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【新刊を先行販売】「トーベとムーミン展」の見どころをガイド! ライター
内山さつき
後編 ムーミンとその仲間たちに会える“とっておき”の世界
スウェーデン語の「ムーミン」小説をイメージしたゲートを通り抜けると、そこは「ムーミン」小説のモノクロの線画の世界をアニメーションで表現した空間です。

吹雪の中を歩くムーミントロール、森の中で焚き火をたくスナフキン、嵐の中をボートで漕いでいくムーミンパパとムーミントロール……。風の音、森の音、波の音……五感を使いながら、トーベの描く線の中に入り込めるような演出です。

モノクロ原画をアニメーションに


本展第2章は、「ムーミンと仲間たち」。「The door is always open.」と書かれたムーミンやしきの中に入ると、さまざまなシーンのために描かれた、ムーミン谷の仲間たちのイラストが迎えてくれます。

ムーミンやしきの扉は、いつも開かれている

ムーミンやしきは、どんなお客さんでもムーミンパパとムーミンママがあたたかく迎え入れてくれる場所。
実は、ムーミン最初の小説『小さなトロールと大きな洪水』は、行方不明になったムーミンパパを探して、ムーミンママとムーミントロールが暗い森を彷徨っているところから始まります。洪水を逃れ、離れ離れになってしまった家族がさまざまな試練を乗り越え、物語の最後にようやくたどり着いたのが、美しいムーミン谷、そしてムーミンパパが建てたムーミンやしきだったのでした。

いつも、どんな人にも扉は開かれているというムーミンやしきには、辛い戦争を体験し、傷ついた自分の心に救いをもたらすためこの物語を描いた、トーベの切実な想いが込められているのです。

全9冊からなるムーミンの物語には、今の時代にこそもう一度考えたい、トーベが大切にした精神がその根底に流れています。
「誰かを思いやること」
「自然とともに生きること」
「自分らしくあること」
「未知の世界へ冒険に出ること」
第2章ではこれらのテーマに沿って、「ムーミン」小説と「ムーミン・コミックス」、絵本の原画やスケッチ、印象的な言葉を展示しています。

トーベのスケッチによるムーミン谷の仲間たちの紹介が

「ムーミン」小説の挿絵は、線画で描かれていますが、トーベは初期の『ムーミン谷の彗星』までは、モノクロのインクの淡彩画の手法を用いていました。しかし、当時の印刷技術では、その原画の美しさを充分に再現できないことがわかり、トーベはより鮮明に表現できるペンによるドローイングを採用しました。
その後も、『ムーミン谷の冬』では冬の暗闇を表現するために一部の挿絵にスクラッチボードを用いたり、『ムーミン谷の仲間たち』からはスケッチのような勢いを生かした線を取り入れるなど、作風も少しずつ変化していきます。
こうした変遷を原画そのもので追っていけるのは、またとない機会です。

スケッチや設定画など貴重な資料も合わせて展示されています。ラフな線で描かれたムーミンたちも、これまた愛らしいのです。トーベは一つの挿絵を描くために、多くのスケッチを制作して試行錯誤しています。特に『ムーミンパパ海へいく』には同じシーンのスケッチがいくつも並べて展示されていますので、どこが変わっているのかなどぜひ比べてみてくださいね。

「ムーミン」小説の原画、挿絵、「ムーミン・コミックス」のスケッチや
設定画が展示されている


トーベの筆跡を伝える生き生きとした線は、いつまでも眺めていたいくらい魅力的ですが、ときおりは視線を上げて、展覧会場の壁にもご注目ください。ムーミンの小説に出てくる、たくさんの素敵な言葉がちりばめられています。

「今日はいいお天気になるらしいから、とっておきのことをしなくちゃね」
(『たのしいムーミン一家』[新版]山室静訳 講談社より)

『たのしいムーミン一家』のはじめに出てくるこのスナフキンの言葉から、展覧会のサブタイトル「とっておきのものを探しに」がつけられています。『たのしいムーミン一家』は、戦争が終わり、希望に満ちた気持ちで、トーベが自身の子ども時代の輝くような夏の思い出を織り込みながら描いた物語。朝目が覚めたとき、この弾むような言葉が自然と出てくるような、穏やかで豊かな世界が周りにあるということは、どれほどかけがえのないことでしょうか。

壁にはムーミンの物語の名言も


ムーミンの物語を読んでいると、きっとそのときどきの自分に響く「とっておき」な言葉に出会えるはずです。大切な誰かを想う言葉、何気ない日々のかけがえのなさを感じられる言葉、冒険者としての誇り高き言葉、自分というものに向き合う言葉。そのどれもが魅力的ですが、今の自分にはどんな言葉が一番心に響くでしょう? ムーミンの物語を通して、見えてくるものがあるかもしれませんね。

展覧会の最後には、言葉にまつわるささやかなしかけもありますよ。ぜひ、会場で確かめてみてくださいね。(おわり)

同じ階のカフェ「THE SUN & THE MOON (Cafe)」では、
コラボメニューも。フィンランドやムーミンの物語に
インスパイアされた楽しいメニューも見逃せません


🄫Moomin Characters™ 🄫Tove Jansson Estate

(構成・写真:内山さつき)

トーベとムーミン展~とっておきのものを探しに~

[東京会場]


森アーツセンターギャラリー (六本木ヒルズ森タワー52階)
2025年7月16日(水)~9月17日(水) 会期中無休
10:00~18:00 (金・土・祝前日は10:00~20:00)

※入館は閉館の30分前まで
※土・日・祝日および平日のうち特定日 (8/12~15、9/16・17)は日時指定予約制

[電話]050‐5541‐8600 (ハローダイヤル)
[公式サイト]https://tove-moomins.exhibit.jp/ (最新情報をご確認ください)

<先行販売>実施中! 全国発売は8月下旬から


新刊『トーベ・ヤンソンの夏の記憶を追いかけて』

内山さつき 著


定価2420円(税込)

トーベ・ヤンソンが26年間、ほぼ毎年の夏を過ごした島クルーヴハル。その孤島に著者・内山さつきさんが訪れ、1週間滞在した忘れがたい日々と、トーベの友人たちが語った友情の思い出――二つの記憶を重ね合わせながらトーベの面影を探す旅のエッセイです。アトリエや幼少期を過ごした家、ムーミン美術館など、トーベゆかりのスポットも収録。ムーミンを愛する人、トーベ・ヤンソンに魅せられた全ての人に贈る1冊です。開催中の「トーベとムーミン展」の特設ショップで先行販売! ひと足早くお届けします。

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【うちやま・さつき】
東京都生まれ。月刊誌の編集執筆に携わった後、フリーランスのライター、編集者として独立。「旅・物語・北欧」をテーマに取材を続ける。2019年から全国を巡回した「ムーミン展 the art and the story」の展示監修&図録執筆を担当するほか、朝日新聞デジタルの連載「フィンランドで見つけた“幸せ”」や「地球の歩き方 webサイト」のラトビア紀行を執筆する。2014 年夏、「ムーミン」シリーズの作者トーベ・ヤンソンが夏に暮らした島、クルーヴハルに滞在したことをきっかけに、友人のイラストレーター・新谷麻佐子さんと北欧や旅をテーマに発信するクリエイティブユニットkukkameri(クッカメリ)を結成。ユニットとしての著書に『とっておきの フィンランド』『フィンランドでかなえる100の夢』(ともにGakken)。2023年に開設したwebサイト「kukkameri Magazine」では、フィンランドのアーティストたちを紹介している。
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