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食べるしあわせ
味の決め手はこだわりの「塩」 ソルトコーディネーター
青山志穂
第2回 情熱的な生産者たち
 第1回で、「原料の産地による味わいの違いは全体の2割ほど」と教えてくれた青山さん。ところが、春夏秋冬によって海水に含まれるミネラル成分や塩分量が変わり、塩の味も変化するそうです。この自然の移ろいをそのまま消費者に届けようと動き出した生産者がいると聞いたら、ちょっと気になりませんか? 第2回は、塩業界にあらわれた新しい変化の兆しや、魅力的な生産者を紹介してもらいます。

四季によって味わいが異なる!?
 山口県の向津具(むかつく)半島の先、油谷湾にある株式会社百姓庵さんでは、一昨年に「za you zen 四季の塩」を発表し、業界に衝撃を与えました。

青山さんがサンプルを持ち歩いている百姓庵の「za you zen 四季の塩」(春、夏、秋)

 生産者さんたちは、もともと四季折々によって海水の状態が変わることを知っています。同じ製法でつくれば、でき上がる塩の味も変わって当たり前。以前は春夏秋冬の塩をブレンドして均一化していたそうです。しかし、百姓庵さんは「同じ自然の恵みをいただくなら、季節によって海が違うように、塩の味も変わっていいはずだ」と考え方を変え、「春塩」「夏塩」「秋塩」「冬塩」と分けるようになったのです。

 実際にどんな違いがあるかというと、春は海藻の多い季節なので、磯の風味が豊かでコクのある藻塩のような味わいに。山菜やタケノコなど少し苦味のある旬の食材や白身魚とよく合います。夏は梅雨で森の栄養が海に流れ出す季節。うま味が凝縮したボリューム感のある味わいになり、アスパラガス、キュウリ、トウモロコシといった夏野菜と相性バツグンです。マグロや牛肉など赤身の魚、肉にも合います。秋も同じくボリューム感がありますが、うま味とスッキリした塩味のバランスがよくてまろやか。おむすびの塩にぴったりです。ペアリングとしては根菜、エビ、イカ、鶏肉などもおすすめです。冬は雑味がなく、スッキリとキレのいい味わいになるのが特徴で、小松菜、ホウレンソウ、ブリ、豚肉を使った料理に向いています。

 この生産者さんはまた、自然の循環を大切にしながら、この土地で持続可能な発展をしていきたいという強い思いがあります。そこで、製塩で出た残渣をエサに混ぜて豚を育て、その豚の排出物からつくった肥料で野菜を育てて販売、さらにはレストランも経営するなど、6次産業化を実践しています。

月の満ち欠けで変わる味の不思議
 一方、沖縄県うるま市の「浜比嘉塩(はまひがじお)」で知られる株式会社高江洲製塩所さんでは、月の満ち欠けに合わせて海水を汲み、新しい塩づくりをしています。その名も「満月の塩」「新月の塩」です。満月の日は月の引力で海水が上に引っ張られ、中層から表層の海水が大きく混ざります。新月の日は反対に地球の裏側から引っ張られ、中層から表層の海水はとても穏やかで静かだといわれます。そのため、満月と新月ではミネラルのバランスや塩分濃度に差が出て、プランクトンや魚の動きも変わり、塩になったときも味わいに違いが出るのです。

高江洲製塩所の製塩作業

 「満月の塩」「新月の塩」に関する官能分析データを見ると、その差は明らかです。「満月の塩」は、しょっぱさ、酸味、うま味、甘味、苦味、雑味など塩に含まれるすべての味覚が全般に強めで、味の余韻が長く、こってりした印象。少し刺激的でもあります。それに対して「新月の塩」は、全体的に味がまろやかで繊細な印象。潮の香りが強めで、余韻は短く透明感があり、後味がクリア。となれば、相性の良い食材も当然、違います。「満月」は赤身の肉や魚など味の濃い食材と合わせやすく、「新月」は繊細な味なので、赤身よりは白身向き。仕上げに振りかけるのがおすすめです。

 海水にこだわる塩もあれば、塩にまったく違う素材をブレンドするシーズニングソルトもあります。「コーヒー塩」や「出汁塩」など、風味付けや味に変化をつける“変わり塩”も増えてきました。
 最近話題になったのが、「赤ワイン塩」。山形県酒田市の製塩所「株式会社さかたの塩」さんが、ワインの醸造工程で出るブドウの搾りかすを海水にまぜ、塩が結晶し始める前にかすを取り除き、さらに煮詰めて結晶化させた塩をていねいに焼いて「ワイン塩」をつくったところ、ヒット商品になったのです。アルコール分は残ってはいませんが、塩味の中にワインの香りと味がはっきりと感じられて、赤ワインに合う牛肉やチーズとベストマッチ! さらに赤ワインを一緒に飲めば、最高のマリアージュになること請け合いです。

各地の塩生産者を訪ね歩いている青山さん
(写真:編集部)

 この生産者さんがすばらしいのは、「赤ワイン塩」の製塩方法を自社だけで独占せず、全国のワイン産地に出かけ、搾りかすの活用に困っている人たちにつくり方を伝授しているところです。しかも、現地の製塩所と結び付けて地域活性化にひと役買っています。
 搾りかすが出るのはワインだけではありません。同じ技法を用いて、日本酒の酒粕や焼酎の残渣を使った「酒粕塩」「焼酎塩」といった新たな塩づくりにも挑んでいます。これまで捨ててしまっていたものを塩づくりに活用する、生かしてあげるという意味でも、すばらしい調味料だと思います。(つづく)

―― 「近年、塩づくりの業界にSDGsの観点が入ってきたことはとても新しいし、感動する」と語る青山さん。次回(第3回)は、皆さんの食卓に塩をあと何種類か加えることで広がる、豊かでおいしい食生活について語ってもらいます。

(写真提供・青山志穂、構成・宮嶋尚美)

【青山志穂_Official_Site】https://shiho-aoyama.com/
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【あおやま・しほ】
東京都生まれ。慶應義塾大学卒業後、総合食品メーカーを経て、塩の専門店「塩屋」を営む(株)パラダイスプランに入社。日々の業務の傍ら産地を訪問し、塩の研究を進めていく中で、塩に対する誤解や不理解を改善したい思いが強くなる。2012年、塩の正しい知識の啓もうを目的とした(社)日本ソルトコーディネーター協会を創立。国内外での講座やセミナーのほか、商品開発やアドバイザーとして活動。地域と連携し、塩を基軸とした地域活性化も手がける。訪れた製塩所は国内外合わせて延べ400カ所以上。自宅には2300種類以上の塩コレクションが並ぶ。著書に『日本と世界の塩の図鑑』『免疫力を高める塩レシピ』(あさ出版)ほか。
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