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かもめアカデミー
遺物は語る~古代エジプト~ 東海大学文学部准教授
山花京子
最終回 エジプト人の死生観
 古代エジプトには「墓」や「未世」に結びつく遺物が多く存在します。これにより、彼らが“あの世”をどう考えていたかを知ることができるのです。東海大学が所蔵する鈴木コレクションの中に、「ウシャブティ」と呼ばれる副葬品がありますが、これは死者とともに埋葬される小さな像で、冥界の召使です。あの世から死者(主人)に呼び出されると、主人の身代わりとなって労働などに従事する役割を担っています。

死者があの世で生きる

「東海大学古代エジプト及び中近東コレクション(鈴木コレクション)」

 これも本学所蔵のものですが、「口開けの儀式」に使われるペシェスケフと呼ばれる手斧があります。口開けの儀式は死者があの世で生きるために行うものです。ミイラとなった死者はこの儀式を行うことで、再び生前と同じ活動ができると考えられていたのです。神官がこれを使って「あなたが再び息をすることができ、供物を口にすることができますように」などと呪文を唱えます。口を開けるだけでなく、目、鼻、耳など人間の五感を司る穴はすべて開けられました。

 墓の前に供える供物卓というものもあります。日本でも線香や水をお供えしますが、機能的には同じです。実は、墓の裏側には秘密の通路があります。この竪穴の通路は玄室に通じていて、この竪穴を通って玄室に眠るミイラに供物のエッセンスが供給できるとされています。供物卓にはパン、キュウリ、牛肉、ブドウなどの供物が描かれています。

 これは“耳”の形をした護符で、神様に自分の声を聞き届けてもらうためのお守りです。ペンダントのようにして常に身につけておき、何かあったら願いごとをする。古代エジプトではこのようなことが実際に行われていました。これまでに紹介した古代エジプトの住居址や封泥、ウシャブティ、手斧、供物卓や護符などは古代エジプト人が生活していた「社会」や「世界」あるいは「宗教観」や「思想」などを目に見える形で表しています。物や言語や宗教など、具体的に形として見えるもの、そういったものを総称して「文化」というのではないでしょうか。一方の「文明」は文化を通してはじめて理解できる「思想」や「心情」であると考えています。言い換えれば、文化というレンズを通して見えた先に「文明」があります。ですから、可視化できるものを「文化」、その見えるものと目に見えないもの全てを指すものが「文明」と捉えてよいと思います。

いよいよコレクションを見学

「東海大学古代エジプト及び中近東コレクション(鈴木コレクション)」

 それではコレクションの一部を実際に鑑賞していただきます。せっかくですから、この機会に本物に触れて古代エジプトへのロマンと感動を共有していただければと思います。今回持ってきた遺物を簡単に説明します。1つ目は「ヘリシェフ神像」です。ヘリシェフとは羊頭のアメン神をあらわします。この神像には4つの頭があります。それぞれの方角を守護してくれるというものです。次は、「ウジャトの目」という護符です。両側に目があり、右目が太陽、左目が月を表しています。「完全にする」という意味を持っており、傷を治癒するお守りだといわれています。次も護符で、ハエの形をしています。ハエは人間の水分を求めてやってきます。エジプトのような乾燥した気候ではハエも必死なのです。「しつこい」という意味があります。戦の際に敵に纏わりついてしつこく戦っている仕草を表し、つまり「武勇」の印とされています。

「東海大学古代エジプト及び中近東コレクション(鈴木コレクション)」
 次は「スカラベ」の護符です。スカラベの和名はタマオシコガネです。本日持ってきた中ではこれが一番古く、紀元前2000年頃のものです。そして「石製のパレット(化粧皿)」です。表と裏に水鳥が彫られています。非常に柔らかな石で作られていて、アイシャドーの顔料を擦る時に使います。アイシャドーの原料はトルコ石や方鉛鉱の粉を塗っていたようです。「ブドウ」の護符もあります。ブドウは豊穣の意。たくさんの実がなるための祈りを具現化したものです。そして、先程紹介した「耳」の護符です。紐を通すような穴が開けられています。青銅製の金属器も二つ紹介します。一つは、時代は古いもののようですが、使用目的は不明です。もう一つは柳の葉のような形のもので、鏃ではないかと推測されています。

 全員参加型プロジェクトはコレクションを修復保存・整理して、最終的には一般に公開することを目標にしています。なお、今年夏より池袋古代オリエント博物館にて、秋には岡山市岡山オリエント美術館にて、さらに来年1月から4月までは横浜ユーラシア文化館にて一部展示を予定しています。興味のある方はぜひ足を運んでいただければと思います。

【学校法人東海大学望星学塾・望星講座のご案内】
・6月14日(土)「漢方でストレスを解消する ~健康な心と身体を取り戻す~」
 新井 信 (東海大学医学部東洋医学 准教授)
・7月19日(土)「富士山の文学 ~神秘と美の探究~」
 城﨑 陽子(國學院大学兼任講師)
 開講はいずれも14:00~15:30

「望星学塾」は学校法人東海大学の機関として創立の精神及び活動を継承し、資料の収集や編纂を始め、数々の特色ある教室を開講。地域に根ざした生涯教育の場として積極的な活動を展開しています。※詳細はホームページをご覧ください。

学校法人東海大学望星学塾
http://www.tokai.ac.jp/bosei/
学校法人東海大学望星学塾・望星講座
http://www.tokai.ac.jp/bosei/2014/kouza/boseikouza2014.html
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【やまはな・きょうこ】
香川県出身。シカゴ大学人文学部(修士)・東海大学論文博士(文学)。東海大学文学部、東京工業大学、慶應義塾大学文学部の講師を経て現職。専門は古代エジプト考古学。なかでも「ファイアンス」と呼ばれる、現在では失われたガラスと焼き物の中間物質の研究を主とする。著書・監修に『古代エジプトの歴史―新王国時代からプトレマイオス朝時代まで』『古代エジプト 青の秘宝ファイアンス』展図録など。
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