2回にわたり、モロッコ料理の魅力や家庭の食卓の大切さを教えてもらいました。最終回はモロッコ料理をヒントに和食の伝統を見直し、その魅力を広めようとする石井さんの取り組みに関するお話です。実は似ているモロッコ料理と和食 モロッコ料理は健康的で簡単だというお話をしてきました。でも私が本当に伝えたいのは、「毎日モロッコ料理を作って食べてください」ということではありません。モロッコ料理のよいところを取り入れながら日々の食卓を振り返り、忘れられつつある健康的な和食を見直し、復興していくことが大切だと考えているからです。

アフリカ北西部に位置しサハラ砂漠を有するモロッコは、気候も文化も日本とはかけ離れていると思われがちですが、意外に似ているところが多いのです。海に面した地域では魚介類が豊富。地中海気候ではっきりした四季がありますから、季節の食材や旬の野菜を楽しむことも共通しています。
ハーブやスパイスも決して縁遠いものではありません。日本では古くからショウガやサンショウなどのスパイスはもちろん、大葉、ミョウガ、シュンギク、ネギ、ニラなどのハーブのほか、フキノトウやウド、タラノ芽などの山菜を食べてきました。
夏はキュウリやナスで体を冷やし、冬は栄養素がこもるようにイモ類を食べ、春になったら苦味のある山菜で解毒する――私たちはモロッコの人々と同じように、旬の野菜やハーブを食べて食材の力を体に取り込んできたのです。
魚を煮て食べるのも似ていますね。「アクアパッツァ」は地中海料理の煮魚の代表です。日本では煮魚を作る家庭が減っているように思いますが、それほど難しいものではないことを伝え、もう一度広めたいと思っています。
融合する、復興する 「どんなハーブをどうやって使おうか」と悩まずに、まずは身近にある旬の野菜を簡単にアレンジして楽しむことから始めてみてください。たとえば春と秋が旬のミョウガは2つか3つに切って生ハムでくるむと、とてもおいしい。セロリを巻いてもいいでしょう。ハムにうまみがありますから味つけはなにもいりません。

東海大学エクステンションセンター主催のモロッコ料理教室で。「5月の教室ではクスクスの代わりに玄米を使ったサラダを紹介しようと思っています」
東北にはクルミやゴマを味噌であえたものを大葉で巻いて、軽く揚げて食べる惣菜があります。これなら簡単ですし、応用ができそうですよね。また、ミョウガや大葉、キュウリ、ナス、オクラなどを細かく刻んでトロリとさせた「だし」は、しょう油で味を調えて熱いごはんにかけて食べる伝統料理。若者はファストフードに走りがちですが、ぜひこうした健康的な料理を食べて守って、伝えてほしいのです。
近年、さまざまな健康食についての考え方が提唱されていますが、私はそれぞれの国や地域で、民族や気候風土、環境に合わせて昔から食べ続けられてきた「伝統的な食」に学ぶのが理にかなっているのではないかと考えています。私たちの先祖が培ってきた日本食をあらためて見直し、足りない部分を他の食文化から学べばよいのです。
健康食を次世代へ 料理教室の生徒さんには「ぜひ習ったことをたくさんの人に広めてほしい」と話しています。一人が改善しても周囲が変わらなければ、いじめや校内暴力はなくならないでしょう? 仲間たちに「簡単にできる健康的な食生活」を伝えることで、子どもが変わり、家庭が変わり、幼稚園や学校が変わっていく。つまり、自分の子どもがより幸せに暮らせるようになるはずです。
もう一つ大切なのは、健康寿命を延ばすこと。高齢化社会が進み続ける中、自分の健康を自分で守ることが日本を救うことにつながります。
モロッコ料理はあくまでも入り口。モロッコ料理教室を通じて、健康的な食事や家庭の食卓、食育の大切さを次の世代に伝えていきたいというのが私の望みです。
(構成・川島省子)
【かもめ編集部から】 ある人が石井さんにつけたニックネームは「もっとちゃん」。それを聞いて思わず納得してしまいました。もっと知りたい、もっと伝えたい、もっと幸せにしたい――好奇心旺盛で研究熱心、どんなときにも笑顔を絶やさずいつも誰かのために一生懸命な石井さんは、プラスのオーラ全開。取材を担当した編集部のスタッフも元気いっぱいになりました。★石井万記子さんの料理教室のお知らせ
[石井万記子さんのお気に入り]
モロッコ製の折りたたみスツール。中にバスタオルなどを収納できるので便利
「モロッコ料理と健康」※このイベントは終了しました。
日時:5月13日、20日、27日(全3回、いずれも金曜日)
会場:ユニコムプラザさがみはら
(相模原市南区相模大野3-3-2
bono相模大野サウスモール3階)
主催:東海大学エクステンションセンター
※申し込み方法などの詳細は下記のURLをご覧ください。
http://ext.tokai.ac.jp/staticpages/index.php/koza-detail?id=2016aUCL01