モロッコ料理に出合ったとき、「ヘルシーでおいしく、美しいことに感動した」という石井万記子さん。実はもう一つ、モロッコ料理を広めたい大きな理由がありました。シンプルが一番! 「たっぷりのハーブとスパイスを使って塩分控えめ」がモロッコ料理の特長ですが、もう一つの大きな魅力は、調理が簡単なことです。材料を吟味し、丁寧に下ごしらえして、きちんとダシをとって……という作業はとても大切ですが、忙しいお母さんやお父さんが毎日続けるのはなかなか難しい。だから、「簡単にできる」ことはとても重要なのです。

モロッコ料理の調理方法はとてもシンプルです。ゴロっと大きめに切った旬の野菜をタジン鍋に入れてたっぷりのハーブやスパイスを加え、無水のまま火にかけるだけ。この方法なら栄養も逃げにくく失敗もありません。
日本の家庭ではタジン鍋の代わりに熱伝導のよい無水鍋を使うとよいでしょう。肉ジャガや筑前煮などは材料と調味料を入れて火にかけるだけですし、ダイコンは「茹でこぼし」をしなくてもしっかり味がしみ込むので、塩分を控えめにしても味の不足は感じません。
また、コンブやカツオブシでわざわざダシをとらなくても大丈夫。モロッコ料理でよく使うトマトにはグルタミン酸、魚介類にはイノシン酸といった「うまみ成分」が含まれています。これらの食材を加えることで、ダシがなくても味わい深い料理が作れます。
手料理で子どもに寄り添う 家庭で手作りの料理を食べることは、子どもにとってとても大切です。私が食育に真剣に取り組むようになったのは、ある自閉症の子どものドキュメンタリー映像を見たことがきっかけでした。極端な偏食でカレーと焼きそばくらいしか食べず、学校に行くのを嫌がって暴れる日々――途方に暮れていたお母さんは、「笑顔の食卓」がテーマのイベントで簡単な春巻きの作り方を知ります。「これなら私にもできるかも」とうれしくなって家でさっそく作ったところ、なんとその子が積極的に春巻きを食べたのです!
お母さんが“楽しそうに”料理をする姿を見て、子どもはなにかを感じたに違いありません。食卓が変われば子どもは変わるんですね。最終的にそのお子さんは笑顔で手を振って学校に行くようになっていました。

取材の際に作ってくださったおやつ。細かく砕いたアーモンドにハチミツとシナモンを入れて混ぜ、4等分にした春巻きの皮で正三角形に巻く。170度の油でカラリと揚げてできあがり
実は私は息子が小さいころ、「朝はコーラスを教えて午後は健康と美容のレクチャー、夕方からはピアノを教え、料理をするのはその合間」という生活をしていた時期がありました。子どもが帰ってくると仕事に出かけるという日々だったにもかかわらず、あるとき息子に「我が家ではお母さんがいつも家にいるからいいよね」と言われて、ちょっとびっくりしました。
おそらく手作りの料理やおやつを食べることで、常に母親が寄り添っているように感じて安心していたのでしょうね。すっかり大人になってから、「お母さんはいつもそばにいるような気がしたけれど、よく考えるといなかった」と言われましたが(笑)。
家庭の食事が子どもに与える影響はとてつもなく大きいものです。だからこそ、毎日家で料理を作ってほしい。モロッコ料理のような「煮込み」は、ヘルシーなだけでなく簡単です。簡単なら負担にならない。負担にならなければ続けられます。手作りの料理で食卓を彩ると同時に、料理に手間をかけない分の空いた時間を子どもと遊び、会話する時間に当てることができる――まさに一石二鳥です。
家族と自分自身の健康を、何をどう食べるかを考えて工夫することで守ってきたという石井さん。
次回は、健康な食生活のために「モロッコ料理を通じて本当に伝えたいこと」のお話です。(構成・川島省子)
★石井万記子さんの料理教室のお知らせ
[石井万記子さんのお気に入り]
モロッコの代表的な鍋「タジン」の形をしたスパイス入れ。テーブルランナーもモロッコで購入
「モロッコ料理と健康」※このイベントは終了しました。
日時:5月13日、20日、27日(全3回、いずれも金曜日)
会場:ユニコムプラザさがみはら
(相模原市南区相模大野3-3-2
bono相模大野サウスモール3階)
主催:東海大学エクステンションセンター
※申し込み方法などの詳細は下記のURLをご覧ください。
http://ext.tokai.ac.jp/staticpages/index.php/koza-detail?id=2016aUCL01