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食べるしあわせ
チーズでフランス旅気分 日本チーズアートフロマジェ協会副理事長
村瀬美幸
第3回 幻のチーズを求めて山登り
 原料に厳しい基準を設けた伝統の味や地元にしか出回ることのない希少な品など、行く先々で出合うチーズは旅の楽しみの一つ。フランス各地の生産地を訪ね歩いた村瀬さんに、その土地や暮らしと深く結びついているチーズづくりについて、旅のエピソードとともに教えてもらいます。

オクシタニー地方のロックフォール・シュル・スールゾン


――フランスのチーズ生産地も積極的に回られているそうですね。印象に残った場所はどこですか?

羊乳を原料にした「ロックフォール」

「ロックフォール」を製造するカルル社の熟成庫にて

 チーズの産地は、コルシカ島を含め、フランス全土をほぼ訪ねました。最初に訪れたのはブルーチーズ「ロックフォール」の故郷、フランス南西部にあるロックフォール・シュル・スールゾン村で、今でも特別な場所です。地殻変動によってできた洞窟が、天然の熟成庫。夏でも約8℃と温度が一定に保たれ、さらに湿度、通気と理想的な環境が三拍子そろった洞窟内で、天然の青カビによってチーズがつくられます。この伝統的な製法は、「ロックフォール」のおいしさに魅せられた歴代の王たちによって保護され、受け継がれてきました。1925年には、品質を保証するためにつくられた認証制度AO(※)にチーズとして初めて認定されています。以来、この洞窟で熟成されたチーズでなければ、「ロックフォール」を名乗ることができません。

 現在、「ロックフォール」の生産者は7社ありますが、それぞれ味が異なります。見学できる所もあるので、ぜひ体験して味わってみてください。現地でいただくと、みずみずしく感じられ、とてもクリーミーでまろやかな味がします。

※フランス独自の原産地呼称制度で、のちのAOC(Appellation d’Origine Contrôlée=原産地呼称統制制度)のもとになったもの。現在EUではAOP(原産地名称保護制度)など、産地を特定するGI(地理的表示制度)が整っている。

――数多くの生産者を訪れていますが、ユニークな体験もされたのではないでしょうか?

 こんな場所があるのかと心を動かされたのが、スイスと隣接するフランス南東部にある小さな村で、サヴォワ地方のヴァノワ―ズ国立公園のなかにあるテルミニオン村です。冬はスキーのインストラクターをしている女性が、夏だけここに滞在してチーズをつくっていると聞き、取引をしているチーズ屋さんに連れていってもらいました。
 まず、そこまでたどり着くのが大変です。標高1500mくらいのところにある山小屋で1泊、荷物を置いて道なき道をさらに1時間ほど登ってやっと到着です。まさにアルプスの高原の真っただ中、澄んだ空気に包まれて別世界のようでした。ここで、量産していない幻のチーズ「ブルー・ド・テルミニオン」に出合えたのは、忘れられない思い出となっています。

――チーズの産地に行かれたとき、フロマジェとしてどのようなことを体験されるのですか?

コンテの熟成庫を訪れた村瀬さん

 百聞は一見にしかずといいますが、どのようにつくられているのかを、実際に見て知る意味は大きいです。訪問するときは、チーズの専門家フロマジェであることを認識してもらえるよう、コックコートを着用します。チーズの専門家がやってくるのは珍しいのか、小規模な工房の職人さんなどはとても歓待してくれます。プロ対プロということで、さらに詳しく説明してくれることもあるんですよ。

 現地では、飼われている牛や羊の状態、何を食べているかも見ます。品質管理は、特に重要なチェックポイントです。ブルーチーズの「ロックフォール」や白カビタイプの「ブリ・ド・モー」など、特に無殺菌乳を使用する場合は雑菌が入らないよう、細心の注意を払わなければなりません。もちろん熟成の環境も確認します。たとえば「コンテ」の熟成庫は、木の香りに包まれています。地元の森のエピセアというモミの木製の板の上で丁寧に手入れされ、風味豊かな味になるのですね(チーズの種類、名称など第2回を参照)。
 また、もともと保存食としてつくられた「コンテ」は、最低でも4カ月、長いと2年ほど熟成させます。常に状態を確認して手入れをする熟成士がいなければ、長期に渡り品質を保つことはできないでしょう。細やかな配慮の積み重ねで、おいしいチーズがつくられていくのです。(つづく)

 豊かな自然の中で品質を守りながら大切に育まれてきたフランス産チーズは生産地や生産者によって香り、味、食感もさまざま。そんな個性的なチーズを日本で楽しむにはどうしたら? 次はいよいよ実践編! おうちでおいしく食べるコツを紹介します。

(写真提供・日本チーズアートフロマジェ協会、構成・坂井彰代)

【一般社団法人日本チーズアートフロマジェ協会】https://www.cheeseart-fromager.jp/

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【むらせ・みゆき】
一般社団法人日本チーズアートフロマジェ協会副理事長。国際線客室乗務員勤務時代にチーズの魅力やチーズにまつわる食文化に魅せられ、ワインスクール講師、チーズ専門店店長を経て、2013年にチーズの教室「The Cheese Room」をオープン。同年、世界最優秀フロマジェコンクール2013で優勝する。「美味しいチーズで幸せな日々を」をモットーに、イベントやセミナー、メディア出演をとおしてチーズのある豊かなライフスタイルを提案。チーズの専門家フロマジェおよびチーズエキスパート育成や普及活動にも力を注ぐ。著書は『村瀬美幸のおうちでごちそう本格チーズクッキング』(草思社)、『10種でわかる世界のチーズ』(日本経済出版社)。現在、日本チーズアートフロマジェ協会では、毎月オンラインセミナーでフランス産チーズが楽しめる「世界チーズ紀行」フランス地方編や、チーズアートを体験できる「チーズプラトー講座」を開催中。
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