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食べるしあわせ
さいたまの畑はヨーロッパの香り!? さいたまヨーロッパ野菜研究会
森田剛史
最終回 地元を愛する誇り高き農家へ
 ヨーロッパ野菜の地産地消に取り組んでいる「さいたまヨーロッパ野菜研究会(ヨロ研)」。設立以来、生産を担ってきた若手農家のひとりが森田剛史さんです。インタビュー最終回は、今やブランドとなりつつある「ヨロ研野菜」の未来や、手軽に楽しめる“農家のおうちごはん”などについて聞きます。

「ダビデの星」(オクラ)が収穫期を迎えた森田さんの畑(写真:編集部)


――生産者グループ「フェンネル」の皆さんは、ヨーロッパ野菜の本場を訪ねる研修もしているそうですね。

 2019年の2月、イタリアに行きました。2手に分かれ、北まわりのグループはトスカーナ州のフィレンツェ近郊やベネト州を訪ね、赤チコリの仲間でラディッキオという現地の料理には欠かせない野菜づくりの現場などを視察、僕は南を回るグループで、チーマ・ディ・ラーパの主産地であるプーリア州の農家などを訪ねました。

 現地で畑を見たときは自分の畑と同じような景色だと思いましたが、農家に招かれて驚きました。チーマ・ディ・ラーパのソテーにオリーブオイルとレモンをドバドバっとかけてドーンと出されたんです。それがとてもおいしくて……。毎日の食卓で本当に身近な野菜なのだと実感したのです。

「フェンネル」のメンバーでイタリアを視察

現地ではマルシェも訪ねた

 その味はもちろんですが、なによりも圧倒されたのは、現地の人の地元愛の強さ。「うちのチーマ・ディ・ラーパを食べてみろ!」とでもいうように自信満々に出してくる。とても格好よくて、その姿に感銘を受けました。
 でも、僕のチーマ・ディ・ラーパも味では負けていませんよ(笑)。実際に見て味わい、栽培の仕方や品質は「間違っていない」と確信を得ました。一方で、誇り高いつくり手の気質はまだまだ追いかけがいがあります。僕らもそうありたいですね。

 現地ではマルシェで売られている野菜も見たし、ファーベというソラマメや、ブンタレッラという葉物野菜、アーティチョーク(カルチョーフィ)、僕らのグループ名にもなっているフェンネル(フィノッキオ)が日常的に食されているのも見てきました。「ヨロ研野菜」をもっともっと多くの人に知ってもらい、の毎日の食卓に上げてもらいたいとの思いを強くしました。
 
――皆さんは年に数回、「ヨロ研野菜」を使っているさいたま市内のシェフたちを畑に招いて見学会を実施して意見交換をしてきたそうですね。コロナ禍では、多くの飲食店が窮地に追い込まれました。

 栽培現場を見てもらうことで、シェフたちと多様な視点から意見交換ができます。「フェンネル」のメンバーで連れ立って、レストランよくも訪ねています。僕らの野菜を使ってくれる人の声を聞き、また、サラダや料理を食べているお客さんから直接、「おいしい」といった言葉をかけていただくなど、大きな励みになっています。

森田さんはケールも栽培している
(写真:編集部)

 コロナ禍でレストランの営業が思うようにならない状況は、農家にとっても厳しいものです。だからこそ、今はあらためて地元の皆さんに食べてもらうことの大切さがわかってきたように感じています。さいたま市のレストランが扱ってくれたから僕らはここまでこられました。ヨーロッパ野菜をしっかり地元に根づかせて、いずれはさいたま市や埼玉県の食文化にまで定着させていくことが、地元への恩返しだと思っています。

 一方で、「巣ごもり需要」のニーズに応え、この5月から直販サイトも始めました。それ以前から「フェンネル」としては食品宅配会社との取引はありますが、「ヨロ研野菜」の名称で消費者に直接届けるのは初めての試みです。まだ珍しい野菜なので、イラスト入りで特徴や使い方の説明も付けています。
 皆で外食を楽しめるようになったらぜひ、地元のレストランでプロの手になる新鮮なヨーロッパ野菜の料理を味わってもらい、家でも楽しんでもらえるようになればいいですね。

――最後に、ヨーロッパ野菜を手軽に食べられる“農家のおうちごはん”を教えてください。
 
 4~7月いっぱいが旬の花ズッキーニは、本場では花の中にモッツァレラチーズとアンチョビを詰めてオリーブオイルで揚げるのが定番です。でも家庭ではちょっと面倒くさいですよね。
 そこでわが家では、グラタン皿に花ズッキーニを並べて、その上にアンチョビやチーズを細かく切って散らし、パン粉とオリーブオイルをたっぷりかけてオーブントースターで焼きます。うちの子どもたちも喜んで食べますよ。

ハウスで栽培されている花ズッキーニ

丁寧に収穫され出荷を待つ


 チーマ・ディ・ラーパの旬は秋から冬。ニンニクとオリーブオイルで炒めて、それをまた、たっぷりのオリーズオイルでグツグツ煮込むオイル煮が本場イタリアの定番。これなら日持ちもよく常備菜になります。もちろん、ただ炒めるだけでも十分においしいです。
 7月から9月中旬に出る「ダビデの星」(オクラ)は、断面の切れ込みが細かくきれいなことが特徴なので、普通のオクラ同様にゆでで刻んで形を楽しんでください。太くて肉厚でもやわらかいので、焼いたり天ぷらにしてもおいしいですよ。

 「ヨロ研野菜」は日本の野菜と同じように使っても、とてもおいしく食べてもらえるはず。気軽にどんどん味わってほしいですね。(おわり)

チーマ・ディ・ラーパ

「ダビデの星」(オクラ)


――森田さんの畑を訪ねたのは、6月終わりの梅雨の晴れ間。聞くと、1年の中でも最も忙しい時期なのだとか。時間を割いてもらい恐縮していると、「いちばん忙しいときが、いちばん畑がきれいなんです。だから大丈夫」と笑ってくれました。緑豊かな畑を吹き抜ける風のように、しなやかにさわやかにヨーロッパ野菜に挑む森田さんたち。彼らのつくる「ヨロ研野菜」は、手間ひまを惜しまないつくり手から地元愛という栄養をたっぷり注がれて、ますます味わいが濃く豊かになっていくに違いありません。

(写真提供:森田剛史、構成:白田敦子)

【さいたまヨーロッパ野菜研究会】https://saiyoroken.jimdofree.com/
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【もりた・たけし】
1982年埼玉県生まれ。高校卒業後、東京・銀座の日本料理店で7年間、板前を務めた後、さいたま市岩槻区にて実家の農家を継ぐ。2013年の「さいたまヨーロッパ野菜研究会」設立当時から参画。現在は生産を担う農業組合法人FENNEL(フェンネル)の中心メンバーとして、チーマ・ディ・ラーパ、花ズッキーニ、ケールなど多様なヨーロッパ野菜の栽培に取り組んでいる。
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