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食べるしあわせ
さいたまの畑はヨーロッパの香り!? さいたまヨーロッパ野菜研究会
森田剛史
第2回 地域ぐるみで食文化創造に取り組む
 東京のベッドタウンとして人気のさいたま市でヨーロッパ野菜の普及を目指している「さいたまヨーロッパ野菜研究会(ヨロ研)」の主な納品先は市内のレストラン。畑からテーブルまで10?ほどという近さを生かし、新鮮なこだわり野菜を届けています。つくり手は、13人の若手農家。中心メンバーのひとり、森田剛史さんへのインタビュー2回目は「ヨロ研」の活動について聞きます。

「ダビデの星」(オクラ)の出来具合を確かめる森田さん(写真:編集部)


――2020年2月、市内岩槻区にアンテナショップ「ヨロ研カフェ」がオープンしましたね。新鮮なヨーロッパ野菜を使った料理が食べられるほか、販売コーナーも併設されています。

「ヨロ研野菜」の多くは岩槻区の畑から生まれています。主な納品先である市内の大宮地区や浦和地区のレストランで僕らのつくっている野菜の味わいについて感想や意見を聞くことはありましたが、地元である岩槻ではなかなかそうした機会がありませんでした。カフェができたことで、地元の人たちにもだいぶヨーロッパ野菜を知ってもらえるようになったと思います。今年6月には僕ら生産者が店頭に立って野菜を販売するマルシェを開催したのですが、「カフェでサラダを食べておいしかったから」と買ってくれるお客さんもいて、やりがいを感じました。

アンテナショップでもあるヨロ研カフェ

マルシェでは生産者自ら新鮮な野菜を販売する


 また、3年前から市内のレストランのシェフたちの協力で、全公立小中学校でヨロ研野菜を使う一斉給食も始まりました。スティック状の「カリフローレ」はメニューによく使われるので、子どもたちから「知っているよ」とか「食べたことがあるよ」との声を聞くことがよくあります。僕らのつくる野菜が子どもたちの間でも浸透しつつあるように感じてうれしいです。

――とはいえ、なじみのない野菜づくりは栽培だけではない苦労もあったと思います。いちばん大変だったことは?

 いろいろ大変なことはあったはずなのに、今はこれといって思い出せないですね(笑)。でも、最初のころは野菜をつくっても売り先がないことがいちばん心配で、つらかった。当初は収穫が安定せず、求められる量に届かなかったり逆に余らせてしまったりと、なかなか思うように売り上げが立ちませんでした。
 それでも、不思議なことに僕らは誰ひとりヨーロッパ野菜をあきらめなかったんですよ(笑)。大変というよりも、農家として難しいとされる野菜づくりにチャレンジしたい気持ちのほうが強かったからなのだと思います。

カラフルで形もユニークなヨーロッパ野菜

 「ヨロ研」設立のきっかけをつくってくれたレストランのオーナーは今、研究会の会長を務めています。生産者としての僕らを支えてくれる思いが強く、つくったヨーロッパ野菜が余っていると知ると全量近くを買い取ってくれるなど、ずいぶん助けられました。その野菜を食料品仲卸業者さんから市内のレストランに配ってもらったことが、シェフたちにヨーロッパ野菜が一気に浸透するきっかけなりました。

 その後、その食料品仲卸業者さんも「ヨロ研」に参加して流通・販売を担ってくれることになりました。乾物類や油などが専門でそれまで生鮮食料品を扱ったことがなかったこの仲卸業者さんにとっても、ヨーロッパ野菜の販売はチャレンジだったと思います。そのおかげで、市内のレストランのニーズに応えるために多品目の野菜を少量ずつでも安定して届けるシステムができました。
 出荷が安定してきたことから地元農協の協力を得られるようになり、2017年から出荷場の一角と冷蔵庫を借りています。販売と流通のシステムが整えられたことで、今では豊洲や大田市場への便を通して都心や関西方面へも出荷。「ヨロ研野菜」の販路がだんだん広がってきました。

――「ヨロ研は“餅は餅屋”なんです」と森田さんは言います。その言葉どおり、生産者をはじめレストランのオーナーやシェフ、種苗会社や流通、それらを支える行政まで、かかわる人たちはその道のプロで、かつ挑戦者の集まり。若手農家のグループは、2016年に農事組合法人を設立しました。

 法人名は「FENNEL(フェンネル)」といいます。フェンネルはイタリアでフィノッキオとも呼ばれるハーブの一種で、さわやかな香りが特徴。白い茎の部分はシャキシャキした食感でサラダやスープ、炒めものなどに、葉はハーブティーやマリネの香りづけなどにと、現地では日常的に使われている野菜です。でも、葉が折れやすくてかさばるし、日本ではつくるのも売るのも難しいヨーロッパ野菜の代表格なんです(笑)。だから、「フェンネル」という法人名には僕たちの法人が向上心を持ち続けて品質を高めようという成長への思いが込められています。

ヨロ研野菜を生産する若手農家グループ「フェンネル」

 
 年間のスケジュールとしては、春と秋に作付け会議をして誰が何をどれくらいつくるのか、大まかにリスト化します。基本的に自分でつくりたいヨーロッパ野菜を選びますが、種類や栽培方法が似ている日本の野菜を手がけていた経験が役立ったり、試行錯誤を繰り返すうちに自分の得意なものができてきて、つくり分けや協力体制が自然とうまくいっていると思います。

 同じ野菜をつくるメンバーの中で作物リーダーを決めて、大量注文に専念する担当、あるいは細かい注文に対応する担当などの差配をします。多品種での安定生産・安定出荷を目指しているので、「こういうふうにやったらうまくできた」といった情報のすり合わせや、出荷の調整、分担など、メンバー同士の協力は不可欠。でも、僕は単独でつくっているものが多いので、作物リーダーになったことがないんです。それが残念ですね(笑)(つづく)

――「フェンネル」のメンバーは、マルシェに出展するときや取材を受けるときにはナイフとフォークのデザインをあしらったそろいのTシャツを着ます。一方で、同じ種類の野菜でも生産者がわかるように出荷用テープの色が異なります。一人ひとりが自律したつくり手でありライバルであり、同時に同じ目標を持つ仲間なのだと感じます。次回はいよいよ最終回。さいたま産ヨーロッパ野菜の未来や、手軽にヨーロッパ野菜が楽しめる“農家のおうちごはん”などについて教えてもらいます。

(写真提供:さいたまヨーロッパ野菜研究会、構成:白田敦子)

【さいたまヨーロッパ野菜研究会】https://saiyoroken.jimdofree.com/
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【もりた・たけし】
1982年埼玉県生まれ。高校卒業後、東京・銀座の日本料理店で7年間、板前を務めた後、さいたま市岩槻区にて実家の農家を継ぐ。2013年の「さいたまヨーロッパ野菜研究会」設立当時から参画。現在は生産を担う農業組合法人FENNEL(フェンネル)の中心メンバーとして、チーマ・ディ・ラーパ、花ズッキーニ、ケールなど多様なヨーロッパ野菜の栽培に取り組んでいる。
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