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食べるしあわせ
白い豆腐の多彩な世界 豆腐マイスター
工藤詩織
最終回 “好き”から広がる、豆腐の未来
2025年に開催された日本国際博覧会(大阪・関西万博)で工藤さんは、一般社団法人日本豆腐マイスター協会、一般財団法人全国豆腐連合会、関西とうふ連合会の3団体が共同で出展した「豆腐万博 TOFU EXPO 2025」の総合プロデューサーを務めました。全国の個性豊かな豆腐を紹介したイベントは、多くの人に“豆腐の新しい可能性”を感じてもらう機会となったそうです。最終回では、万博を通して工藤さんが感じた手応えとともに、豆腐の未来をもっと自由で楽しいものにしたいという思いについて聞きます。


万博を通して見えた新しい可能性
――「豆腐万博 TOFU EXPO 2025」では、どのようなきっかけで総合プロデューサーを務めることになったのですか。

 農林水産省の知人から、突然SNSを通じて「万博で少し力を貸してくれない?」と声をかけていただきました。本当に驚きました。豆腐の魅力を発信するという企画だったのですが、“中立的な立場で豆腐店の方々と関われる人”ということで白羽の矢が立ったようです。

万博ブースで「ニッポン豆腐百選2025」を配布する工藤さん

 そこで、豆腐マイスター協会代表と連携しながら、さまざまな企画に携わりました。その一つが、「ニッポン豆腐百選2025」という冊子です。全国豆腐品評会に出品された豆腐を中心に、日本各地の個性豊かな豆腐を掲載しました。万博内の展示スペースでは、さまざまな種類の大豆や職人さんが使う道具などを紹介。イベントステージで、職人さんによるトークショーや9種類ほどの豆腐の食べ比べなどをしました。
 正直、万博では海外パビリオンが注目されると思っていたので、それほど多くの方に足を運んでいただけるとは考えていませんでした。それが、実際には10万人もの方に来場していただいたのです。「豆腐百選」も大人気で、持参した5,600部がすべてなくなりました。あらためて豆腐への熱い注目を感じましたね。後日、万博で紹介されていた店を実際に訪れてくれた方もいて、豆腐店の方から喜びの声が上がるなど、反響も大きくて驚きました。

――職人の方たちにとっても貴重な経験になったのではないでしょうか。

 豆腐業界は、どうしても“斜陽産業”と言われがちです。実際、製造業者の数もどんどん減っています。「子どもに継がせたくない」「豆腐屋の商売に未来はない」とネガティブな感情を抱いている職人さんも少なくありません。私もこの活動を始めたころ、「なんで豆腐なの?」と言われることが、たびたびありました。
 そうした中、万博で職人さん自身がステージに立ち、スポットライトを浴びて多くの人から注目される。その経験自体が、「自分たちの仕事には価値があるのだ」という自信につながったのではないかと思うのです。「豆腐職人って、すてきな仕事なんだ」とポジティブな気持ちになれることが大切だと、私も万博を通して学びました。

ブースでは実際に豆腐作りの実演も行われた

万博では、和食のテーマで木桶醤油、日本料理、豆腐の3つの食材・料理をPRした


もっと楽しく、もっと面白く
――これから、どのような形で豆腐の魅力を伝えていきたいと考えていますか。

 万博では、豆腐を広報するためのいい機会をいただきました。だからこそ、これからももっといろいろな豆腐を楽しんでもらう取り組みを積極的にしていきたいと思っています。
 ただその一方で、大規模なイベントを継続することの難しさも感じています。以前、私自身が全国から選んだ豆腐を集めて百貨店で催事を開催したところ、整理券が出るほどの盛況ぶりでした。けれども、豆腐は単価が安い一方で、配送にクール便を使う必要があるなど多くの手間やコストがかかります。そのため、人気があっても事業として成立させるのは容易ではありません。豆腐店の数が減り続ける中、業界全体で大きなイベントを続けていくには限界があると感じています。

――業界として厳しい現実があるかと思いますが、その中で工藤さん自身が取り組んでいきたいことはありますか。

革製品の製造・販売を行っている「REEL」(東京都渋谷区)にて、豆腐の販売イベントを開催。異業種とのコラボレーションにも積極的に取り組んでいる

 私は“豆腐が大好き”からスタートしました。業界の人間ではないからこそ、担える役割があるのではと思っています。例えば、豆腐と異業種、他分野との掛け合わせ。豆腐店に足を運ぶ人が減った今、「店に行ってみたい」と思うきっかけを作ることが大切だと感じています。業界の中だけでは発想が限られてしまいます。そのため、食以外の分野の人とも交流しながら、新しい豆腐との出会い方を常に考えています。

