× close

お問い合せ

かもめの本棚に関するお問い合せは、下記メールアドレスで受けつけております。
kamome@tokaiedu.co.jp

かもめの本棚 online
トップページ かもめの本棚とは コンテンツ一覧 イベント・キャンペーン 新刊・既刊案内 お問い合せ
かもめアカデミー
遺物は語る~古代エジプト~ 東海大学文学部准教授
山花京子
第2回 遺物の修復を学生の手で

 東海大学の所蔵遺物「鈴木コレクション」の一例を紹介します。これは日本におけるエジプト考古学の草分け的存在で、東海大学名誉教授だった鈴木八司先生のご家族から寄贈されたもの。エジプトの遺物のほかにイランやイラクなどの物もあります。整理作業はすべてボランティアの力で、学生が自発的に作業を行います。教室を1つ借りて、実際に遺物に触りながらじっくり確認してから一つひとつ整理していきます。ボランティアを募るのも彼らが自主的に行います。うれしいことに、今年からは卒業生など一般の方も手伝ってくれています。私一人では絶対にできない作業なので、彼らの協力は実に頼もしい限りです。

「東海大学古代エジプト及び中近東コレクション(鈴木コレクション)」

 「鈴木コレクション」には理化学的な分析を要する遺物も多く含まれています。ガラスや金属などがそうです。先日、東京理科大学応用物理学科のグループが訪れて分析を行いました。他大学との共同研究を行うことは、本学の学生たちにもよい影響を及ぼします。進行中のプロジェクトは単に整理作業だけではなく、このような相乗効果的な広がりも持ち始めているのです。

学生を古代パピルス文書の修復者に育てる
 昨年のハイライトは、古代パピルス修復保存プロジェクトを立ち上げたことです。所蔵するパピルス文書には貴重な記録が記されています。しかし、残念なことに日本では「パピルス文書学」の研究は盛んではありません。この分野の研究は欧米が20年ほど先行していて、解読できる専門の研究者も多いのです。ありがたいことに、イェール大学など欧米の大学が本学のパピルス文書に注目し後押ししてくれています。しかし、彼らが解読する前にパピルス文書を読める状態にすることが所蔵側であるわれわれの喫緊の課題です。

 

実は昨年、我々のプロジェクトは東海大学の文化祭である建学祭期間中にドイツ人の修復師を招き、学生一人ひとりに修復方法を伝授していただきました。現在、日本にはパピルスを修復する専門家はいません。ですから、現在の日本では本学の学生たちがパピルス修復の第一人者と呼ぶことができるかもしれません。

 
 また将来、東海大学から日本初のパピルス修復師が誕生することもあながち夢ではないと思います。

パピルス修復ワークショップの映像記録やドイツ人マイスターの通訳も学生が自主的に行いました。東海大学生の団結力に感嘆するとともに、「本物」に触れられる機会を目一杯活用し、感性を磨き、発想や考え方、判断力を育てることは、彼らの成長過程で大きな財産になると確信します。

 一方でカラースライドやネガ写真もたくさんあります。撮影されてから半世紀以上経過しているため、経年変化を起こして真っ赤に退色したものやカビに侵食されてしまったものもあります。現在では本学の情報技術センターの協力を得て画像処理を行い、退色した色を元に戻す作業を行っています。当時の色を忠実に復元することは並大抵な作業ではありません。今後もいろいろな方々のご協力を仰がなければならならず、息の長いプロジェクトとして温かく見守っていただければと思います。


「文化」と「文明」
 それではいよいよ本題です。「文明」とは何なのか。「文化」と「文明」はどう違うのかを取り上げてみます。「文化」と「文明」という言葉を、ふだん私たちはなにげなく使っていますがいまひとつはっきりしません。心の中では定義がなされているはずですが、いざ言葉にするとうまく表現できないという人も多いのではないでしょうか。

 次にあげる「古代エジプト○○」、「古代日本○○」「弥生○○」「現代日本○○」「インダス○○」「スマホ○○」「王朝○○」の○○に当てはまる「文化」か「文明」か、どちらかしっくりくるものを選んでください。どちらも当てはまる場合は両方を選んでも構いません。では、なぜこんな質問をするのか。「文化」と「文明」について、これからお見せする古代エジプトの発掘や出土品を通して説明していきたいと思います。

 発掘は何のために行うのでしょうか? 例えば、この写真はギザのピラミッドの発掘現場です。ここには労働者の町がありました。これは住居跡の区画です。入り口があり、地面が黒くなっている場所があります。それは炭化物のあとで、これによりこの場所がキッチンであったと推測できます。この区画から、ビールをつくるための甕、ビールを入れる壷、パンを焼く道具などが出土しています。このようなことから、キッチンではパンを焼きビールを醸造していたと想像できます。つまり、地面に残された遺構や遺物からこの場所が生活に使われていたことがわかります。

 発掘によってビール壷とともに封泥(ふうでい)というものが出てきます。封泥とは器物を封じるために粘土で押印したもので、壷の鍵のような役目を果たしています。いわば、所有する人(王様)を明示するスタンプのようなものです。ピラミッド麓の王立の醸造所で作ったものがどのように流通し、どこで消費されたかがわかります。つまり、発掘を通して当時の生活の様相や社会の仕組みなどを垣間見ることができるのです。

 最終回は、実際の遺物から古代エジプトの死生観を読み解きます。※なお、この記事は2014年4月26日に東海大学・望星学塾で開催された「第375回望星講座 東海大学所蔵の古代エジプトコレクションを通して『文明』について考える」の内容を再構成したものです。


【学校法人東海大学望星学塾・望星講座のご案内】
・6月14日(土)「漢方でストレスを解消する ~健康な心と身体を取り戻す~」
 新井 信 (東海大学医学部東洋医学 准教授)
・7月19日(土)「富士山の文学 ~神秘と美の探究~」
 城﨑 陽子(國學院大学兼任講師)
 開講はいずれも14:00~15:30

「望星学塾」は学校法人東海大学の機関として創立の精神及び活動を継承し、資料の収集や編纂を始め、数々の特色ある教室を開講。地域に根ざした生涯教育の場として積極的な活動を展開しています。※詳細はホームページをご覧ください。

学校法人東海大学望星学塾
http://www.tokai.ac.jp/bosei/
学校法人東海大学望星学塾・望星講座
http://www.tokai.ac.jp/bosei/2014/kouza/boseikouza2014.html


ページの先頭へもどる
【やまはな・きょうこ】
香川県出身。シカゴ大学人文学部(修士)・東海大学論文博士(文学)。東海大学文学部、東京工業大学、慶應義塾大学文学部の講師を経て現職。専門は古代エジプト考古学。なかでも「ファイアンス」と呼ばれる、現在では失われたガラスと焼き物の中間物質の研究を主とする。著書・監修に『古代エジプトの歴史―新王国時代からプトレマイオス朝時代まで』『古代エジプト 青の秘宝ファイアンス』展図録など。
新刊案内