「誰にでもアドベンチャーを」をモットーに、ぬいぐるみの旅を提供しているウナギトラベルの東園絵さん。その発想の原点はどこにあったのだろう。――「ウナギトラベル」と聞いて、まずはそのネーミングに心をくすぐられてしまった。どうして“ウナギ”なの? よく聞かれるんですよ。名前の由来はウナギが大好物だから。わざわざ釣りに行くほど好きなんです(笑)。タオル生地で作ったウナギのぬいぐるみを「うなえ」と名づけて持ち歩き、行く先々で写真を撮ってブログに掲載したところ友人たちに大好評。私より「うなえ」に語らせたほうが物事が面白く伝わると気づいて、「ウーウー」「ウナーシャ」などウナギのぬいぐるみ仲間を増やしてブログを続けました。
ツアーコンダクターのウナギの「ウナーシャ」と東さん。ウナーシャの服はお客さまからのプレゼント
――なんと、あっさり解けた「ウナギ」の謎。にゅるにゅるのウナギをつかまえている東さんを想像するとなんだか愉快なのだけれど、では「ぬいぐるみの旅」の発想はどこから? あるとき、友人がウナーシャを海外出張に連れて行ってくれたんです。現地から送られてきたウナーシャの写真を見て感激! ニューヨークでエンパイアステートビルを眺めたり、パリのカフェでお茶をする「ウナーシャ」が、すごく生き生きとしていて……。愛着のあるぬいぐるみが誰かの手に渡り、大切にされてどこかに行くということがうれしかったし、次にどんな写真が送られてくるのかとワクワクしました。そのときに「ぬいぐるみの旅が、知らない街や文化を知るきっかけになる」と確信を持ったのです。
――写真を見て「ああ、面白かった」で終わってしまうところを、東さんはしっかりとビジネスに確立させていく。その背景には何があったのか。 高校時代から難民問題に関心を持っていたので、大学では国際関係論を専攻しました。世界経済を知る必要を感じて金融機関に就職し、2年目に証券会社に転職。当時、海外出張のたびに思っていたのは、「せっかく外国に来たのに、仕事をして、食事をして、買い物をして帰るだけなんてもったいない」ということ。もっと現地の人々とつながるきっかけがあればいいのに、と感じていました。そのころから、「人と人、日本と海外を、より密接につなげるサービス」をビジネスにできないかと思い始めたんです。
そこで、起業家のシンポジウムに参加して意見交換をしたり、ベンチャーキャピタリストの集まる会議でアドバイスを受けたり励まされたりしながら、構想を練り続けていました。それがウナーシャの旅とつながった。ウナーシャを旅させることで、自分の世界が広がったように思いました。私がそう感じたのだから、なんらかの理由で旅ができない人にとってはぬいぐるみの旅がさらに大きな喜びとなり、世界を知るきっかけになるのではないかと考えたのです。
――常に持ち続けていた問題意識が、柔軟な発想と継続する力によって、一気に結ばれた。 こうして2010年9月、ぬいぐるみのための旅行代理店「ウナギトラベル」がスタートする。はたして周囲の反応やいかに。
たくさんのぬいぐるみを持ち歩いて写真を撮っていて“変な人”扱いを受けたこともありました(笑)。「日本人は奇妙なことをする」と外国人に言われたことも。それでも「必ず誰かの心に届くサービス」と信じて、海外をターゲットにフェイスブックやツイッターに情報を掲載し、国内では友人知人を中心にクチコミで宣伝しました。
転機になったのは、2013年3月に放送されたNHKのドキュメンタリー。ツアーの利用者に焦点を当てた番組が評判を呼び、英字新聞に紹介記事が掲載されたことから海外メディアにも注目されて、国内外から“ツアー客”が集まるようになりました。お客さまが増えたことだけでなく、誰かが喜んでくれることがうれしいですね。
――最近は通常のツアーのほかに、自治体や企業とコラボレーションした企画も多いとか。 今年の3月には三重県の依頼で熊野古道を歩き、鳥羽市商工会議所の依頼で市内を巡りました。目的は観光PR。ぬいぐるみが参加した旅の様子をフェイスブックやツイッターで発信し、地域の魅力をアピールするんです。こうした依頼を受けながら、“ぬいぐるみの旅”の可能性や使い方、楽しみ方、効果などを学び、新しい切り口の旅を試みています。
社会科見学もその一つ。生命保険会社や証券会社を訪ねて、業界の最前線の話を聞くツアーです。企業のトップがぬいぐるみを相手に大真面目に話す様子が面白いと大好評でした。渋谷駅の解体現場の見学ツアーでは現場で働く人と同じように、ぬいぐるみに安全マークをつけたヘルメットと作業服を着せたんですよ(笑)。リピーターの一人が、“ツアー客”のためにおそろいの手ぬぐいを作ってくれました。
――次回はかもめブックスの広報宣伝部長(?)「カモメのるーさん」がウナギトラベルの横浜ツアーに初参加! 東さんの「おもてなし」の極意に迫ります。(構成・編集部)
【ウナギトラベルのホームページアドレス】
http://unagi-travel.com/【ウナギトラベルのフェイスブック】
https://www.facebook.com/unagitravel