――具体的に行っている活動はありますか。

 数カ月に1度、交流のある豆腐店さんに声掛けをして、表参道にある食材のセレクトショップで豆腐の食べ比べのイベントを開いています。あえて表参道というおしゃれな街で開催するのは、普段、豆腐店に足を運ばない人たちにも“街の豆腐屋さん”の豆腐に出会ってほしいからです。

 このイベントのテーマはもう一つあって、“選ぶ楽しさ”をもっと多くの人に知ってもらうことです。毎回10種類ぐらいの豆腐を用意し、試食してもらって気に入った豆腐を買っていただいています。
豆腐は日常の食べ物ですが、嗜好(しこう)品的に楽しんでもいいのではないかとも思うのです。コーヒーなら「浅煎り派」「深煎り派」とそれぞれ好みがありますよね。豆腐も同じで「味が濃いのが好き」「すっきりしてるのがいい」など、人によって好みが違います。食べ比べイベントを通じて、そうした違いを知るきっかけになればいいですね。嗜好品のような視点で豆腐を楽しんでもらう。それが豆腐の明るい未来の第一歩のような気がします。

グロッサリーショップ「eatrip soil(イートリップ ソイル)」(東京都渋谷区)
で開催した豆腐の試食販売の様子


――とはいえ、豆腐を選ぶ楽しさの体験はなかなか身近ではできないように思います。

 確かに、スーパーに行けば簡単に豆腐を買えますが、さまざまな豆腐を食べ比べたり、自分の好みを見つけたりする機会は多くはありません。だからこそ、豆腐職人が作る個性的な豆腐ともっと気軽につながれる仕組みを作っていきたいですね。学生時代、仲間と全国の豆腐を取り寄せて食べ比べていましたが、今ならそうした体験をサブスク(一定の料金を支払い、サービスや商品を継続的に利用できる仕組み)のような形で広く全国の方々に届けることもできるかもしれません。

――豆腐の未来には、まだまだ可能性がありそうです。

 「豆腐の魅力を伝える」という私の仕事は、“お豆腐屋さん”が元気じゃないと成り立たちません。ですから、まずは豆腐店、豆腐職人の皆さんに元気になってもらえるようなことに取り組んでいきたいですね。

工藤詩織さん

 メディアに出ることも、もともとは全く興味がなかったのですが、「豆腐ってこんなに面白いんだよ」と伝える人が必要なのだと思い、取り組んでいます。ほかにも、豆腐を作る際に出るおからの活用を探ったり、実際に豆腐店の現場で作り方を学んだりしながら、自分にできることを少しずつ増やしています。
 豆腐店は現在も減り続けています。“モタモタ”してはいられません。万博でたくさんの人が豆腐に興味を持ってくれたように、豆腐にはまだまだ人を惹きつける力があります。その魅力や可能性を、これからも多くの人に伝えていきたいですね。(おわり)

―― 「豆腐が大好物な人」から、「豆腐文化を未来に繋げていこうと活動する人」となった工藤さん。「やりたいことがたくさんある」と目を輝かせる彼女を見ていると、これからますます活動の幅を広げていきそうな予感がします。ちなみに、工藤さんがいちばん好きな豆腐の食べ方は、夏は冷奴、冬は湯豆腐だそう。お薦めの食べ方は冷蔵庫から出して常温に戻した豆腐に、ほんの少し塩を振って食べること。大豆本来の甘みや香りをより深く感じられるそうです。

(写真提供:工藤詩織、構成:小田中雅子)

★工藤詩織さんの公式instagramはコチラ⇒https://www.instagram.com/tofu_a_day
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【くどう・しおり】
1990年群馬県生まれ。豆腐マイスター、豆腐マイスター認定座学講師、食育豆腐インストラクター。幼少から豆中心の食生活を送り、豆腐がいつも暮らしの中心にある無類の豆腐好き。大学院で日本語教師を目指して勉強する過程で、食文化としての豆腐の魅力に目覚め、「豆腐マイスター」を取得。国内外で手作り豆腐ワークショップや食育イベントを実施して経験を積む。豆腐関連のイベント企画・メディア出演などを通して、各地で豆腐文化の啓蒙活動を行っている。著書に『まいにち豆腐レシピ』(池田書店)
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