパの「最も美しい村」の風景を心ゆくまで味わいながら、時がゆっくりと流れる村の空気に身をゆだね、見たまま感じたままを写真に収めてみてはいかがでしょうか。ちなみに、吉村さん曰く「高機能のカメラは不要、スマートフォンで十分」だそうです(笑)。

(写真提供・吉村和敏、構成・宮嶋尚美)

【写真家・吉村和敏さんの公式サイト】⇒https://kaz-yoshimura.com/
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【よしむら・かずとし】
長野県生まれ。印刷会社勤務を経て、1年間のカナダ暮らしをきっかけに写真家としてデビュー。自ら決めたテーマを長い年月を費やして取材し、作品集として発表するスタイルで、世界各国、国内各地をめぐる旅を続けながら撮影活動を行っている。主な作品集に『プリンス・エドワード島』(講談社)、『BLUE MOMENT』(小学館)、『あさ/朝』『ゆう/夕』(アリス館)、『錦鯉Nishikigoi』(丸善出版)ほか多数。2003年 カナダメディア大賞受賞、2007年 日本写真協会賞新人賞受賞、2015年 東川賞特別作家賞受賞。
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