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食べるしあわせ
味の決め手はこだわりの「塩」 ソルトコーディネーター
青山志穂
最終回 運命の出合いをしてほしい
 青山さんがこれまで訪れた国内外の製塩所は400カ所以上、自宅に並ぶ塩コレクションは何と2300種類以上。塩を研究するかたわら、塩の正しい知識の普及に努めています。肩書にある“ソルトコーディネーター”は「ワインのソムリエが料理に合うワインをコーディネートするように、料理のおいしさを最大限引き出す塩をコーディネートする仕事」と語る青山さん。最終回は、塩の魅力にハマった理由、そして自身の使命について聞きます。

師匠と仰ぐ奥田シェフとの出会い
 私が“塩沼”にハマったきっかけは、山形県鶴岡市のイタリアンレストラン「アル・ケッチァーノ」のオーナーで、地元の食材を知り尽くした奥田政行シェフとの出会いにあります。奥田シェフのモットーは「ソースをなるべく使わないこと」。味の決め手は、この連載のタイトルと同じ「こだわりの塩」です。

 今からさかのぼること17年ほど前、そのときの私は沖縄の塩の専門店で責任者を始めたばかりでした。塩の知識は頭にパンパンに詰まっている。でも、それをどうしたらよいのか出口がわからない状態で、お客さまへ上手に塩の提案ができず、生産者さんの塩への情熱や製造方法、味の特徴を伝えるのがいっぱい。一方の奥田シェフは、素材を生かすこだわりの塩をわざわざ沖縄まで探しに来られていました。
 そのとき、食べ物は生き物であり、どんな生き物も本能的にミネラルを欲していること。料理においても、素材の持ち味を発揮させるにはミネラルを補う必要があること。シンプルでおいしい究極の料理を目指すなら、いい素材にいい塩をふることだと話してくださいました。さらに、それから3日間かけて、塩と食材の相性のいい組み合わせの方程式を伝授してくださったのです。

精力的に製塩所も訪問している(沖縄石垣島・石垣の塩)

 それ機に、自分の食生活で何となく使っていた塩が明確に「この塩はこういう理由で合う」「合わない」がわかるようになり、1つの食材に対して5種類ぐらいの塩を合わせてテイスティングしていく日々が始まりました。
 そして、塩の奥深さを知るにつれ、「もっと塩を楽しめる世界をつくりたい!」という使命感のもと、「日本ソルトコーディネーター協会」を立ち上げ、ソルトコーディネーターとして活動を始めたのです。今では塩にまつわる商品開発のプロデュースや監修、メニュー開発のほか、要請があれば製塩所へのアドバイスをさせていただくこともあります。中には、レストランで使われる“シェフの理想の塩”をブレンドするというオーダーも。ありがたいことに、奥田シェフからも「苦味・甘味・酸味の3タイプにゾーンを分けたシェフ用の塩のパレットをつくってくれ」とオーダーいただきました。

ソルトライフを楽しむ仲間を増やしたい
 仕事柄、毎日15gほどの塩を摂っています。厚生労働省の「日本人の食事摂取基準2020年版」によると、1日の食塩摂取量の基準は男性7.5g未満、女性6.5g未満とされているので、かなり多いと思われるかもしれませんが、血圧は15年間正常値を保っています。
 よく「塩を摂ると免疫力が上がる」といわれるのは、塩に含まれるミネラルが体内の酵素をしっかり働かせてくれることで、細胞が元気になるから。塩には熱を発生させる働きもあり、「適塩」生活ができていると体温が上がりやすくなります。その結果、代謝がよくなり、臓器が正しく動いてくれます。
 また、塩にはアンチエイジング効果も期待できます。塩に含まれるマグネシウムはアンチエイジング・ミネラルとして知られていて、食事として摂取すれば、体内の代謝を司る酵素の補酵素として働き、ミネラル配合の化粧品など、肌の外側から吸収すれば、角質層にあるセラミド(肌の保湿に欠かせないうるおい成分)の生成を促進させる効果もあります。

製塩所訪問(福岡・とったん工房)


 しかし、こんなふうに私一人でお話ししても伝えられる範囲が限られます。同じように塩の理解を広げてくれる塩仲間を増やしたいという思いもあり、約10年前に協会をつくってコーディネーターを育てる活動を始めました。そのうえで、塩の魅力を発信することで、より多くの人にさまざまな形で情報が届くと信じています。
 塩の世界を知ることは、私たちの食生活や健康面でのプラスにとどまらず、生産者さんの幸せにつながり、「海の美しさを保ちたい」という地球環境保護への意識を高めることにもなるでしょう。
 消費者と生産者を結ぶ活動としては、全国各地の生産者さんに許可をいただき、5g単位の小分けにして、少量ずつ試していただける通信販売も行っています。正直、利益にはなりませんが、「こういう塩があったんだ!」と驚くような“塩と人との出合いの場”をつくりたいのです。一人ひとり体質や味覚が違うように、好きな塩は異なります。日本に流通する4000種類の塩の中で、「自分の運命の塩」と出合う人を一人でも多く増やしたい。それが今の私の願望です。(おわり)

 味はもちろん、種類や使い方、こだわりの製法に至るまで、知れば知るほど面白い塩の世界。その本質と魅力をさまざまな活動を通じて伝えている青山さんは、「いつか、全国の製塩所で塩づくりに励む職人さん一人ひとりの熱い思いを紹介したい」とも語ってくれました。手塩にかけてつくられる日本の塩。おいしくて抜け出せなくなる“塩沼”なら、一度ハマってみたいと思いませんか?(編集部)

(写真提供・青山志穂、構成・宮嶋尚美)

【青山志穂_Official_Site】https://shiho-aoyama.com/
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【あおやま・しほ】
東京都生まれ。慶應義塾大学卒業後、総合食品メーカーを経て、塩の専門店「塩屋」を営む(株)パラダイスプランに入社。日々の業務の傍ら産地を訪問し、塩の研究を進めていく中で、塩に対する誤解や不理解を改善したい思いが強くなる。2012年、塩の正しい知識の啓もうを目的とした(社)日本ソルトコーディネーター協会を創立。国内外での講座やセミナーのほか、商品開発やアドバイザーとして活動。地域と連携し、塩を基軸とした地域活性化も手がける。訪れた製塩所は国内外合わせて延べ400カ所以上。自宅には2300種類以上の塩コレクションが並ぶ。著書に『日本と世界の塩の図鑑』『免疫力を高める塩レシピ』(あさ出版)ほか。
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