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かもめアカデミー
遺物は語る~古代エジプト~ 東海大学文学部准教授
山花京子
第1回 時間の感覚をつかむ
 私たちに歴史へのロマンをかき立てる古代エジプト。その歴史は紀元前3000年ごろから紀元前30年ごろまでの約3000年という長い期間に存在しました。実は、東海大学には古代エジプトや古代中近東の考古学遺物が約5000点所蔵されています。古代エジプト人は彼らの作り出した遺物を通して現代に生きる我々に何を語りかけてくれるのでしょうか。今回は東海大が所蔵する古代エジプトコレクションの保存修復・整理に携わる山花京子准教授が遺物に実際に触れながら、「文化」と「文明」についての考え方を紹介します。

 本講座は、昨年の10月には台風の影響で、さらに今年の2月には大雪の影響で相次いで中止になりました。この天変地異のいたずらには、さすがの私も「ファラオの呪い」ではないかと心配になりましたが、3度目の正直で今回はさわやかな晴天に恵まれました(笑い)。東海大学が東海大学名誉教授の鈴木八司先生のご家族からエジプト関係のコレクションが寄贈いただいてから、ほぼ3年が経過します。現在、そのコレクションの整理作業を継続して行っているところです。未整理の遺物を散逸しないために一つひとつ番号を付けながら書き込んでいます。物だけでなく映像もたくさんあります。当時の映像は8ミリですから、それを画像処理しなければなりません。ですから、時間と同時に多くの人の協力が必要になります。その様子もご紹介したいと思います。

 さて、今回のテーマは「文明」を考えるとあります。大変難しいテーマです。私が所属する学科にも「文明」という言葉がついています。受験生からも「文明学科って何を学ぶのですか?」という質問をよく受けます。歴史や考古学ならばまだわかりやすいのですが、「文明」となるとピンとこない。そこで、今回は私なりに解釈した「文明」と「文化」の違いについて紹介してみたいと考えています。

「時代紐」を使って時間の感覚をつかむ
 まず皆さんに、私の授業で大学1年生に向けて最初に行う講義を体感していただきたいと思います。ビジュアル化に慣れきった最近の大学生は「紀元前」と言葉で言ってもなかなか理解していただけません。そこで私は「時代紐」というものを考案しました。これを使って時間の感覚をつかむというものです。紐の長さは4mです。等間隔に印がありますが、これは1000年単位の時代区分を表しています。その中で1つだけ大きな印があります。これが紀元前・後ゼロ年です。本日はお集まりの人数が多いので紐を横に張ってお示ししていますが、本来は紐の片側の2014年のところを自分の目の位置に合わせ、紀元前6000年のところが自分からもっとも遠くなるように合わせます。これにより、およその距離感がわかります。

 「時代紐」でチェックする事項は次の6つです。



(1)古代エジプト王朝時代の始まり メソポタミア(紀元前3100年ごろ)
(2)ツタンカーメン王の治世(紀元前1400年ごろ)
(3)仏陀の誕生(紀元前563年)
(4)イスラーム教の興り(紀元後622年)
(5)本能寺の変(紀元後1582年)
(6)明治維新(紀元後1868年)

 「時代紐」に(1)から(6)までの印がつきました。これにより、時代の距離感が何となくつかめます。日本人は本能寺の変や明治維新は昔の出来事と思っていますが、こうやって時代紐上においてみるとつい最近の出来事だということがわかります。紀元前のエジプトの人々がどんな生活をして何を考えていたのか、時間の感覚を頭の隅に入れていただきながら進めていきたいと思います。

 
鈴木八司コレクションと東海大学の取り組み
 日本におけるエジプト考古学の草分け的存在で、東海大学名誉教授の鈴木八司先生のコレクションがご家族によって寄贈されたのは2010年のことです。

その内容は、古代エジプトと中近東の考古学遺物、パピルス文書、写真・映像資料など膨大な点数にのぼります。鈴木先生は私の師匠でもありましたが、浅学の私にとってはろくに会話もできないような雲の上の存在でした。先生がお亡くなりになった後部屋を片付けたところ、古代エジプトと中近東の考古学遺物が約5000点、パピルス文書が約400片、写真・映像資料が約1万5000点見つかりました。

 当然、私一人では手に負えません。そこで、「みんなで整理しよう」ということで全員参加型のプロジェクトを発足させました。2010年には、東海大学湘南キャンパス(神奈川県平塚市)の図書館付属展示室で「悠久のナイルの人々―鈴木八司古代エジプトコレクション展―」という小さな展示会を開催しました。そして、今はほんの一部ですが東海大学湘南キャンパスの松前記念館で展示中です。


 ほかにも非常に珍しい映像があります。実は、鈴木先生はユネスコの世界遺産第1号であるアブシンベル大神殿とヌビア遺跡群の保存・修復プロジェクトに携わるために日本の外務省から派遣されていて、滞埃中、アスワン・ハイ・ダム建設により水没してしまう場所を8ミリの映像に残していました。再生したフィルムにはダムの近くにある集落が映っています。遊牧民のテント、古代の神殿なども映っていますが、現在では完全に水没してこのような景観は見ることができません。とても貴重な映像です。

 次回は日本で初めてともいえる貴重なパピルスの修復作業プロジェクトについて紹介します。
 ※なお、この記事は2014年4月26日に学校法人東海大学望星学塾で開催された「第375回望星講座 東海大学所蔵の古代エジプトコレクションを通して『文明』について考える」の内容を再構成したものです。


【学校法人東海大学望星学塾・望星講座のご案内】
・5月17日(土)「「健康な成長 健康な長寿」
 石井直明(東海大学ライフケアセンター長※かもめブックスでもおなじみです)
・6月14日(土)「漢方でストレスを解消する ~健康な心と身体を取り戻す~」
 新井 信 (東海大学医学部東洋医学 准教授)
・7月19日(土)「富士山の文学 ~神秘と美の探究~」
 城﨑 陽子(國學院大学兼任講師)
開講はいずれも14:00~15:30
「望星学塾」は学校法人東海大学の機関として創立の精神及び活動を継承し、資料の収集や編纂を始め、数々の特色ある教室を開講。地域に根ざした生涯教育の場として積極的な活動を展開しています。※詳細はホームページをご覧ください。

学校法人東海大学望星学塾
http://www.tokai.ac.jp/bosei/

学校法人東海大学望星学塾・望星講座
http://www.tokai.ac.jp/bosei/2014/kouza/boseikouza2014.html


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【やまはな・きょうこ】
香川県出身。シカゴ大学人文学部(修士)・東海大学論文博士(文学)。東海大学文学部、東京工業大学、慶應義塾大学文学部の講師を経て現職。専門は古代エジプト考古学。なかでも「ファイアンス」と呼ばれる、現在では失われたガラスと焼き物の中間物質の研究を主とする。著書・監修に『古代エジプトの歴史―新王国時代からプトレマイオス朝時代まで』『古代エジプト 青の秘宝ファイアンス』展図録など。
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