運動習慣の啓蒙に携わっている萩裕美子教授。思い立ったその日から始められる運動習慣の身に付け方などを教えてもらうインタビューの3回目では、日々の生活がそのまま運動につながるコツについて聞きます。――前回、先生から「旅行が好き?」と聞かれました。私は旅行が好きで、コロナ禍以前はよく出かけていたものですが、それが運動につながるのでしょうか? 運動習慣がないのに、「さあスポーツをしましょう」とか「体を動かしましょう」と言われても、ついおっくうだと感じてしまうものです。それなら、旅先で行ってみたい店まで歩いたり、絵が好きなら美術館に行くまで少し遠回りしてみるなど、自分の好きなことに運動を絡めて考えてみてはいかがでしょう。通勤であっても、パンプスではなくスニーカーを履いて少し早歩きをするだけで、毎日積み重なればでかなりの運動量になります。このように目先を変えて、無理なく自分が楽しく思えることを試行錯誤していくことから始めれば、いつの間にか運動習慣が身に付くものです。

景色も楽しめるトレッキングは根強い人気
これからは、旅行とスポーツを組み合わせた「スポーツツーリズム」や、健康づくりと絡めた「ヘルスツーリズム」といった多目的志向の旅の仕方も盛んになってくると感じています。温泉地ならば単に温泉に入るのではなくて、森林浴をしたり名所めぐりなどウオーキングをしてから温泉を楽しむ、あるいは体によい食事を提供してもらうといったものです。ポスト・コロナを見据えて、ビジネス的な展開も見込まれているようです。
スポーツや健康を絡めるこうした取り組みは、観光地を含む地方の活性化にもつながることから、スポーツ庁が主導して政策としても進められています。過疎化に悩む地域でも、スポーツを楽しめる地域資産があれば若い人たちを呼び込むことができる。それを10年後、20年後の地域の未来づくりにつなげたいと考えているのです。
私は群馬県みなかみ町のスポーツツーリズムの可能性について調査をしています。この町にはラフティングやカヌーを楽しめる川があり、地域の社会的な資源になっています。それらを目的に来る人たちもいれば、みなかみ町をたまたま訪れて「面白そうだからやってみよう」という人たちもいます。いずれにしても彼らがリピーターになり、また仲間を連れてくるなどして、訪れる人たちが増えるのは地域住民にとっても刺激になり、地元の魅力を再認識してもらうことにつながっています。

みなかみ町の利根川流域ではラフティングを楽しめる(写真提供:萩 裕美子)
――旅先で思わぬアクティビティに出会うと、試したくなりますね。本来の目的である行動に運動を“チョイ足し”するみたいなものでしょうか? 「足す」というより「等価交換」です。1日ひとりあたりの時間は24時間と決まっている中では、何かを犠牲にしなければなりません。無駄な時間やほかのことに使ってもよい時間があるならば、それをちょっとした運動の時間に置き換えましょう、という考え方です。
今、皆さんに推奨しているのは「プラス10」、つまり「10分間、体を動かしませんか?」というものです。それを朝昼晩のちょっとした空き時間にやれば、1日30分の運動になり、効果としては続けてやっても細切れでもほぼ変わらないという研究成果があります。
旅先でも日常でも隙間時間を見つけて10分歩く。距離にしたら700~800メートルくらいのものです。これなら家の近所を散歩したり、昼ごはんを食べに行ったりとイメージができやすいのではないでしょうか?(つづく)
リモートワークが始まる前に知っていれば、2キログラムも太らずに済んだわけですね(泣)。後悔先に立たず、なのでこれから頑張ります! 最終回はあなたの「これから」に役立つ取り組みなどについて、萩先生に紹介してもらいます。(構成:白田敦子)