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子どものこれから
「自分から動ける子」にする親の傾聴力 日本精神療法学会理事長
松本文男
第3回 傾聴された子にやる気がわいてくる理由
 相手の話の意図を少しもずらさずに、まるごとしっかり受け止める――ビジネスの現場などで使われることの多い“傾聴”を、子育てにも生かす連載の第3回。今回は、話を聴いてもらえた子どもにどのようなことが起こるのか、「自己肯定感」「メンタルエナジー」といった言葉をキーワードとしてみていきましょう。
※本文の最後にプレゼントのお知らせがあります。



「やる気出しなさい」の言葉に効果はない
 「もっとやる気を出せば、伸びると思うのに」と、わが子を見ながら感じている親御さんは少なからずいらっしゃるようです。
 「やる気出しなさい」
 「やる気さえあれば、あなたはもっと伸びるんだから」
 そんな言葉で励ましたり叱ったりすることもあるのではないでしょうか。
 けれど「出せ」といわれて出る“やる気”などありません。なぜなら人は、自らやりたいと思ったことにしか、やる気を出せない生き物だからです。

 知能を持つ生き物が何かを体得していく過程には、ふた通りあります。一つは、エサやムチなどによって教育されて覚える教育的な過程。水族館やサーカスで芸をしている動物や、ペットの「お手」などがそうです。それに対して人間は、体験的過程を経て物事を身につける高度な知的生物です。自分が体験して「面白い」「もっと上達したい」と思うと、さらにその体験を重ね、磨きをかけていきます。
 ですから、子ども自身が「やりたい」という気持ちにならなければ、どんなに「やる気を出せ」とハッパをかけても、その子の気力は満ちてきませんし、行動も伴いません。確かに「いい点とらなければお小遣いなし」とか「成績上がったらご褒美」などの賞罰を与えれば、一時的にその行動に向かうかもしれません。けれどそれは長くは続かず、すぐにまたもとの無気力状態に戻ってしまいます。

“やる気”の源「自己肯定感」を育てよう
 では、子どものやる気を満たすには、どうすればいいでしょう。これは実は単純な理屈で、機械などのエンジンと同じ。エネルギーを満たしてスイッチを入れればいいのです。
 そして、そのエネルギーを満たすためにとても有効なのが、親による傾聴です。親にしっかりと話を聴いてもらった子は、まず日々のストレスが解消することで、メンタルエナジーと呼ばれる精神的なパワーがチャージされます。

 加えてもう一つ、メンタルエナジーを高めると、とてもいい効果があります。それは、話を聴いてもらっている子は「自己肯定感」がとても高くなる、という効果です。
 自己肯定感とは、「ありのままの自分を信じられる気持ち」のこと。この感覚があると、人は自らイキイキと行動したり、新しいことに取り組もうという気持ちが生まれます。つまりこれは、“やる気”の源となる感覚です。人が精神的に成長・成熟していくためには、この自己肯定感を持っていることが非常に重要なのです。
 
 たとえば大人でも、職場でつらいことがあったときなどにそれを家族や親しい人に話して受け止めてもらうと楽になることがあると思います。「もう二度とあんな会社行きたくない」と思っていたけれど、話し終わってみたら、「まあ仕方ない、明日も頑張るか」というように気持ちが変化した経験は誰にでもあるのではないでしょうか。


 これは、自分の感情をしっかり受け止めわかってもらえたことで自己肯定感が高まり、失われたメンタルエナジーが補充できたことで心に余裕が生まれたためです。子どもでも、こういう心の変化は同じように起こります。むしろ柔軟性のある子どものほうが、より早く変化することもしばしばあります。

 親に心ゆくまで話したいことを聴いてもらい、その感情に同意してもらうと、「今のこの感情でいる、ありのままの自分が大切にされているんだ」と感じることができます。その気持ちは「自分は生きる価値がある人間だ」という自信となり、それが自己肯定感へとつながっていきます。そして大きなメンタルエナジーのもととなるのです。
 このように精神的に充実している子は、ちょっとしたきっかけで“やる気スイッチ”がすぐにパチリと入ります。
 新しい科目やお稽古事、水泳の授業で挑戦テストがある、文化祭や運動会でクラス対抗競技があるなどといったきっかけがあると、「やってみたい」「自分の力を試してみたい」というまっすぐな気持ちが生じて、それに自ら取り組みたくなるからです。これこそ自然に発露する、やる気パワーなのです。

話を聴いてもらえないと否定された気分になる
 ところが「つもり聞き」をくり返されるなど、自分を肯定される経験の少ない子は、やがて「自分自身を否定されている」という感情を持つようになります。
 「自分の話は親に認めてもらえない」=「自分は親に認めてもらえない」という気持ちになるからです。こういう思いを抱えている子は、自己肯定感がなかなか育ちません。
 「親に否定されている自分に自信が持てない」
        ↓
 「目の前の課題を乗りこえることはできそうにない」
        ↓
 「気持ちがすくんでやる気になれない」
 というように、心の中が変化してしまうからです。そして自己評価が低く、積極的に物事に取り組む自信のない子になってしまいがちなのです。

 ですから「もっと子どもにやる気を出してほしい」と思うなら、「やる気を出せ」と叱るより、子どもの言葉に耳をしっかり傾け、その思いを受け止め返してあげるほうが正解なのです。


(構成・株式会社トリア 小林麻子)

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 ご希望の方は、住所、氏名、年齢、電話番号をご記入の上、2015年2月27日(金)までに下記アドレス宛てメールでお申し込みください。(※プレゼントは終了しました)

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【まつもと・ふみお】
長野県佐久市出身。1947年京都大学理学部卒業。1953年東京大学大学院医学部博士課程修了。シカゴ大学大学院博士課程修了。1983年より長野大学教授、郵政省専任カウンセラーを20年間務める。C.R.ロジャーズに師事し、クライエントを中心に据えたカウンセリングが信条。医療機関や教育機関と連携した活動も多い。現在、NPO法人日本精神療法学会理事長、国際精神療法学会理事(東アジア担当)、日本傾聴療法士会会長。主な著書に『悩む十代心の病』『こんな時どうする』(東京法令出版)、『心の診察室』『心の談話室』(近代文藝社)ほか多数。近著『子どものやる気を引き出す「聴き方」のルール』(大和書房刊/1300円)で、親子の傾聴レッスンを展開。
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