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子どものこれから
福島の子どもたちと紡いだ10年 画家
蟹江 杏
第1回 全国100カ所を巡回した震災絵画展
 十年一昔――「一〇年たてば、もう昔である。一〇年を一区切りと見て、その間には大きな変化のあるものだということ」(広辞苑)。でも、昔になるどころか癒えない悲しみやつらさが変わらずにあることを、私たちは目の当たりにしています。2011年3月11日に発生した東日本大震災から10年。発災直後から福島の子どもたちへの支援活動を続ける画家の蟹江杏さんにインタビューし、寄り添い続けた10年の軌跡や、子どもたちとの「これから」について3回にわたりお聞きします。

――地震発生の翌日に「傷ついた子どもたちに絵本と画材を送ろう!」と友人・知人にメールを送り、国内外から集まった絵本や画材を縁のある福島県相馬市に届けた杏さん。その後、被災した子どもたちを支援するNPO法人を立ち上げ、理事長として活躍する様子を取材したのは2014年のことでした(「アンズのワンダーランド!」)。たぐいまれな行動力と創造力で主に福島の子どもたちとかかわってきた杏さんにとって、この10年はどのような時間だったのでしょう?

蟹江杏さん

 大震災と津波の被害を聞いて居ても立っても居られない思いから、集まった絵本と画材を携え、初めて避難所の子どもたちに会ったのは2011年3月下旬でした。そのとき、小学校高学年の子に「君たちが高校を卒業するまでは、こうして一緒に絵を描いたり遊んだり話したりするために、絶対に私はみんなのもとに通い続けるからね」と約束したんです。

 なんとか力になりたいと勢い込んで約束してしまったけれど、正直なところ、そのときは「これから何年間も頑張れるのだろうか」と漠然とした不安もありました。高校卒業というと18歳だから5~6年先のこと。それはとても長い年月だと思ったんですよね。でも、よい意味で自分自身を読み間違えました。目の前にいる子どもたちと無我夢中で向き合ううちに、1年、2年と経ち、あっという間に10年。当時、小学校低学年だった子どもたちはもう高校卒業です。つい最近も成人式の写真を送ってきてくれた子もいて、「え!?もう成人式を迎える子もいるんだ!」と自分でも驚いています。

――震災直後に相馬市の避難所で杏さんが開催した「お絵描き教室」や「版画体験教室」に参加していた子どもたちとの交流が続いているのですね。震災後の2011年秋に、彼らを含む当時小学3年生の子どもたちが描いた「未来の福島・相馬」の絵を収録した絵本『ふくしまの子どもたちが描く あのとき、きょう、みらい。』(徳間書店)が発行され、絵画展は全国を巡回。各地で大きな反響を呼びました。

 当時の子どもたちが描いた絵画の展覧会は10年間で全国100カ所近くの会場を回り、この3月の東京・新宿で最後となります。実は、絵は子どもたちから大事に預かったもの。10年経ったら返す約束をしていたんです。コロナ禍ではありますが、子どもたちとの再会を続け、絵を返却しました。
 私のことを覚えていてくれる子もいれば、忘れてしまった子もいるけれど、私は彼らの絵を見ると、あのときどうやって画用紙に向き合っていたのかが昨日のように鮮やかに蘇ります。面白いことに、エネルギーが有り余るような絵を描いていた子は、大人になってからもヤンチャです(笑)。「一緒に絵を描く」ということは、話すよりも多弁に物語ってくれると実感しています。

 一方で、名字が変わっている子どもも少なからずいて、彼らが過ごしてきた10年間の険しさを物語っているように感じます。親も子も、私たちには想像もできないほど大変な日々を重ねてきたのでしょう。

杏さんは相馬に通い、子どもたちと一緒に絵を描き続けている(2019年7月)


 この10年を振り返ると、私自身も大きく変わりました。福島・相馬の子どもたちとの出会いをきっかけに、ひとりのアーティストとしての活動から、困難な立場に置かれた子どもたちを支援する社会的な活動へと踏み出したからです。被災した子どもたちへの支援を続けたいと、2011年12月に絵本の収益や絵画巡回展でのチャリティー売り上げなどをもとに立ち上げた「NPO法人3.11こども文庫」も今年で設立から10周年を迎えます。

 ですから、あの震災は現在の私を形成するうえで大きな転換点。「歴史にタラレバはない」といいますが、あの震災と被災した子どもたちとの出会いがなかったら、アーティストとしての私は全く違う存在になっていたでしょう。

――画家やアーティストという言葉から多くの人が受けるイメージをはるかにこえる社会的な活動に精力的に取り組んでいる杏さん。その原動力となっているのは、10年経った今だからこそ言葉にできる、忘れられない光景だといいます。(つづく)

(構成:白田敦子、写真提供:Atelier Anz)

東日本大震災・被災地支援展覧会「3月11日の、あのね。#10」



会期:2021年3月23日(火)~28日(日)
時間:11:00~19:00
会場:こくみん共済coopホール/スペース・ゼロ
入場:無料
【展示1】3.11 ふくしま そうまの子どもの描くたいせつな絵展
2011年の震災直後に当時、相馬市立中村第二小学校の3年生が描いた「未来の福島・相馬」。その後10年間全国を巡回した作品147点を一同に展覧します。     
【展示2 】活動報告
杏さんが理事長を務めるNPO法人「3.11こども文庫」のこれまでの活動をパネル展示。オリジナルグッズや協賛作家のグッズのチャリティ販売もあります。

蟹江杏さんが描く子どもの本


『あんずとないしょ話』

子どもたちの心の奥底にある本音を、創作活動の原点でもある自身の子ども時代を振り返りつつ、版画と感性あふれる文章で描き出す。ミュージシャン・石川浩司さん(元・たま)との対談も収録。

『あんずのあいうえお』
「あ」から始まる「いのちの名前」。はじめて50音に出会う子どもたちも、もう一度50音に再会したい大人たちも、杏さんが描くひらがな50音の世界を旅しよう!

【蟹江杏さんのホームページアドレス】
http://atelieranz.jp/
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【かにえ・あんず】
画家。東京都生まれ。「NPO法人3.11こども文庫」理事長。「自由の森学園高等学校」卒業。ロンドンにて版画を学ぶ。2021年11月「Penクリエイターアワード2021審査員特別賞」受賞。美術館や画廊、全国の有名百貨店、その他国内外の展覧会への出展や絵本・壁画制作・講演など活動は多岐にわたる、文部科学省復興教育支援事業ではコーディネーターとして参画。東京の新宿区・練馬区・日野市などの都市型アートイベントにおいて、こどもアートプログラムのプロデュースも手がける。そのほか、絵本専門の文庫(福島・相馬、千葉・東金)の運営やアートワークショップなど世界の子どもたちをアートでつなげる活動をしている。
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