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美しいくらし
わたしの仕事道具 エンタメ水先案内人
仲野マリ
第7回 レンズ越しに見る舞台の細部

イラスト:高尾斉



 劇評を書く仕事に欠かせない双眼鏡を、なぜかすぐに失くしてしまう……。実はこれで4つ目です。以前は天体観測もできる高性能な機種を使っていましたが、最近は割り切って、軽くてコンパクトなタイプをいつもバッグに入れて持ち歩いています。1000円程度のわりには、左右のピント調整ができて実用的。もう失くさないようにしたいですね。

 歌舞伎や能、ミュージカル、バレエなど、仕事のための舞台観賞は月に10公演以上にのぼります。そのため、1回あたりのチケットを安く済ませたくて、座る位置はたいてい舞台から離れた後ろのほう。歌舞伎座だと3階席を選びます。この席のいいところは、価格が手ごろなのでひと月の観劇数が増やせること。見晴らしがよくて舞台全体を見渡せるところも気に入っています。劇評を書くためには、作品をさまざまな視点から見ることが大切。双眼鏡のおかげで舞台のすぐそばで見ているような感覚も味わえます。

 観劇中、役者さんの表情やしぐさ、足さばきなどの細やかな動きを確認したい!と思った瞬間が双眼鏡の出番です。例えば、歌舞伎の代表的な演目「仮名手本忠臣蔵」に出演されていた片岡仁左衛門さん。切腹した上司の手から小刀を外そうとして、そのこわばった手を優しく撫でて緩めるしぐさは、愛情が感じられる見事な演技でした。役者さんの何がすごいって、ちょっとしたしぐさや表情だけで何かを感じさせるところ。そこに舞台の力があって、見る者は引き寄せられる。そういう生きている舞台の感動や興奮を皆さんに伝えたくて、私は今日も双眼鏡を握りしめているのです。

(構成:狭間由恵)

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【イラストレーター:高尾 斉(たかお・ひとし)】
1951年島根県生まれ。Web、PR誌、会員誌、雑誌等などのイラストやデザインを手がける。趣味はベランダガーデニング、下手なフットサル。
[ホームページ]http://hitpen.net/

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【なかの・まり】
1958年東京都生まれ、早稲田大学第一文学部卒。演劇、映画ライター。歌舞伎・文楽をはじめ、ストレートプレイ、ミュージカル、バレエなど年100本以上の舞台を観劇、歌舞伎俳優や宝塚トップ、舞踊家、演出家、落語家、ピアニストほかアーティストのインタビューや劇評を書く。作品のテーマに踏み込みつつ観客の視点も重視したわかりやすい劇評に定評がある。2013年12月よりGINZA楽・学倶楽部で歌舞伎講座「女性の視点で読み直す歌舞伎」を開始。ほかに松竹シネマ歌舞伎の上映前解説など、歌舞伎を身近なエンタメとして楽しむためのビギナーズ向け講座多数。
 2001年第11回日本ダンス評論賞(財団法人日本舞台芸術振興会/新書館ダンスマガジン)「同性愛の至福と絶望-AMP版『白鳥の湖』をプルースト世界から読み解く」で佳作入賞。日本劇作家協会会員。『歌舞伎彩歌』(衛星劇場での歌舞伎放送に合わせた作品紹介コラムhttp://www.eigeki.com/special/column/kabukisaika_n01)、雑誌『月刊スカパー!』でコラム「舞台のミカタ」をそれぞれ連載中。
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