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きれいをつくる
今がチャンス!“一生モノの運動習慣” 東海大学体育学部教授
萩 裕美子
第1回 子どものころが大事とはいうけれど
 新型コロナウイルスの影響で2年以上にも及んでいる外出自粛やテレワーク。ふとしたことで「こんなはずではなかった!」と体力の衰えを実感している人も多いのでは? 徐々に日常が戻る今こそ、これまでの自分を振り返るチャンスです。そこで、生涯スポーツや運動習慣の啓蒙などに取り組んでいる東海大学体育学部の萩裕美子教授にインタビュー。日常的な運動習慣の身に付け方などを聞きました。

――恥ずかしながらコロナ禍で通勤が減ったせいか、2キログラムも体重が増加してしまいました。通勤は一種の運動だったのだと実感しています。

萩裕美子教授

 そうですね。家から出て仕事をしていれば何とはなしに1万歩くらいは歩いてしまいますが、家の中だけだとほんの数百歩くらい。積み重なれば雲泥の差になります。だからといって食生活はそう変わらないのだから、脂肪が蓄積されて体重が増えてしまったのでしょう。
 スポーツ庁が公表した2020年度の体力テストの結果でも、幅広い世代で体力の低下がみられたことがわかりました。原因としてコロナ禍の外出自粛やテレワークによる運動不足が指摘されていますが、実はそれ以前から日本人の運動量の減少が問題視されていたのです。
 ところで、コロナ禍以前から運動習慣がありましたか?

――ほとんどありませんでした。学生のころはいろいろなスポーツを楽しんできましたが、仕事を始めてから休みはついダラダラと……。

 残念ながら、日本人の多くが日常的に自分の体を動かすことの大切さや必要性をあまり感じていない傾向があると思います。体を動かすとスッキリして気持がよいとかよく眠れるとか、続けていると体調がよくなるとか、そうした実感を得ることなく毎日を過ごしているのでは? その結果、コロナ禍とはいえ2年以上もほとんど外出せず、デスクワークをしてもあまり気にならなくなってしまったのでしょう。これは、ヨーロッパでは考えられないことだと思います。

デンマークの高齢者エアロビクス(写真提供:萩裕美子)

 以前、デンマークの運動事情を視察に行って驚いたのは、80~90歳の高齢者でもエアロビクスなどに取り組んで活発に体を動かしていたことです。その人たちのインストラクターは67歳(笑)。すごいでしょう?
 その背景にあるのは、1960年代からヨーロッパ各国で取り入れられた「トリム体操」です。トリム体操は技能や勝敗を競うスポーツではなく、心身ともに元気で健やかに暮らしていける体づくりを目的とするもので、子どものころから教育や日々の生活の中に根づいています。それが、自分の体の調子を自ら整えることの重要性を理解し、大人になってからも運動を継続する習慣につながっています。
 だから彼らは、忙しいとか時間がとれないとか、たとえコロナ禍であっても理由をつけてやめることはないのでしょう。運動の内容は人それぞれ。走れる人は走るし、そうでない人は歩く。高齢であっても腹筋をガンガン鍛えている人もいますよ。自分にとってどのような運動が必要か、何ができるのかを一人ひとりが自ら考えるのです。

――それはすごいですね。子どものころの運動習慣は予想以上に重要なのだとわかりました。私は子どものころ、走るのは好きでしたが球技は大の苦手。模擬試合で負けてばかりいたので、小学校のころから体育の授業はあまり好きではありませんでした。

 それは残念ですが、仕方がない面もあります。現在はだいぶ変わってきましたが、かつて小学生は成長の度合いに差があるにもかかわらず、一様に球技や徒競走や水泳などに取り組みました。中学校ではさらにスポーツ種目が主流になり、勝ち負けが重視されるようになってしまったでしょう。すると、上手ならいいけれど、うまくできないと体育はつまらないものと思い込んでしまいますし、スポーツ種目にはルールがあり、それに合う人もいれば合わない人もいます。

 体を動かすことの楽しさや喜びを知らず、「何のために体を動かすのか」という運動の本質的な意義を学ばずに大人になってしまうから、趣味などでスポーツを続ける一部の人を除いては仕事が忙しくなるとどんどん体を動かす機会が減り、運動から遠ざかってしまうのですね。
 ですが、今は「スポーツとは何か」というその考え方や捉え方自体が変わってきています。たとえば、ラジオ体操やウオーキング、あるいは散歩であっても、ある種のスポーツのひとつと考えられるようになってきました。(つづく)

 大人になってしまった私たちが運動習慣をつけるのは、もう手遅れ? とあきらめかけたところに、ラジオ体操やウオーキングといった身近なものが出てきました。でも、「それを毎日の習慣にするにはまだ高い壁がありそうで」というと、「工夫次第で大丈夫!」と萩先生。次回は「思い立ったその日が吉日」となる運動習慣の身に付け方について聞きます。

(構成:白田敦子)
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【はぎ・ゆみこ】
東京都生まれ。東京学芸大学教育学部(保健体育)、女子栄養大学栄養学部卒業。女子栄養大学大学院研究生を経て博士(保健学)取得。東海大学体育学部教授、同大学大学院体育学研究科長。スポーツ庁健康スポーツ課ビジネスパーソン向け国民運動推進協議会委員、公益財団法人健康・体力づくり事業財団運動指導者養成事業運営委員会専門部会委員、神奈川県広域スポーツセンター運営委員会委員などを歴任。NPO法人フィジカライン理事長。共著に『健康・スポーツの指導(フィットネスシリーズ)』(建帛社)、『知ってほしい女性とスポーツ』(サンウェイ出版)、『頭と体のスポーツ(玉川百科こども博物誌)』(玉川大学出版部)など。
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