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食べるしあわせ
チーズでフランス旅気分 日本チーズアートフロマジェ協会副理事長
村瀬美幸
第2回 一つの村に一つの味がある
 チーズ王国フランスでは、広い国土の気候や風土の違いを生かして個性豊かなチーズがつくられています。そのうち私たちが食卓で楽しめるのはほんの一部にすぎませんが、どんな土地、どんな製法でつくられたのか? 知れば知るほどおいしさが増し、フランスとのつながりを強く感じられるはず。食べるたびにその土地の情景を思い起こす深い味わいの秘密に迫ります。

レオ社の「カマンベール・ド・ノルマンディー」


――フランスには村の数だけチーズがあるといわれますが、いったい全部で何種類くらいあるのでしょう。

パリがあるイル・ド・フランス地方でつくられている白カビタイプの「ブリー・ド・モー」

同じ地方で生産されている「ブリー・ド・モー」「ブリ・ド・ムラン」「クロミエ」は「ブリ3兄弟」と呼ばれている

 全部で1300種類以上あるといわれます。昔からつくられている伝統的なチーズに加えて、ヴァレンタインデーに合わせたハート型のチーズや、乾燥した食用花をまぶしたチーズ、スパイスやコショウをサンドしたブリなどの新作も登場していますから、どんどん増え続けているのではないでしょうか。

 日常的に食べるものなので、消費量も半端ではありません。フランスのチーズ店で働いていた教え子から聞いた話なのですが、バカンスの前になると、皆さんとんでもない量のチーズを買うそうです。「ハード系1kgで足りるかしら……。ブルーチーズをもう1kgお願い」などと、滞在先に持っていくチーズをどんどん買い足していくんですね。クリスマスシーズンもチーズ需要が高くなって、いつもならスーパーで買う人も少し奮発して専門店で、という気持ちになるようです。この時期はものすごく混み合うので、買うのに戦々恐々とするくらいですよ。

――日本では白カビチーズの「カマンベール」が有名ですが、ほかにも、いろいろな種類があるそうですね。代表的なチーズを教えていただけますか。

 白カビなら「ブリ」です。中でもパリ近郊でつくられる「ブリ・ド・モー」は、「チーズの王様」とも呼ばれ、フランスを代表するチーズといえるでしょう。ブリの製法を取り入れた「カマンベール」もポピュラーですが、同じ円盤型でもブリは直径36~37cm、重さは3kg近い超大型。上品で味わい深く、誰からも愛されるチーズです。

フランス産チーズの中で最古のチーズといわれている「カンタル」

爽やかな酸味と軽やかな風味が特徴の「サント・モール・ド・トゥーレーヌ」

 青カビを使ったブルーチーズの筆頭は、羊乳から造られる「ロックフォール」ですね。イタリアの「ゴルゴンゾーラ」、イギリスの「ブルー・スティルトン」と並び、世界3大ブルーチーズの一つとされます。青カビの刺激的な味わいと、滑らかな食感、独特の風味で知られます。

 ハードではスイスに近いフランシュ・コンテ地方の「コンテ」、セミハードは山岳地であるオーヴェルニュ地方の「カンタル」など。こうしたハード系で思い浮かぶのは重量感のある山のチーズです。昔、冬になると雪に閉ざされてしまった山岳地帯では、栄養価が高く、長期間保存できる大型のチーズが造られました。ナッツのような甘みを感じさせ、熟成の度合いによって味が変わるので、食べ飽きることがありません。

 チーズに使うミルクは牛や羊の乳とは限りません。ヤギ乳を使うシェーヴルは、ロワール地方の名産。中央に藁が1本通してある筒状の「サント・モール・ド・トゥ―レーヌ」や、ころんとした愛らしい形の「シャヴィニョル」などが有名です。食べ慣れていないせいか敬遠される方も多いのですが、フレッシュなものはクセがなく、口当たりのよいチーズです。
 

独特の香りと濃いうま味を併せ持つ「エポワス」

 チーズの表皮を塩水やお酒などで洗って熟成させるウォッシュタイプだと、ブルゴーニュ地方の「エポワス」をおすすめします。オレンジ色の表皮に包まれた中身は、驚くほどクリーミー。口溶けのよさも魅力です。秋から冬にかけてなら、8月中旬から翌年の3月中旬にかけて限定製造される「モンドール」を。トロトロになった中身をスプーンですくっていただく、寒くなった季節だけのお楽しみです。

フランス13の地方~『フランスの小さな村を旅してみよう』(木蓮)より~
(写真:編集部)


――味や形、製法もさまざまですね。お話を聞いていると、チーズを通してフランスの地方を旅している気分になります。

 いろいろなチーズを味わうときに、どんなところでつくられたのかを知ると、より理解が深まると思います。ワインを語るとき、「テロワール(生産地の土壌や気候を含めたその土地固有の性質)」という言葉がよく使われますが、チーズもその土地の風土と深くかかわっているからです。

 フランスは地方色が豊かな国で、チーズの原料に欠かせない牛一つとっても、地方ごとに飼っている種類が違います。車窓に見える牛の種類が変わることで、「あ、地方が変わった」と気づくこともあるくらい。たとえばフランス北部のノルマンディー地方では、「ノルマンド種」という牛の乳を使って「カマンベール」や「リヴァロ」といったチーズがつくられます。風味がよく、ノルマンディー名産のバターの原料としても使われます。

ノルマンディー地方原産のノルマンド種

 一方、東部フランシュ・コンテ地方に行くと、どこを見ても白に茶色のブチのモンベリヤード牛ばかり。「コンテチーズ」はこの牛のミルクを使うことが厳格に定められています。土地と結びついた原料を使うことで、個性豊かなチーズが生まれるのです。
 原料になる生乳以外にも地元のものを使うことも多いですね。たとえば、先ほど紹介した「エポワス」は、同じブルゴーニュ産のマールという蒸留酒で洗ったウォッシュチーズです。また、南仏には地元の栗の葉で包んだシェーヴルチーズがあり、プロヴァンスの香りを運んでくれます。(つづく)

 これまでにフランス各地の生産地を訪ね歩いた村瀬さんは、希少なチーズを求めて国立公園の中にある山深い小さな村に訪れたこともあるそう。次回は当時の思い出を交えながら、伝統的なこだわりの製法なども紹介してもらいます。

(写真提供・日本チーズアートフロマジェ協会、構成・坂井彰代)

【一般社団法人日本チーズアートフロマジェ協会】https://www.cheeseart-fromager.jp/

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【むらせ・みゆき】
一般社団法人日本チーズアートフロマジェ協会副理事長。国際線客室乗務員勤務時代にチーズの魅力やチーズにまつわる食文化に魅せられ、ワインスクール講師、チーズ専門店店長を経て、2013年にチーズの教室「The Cheese Room」をオープン。同年、世界最優秀フロマジェコンクール2013で優勝する。「美味しいチーズで幸せな日々を」をモットーに、イベントやセミナー、メディア出演をとおしてチーズのある豊かなライフスタイルを提案。チーズの専門家フロマジェおよびチーズエキスパート育成や普及活動にも力を注ぐ。著書は『村瀬美幸のおうちでごちそう本格チーズクッキング』(草思社)、『10種でわかる世界のチーズ』(日本経済出版社)。現在、日本チーズアートフロマジェ協会では、毎月オンラインセミナーでフランス産チーズが楽しめる「世界チーズ紀行」フランス地方編や、チーズアートを体験できる「チーズプラトー講座」を開催中。
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