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食べるしあわせ
チーズでフランス旅気分 日本チーズアートフロマジェ協会副理事長
村瀬美幸
第1回 地方色豊かなソウルフード
 牧場をのんびりと草をはむ牛や羊、高原を吹き抜ける風の香り……。フランスならではの素朴な田舎風景を連想させてくれるのは、搾りたてのミルクでつくられたチーズたち。豊かな自然に育まれた芳醇な味わいが、日本に居ながらにして遠いフランスを身近に感じさせてくれます。“村の数だけチーズがある”といわれるほど、形や味、原料乳、製法に至るまでフランス産チーズは多種多彩。その奥深い魅力についてチーズの専門家(フロマジェ) 村瀬美幸さんにうかがいます。


――チーズ専門家の世界大会である「世界最優秀フロマジェコンクール2013」で優勝し、チーズのエキスパート「フロマジェ」として活動している村瀬さんですが、本の執筆や教室など、その魅力をさまざまな形で発信されています。そもそも、どのようなきっかけでチーズとかかわることになったのでしょうか?

(写真:編集部)

「本格的なチーズ」というものを初めて意識したのは、高校時代、アメリカのウィスコンシン州に留学していたときです。アメリカ中西部の最北部に位置する同州は、実はチーズの名産地。チェダーチーズに似たオレンジ色のチーズ(地元原産のコルビーチーズ)を大きな塊のまま売っていたり、ハンバーガーを買うとフライドポテトにチーズソースがたっぷりかかっていたりと、とにかくよく食べるのでびっくり! チーズは普段の暮らしに溶け込んだものだなと実感しました。日本にいるときは、チーズといえばケーキなどのお菓子に使うくらいだったので、認識を変える経験となりました。

 フランスのチーズについて関心を持ったのは、国際線の客室乗務員としてファーストクラスの食事サービスをしたのがきっかけです。メイン料理の後にチーズのワゴンサービスがあり、5~6種類あるチーズをお客さまの目の前でカットして、フルーツと一緒に盛り付けます。このとき、季節に応じてチーズの種類が変わることに興味をそそられました。一年中同じものが売られているというイメージがあったチーズにも、旬があったのです。この事実に気づいてから、チーズのことをもっと知りたいと思い始めました。

――そこからチーズの専門家を目指したのですね。これまでにヨーロッパを中心に世界各地の生産地を訪れて製法や食べ方などを学んでこられたとか。中でもチーズ王国といわれるフランスは全土を回られています。フランスでは、一般家庭でも数種類のチーズが常備されていると聞いたことがありますが、フランス人にとって「チーズ」とはどんな存在なのでしょう?

サントル・ヴァル・ド・ロワール地方でつくられている「シャヴィニョル」

原料にはヤギの新鮮なミルクが使われている

 チーズは、フランス人にとって「ソウルフード」といえるものです。日本で例えるなら「味噌」。私は岐阜出身で八丁味噌に慣れ親しんできたため、東京の味噌汁は最初、風味がマイルドという印象を受けました。漬物や雑煮も、地方ごとの味がありますよね。フランスでも、我が家の食卓にいつも出てくる地元のチーズが必ずあるんです。

 郷土の味には、誰しも思い入れがあるもの。私は初対面のフランス人と話すときは、まずチーズの話題から入るようにしています。たとえば南仏出身の人には、「シェーヴル(ヤギ乳のチーズ)、おいしいよね」などと、その地方のチーズの話をあいさつ代りにすると、すぐ打ち解けられる。土地ごとに名産のワインがありますが、それは大人になってから出合う味。でも、チーズは幼いころから食べているので、人生の中でそれだけ付き合いが長い食べ物になります。つまり、ワイン以上に親しくなれるのがチーズなのです。

――フランスといえばワインの産地として知られますが、村瀬さんはチーズの道に進まれる前に、ソムリエの資格をとられています。ワインとチーズの楽しみ方の違いはありますか?

 ワインの場合、一年に一度ブドウを収穫して造るため、ヴィンテージ(ブドウの収穫年)が当たり年かどうかが、出来栄えに大きく影響します。一方、チーズは四季を問わずつくるものなので、牛が食べる牧草によってミルクの質が変わり、チーズの仕上がり具合や食べごろが異なってきます。たとえば春から初夏にかけて青々とした牧草を食べた牛たちのミルクからつくられるチーズは、花や果実を思わせる華やかな香りがするんですよ。

 野菜や魚のように、一年の中で旬を楽しめるのがチーズ。クオリティーが高いものを食べたいと思ったら、時期も選ばなければならない。限定ものに弱い私にぴったりです(笑)。
 また、料理やお菓子にも使えて、食材としてはワイン以上に守備範囲が広いのも、チーズの大きな魅力ですね。(つづく)

フランスとスイスの国境付近にあるジュラ県に咲く野花


 年中出回っているのかと思いきや、それは大きな勘違い。チーズの食べごろを知れば、これまでとひと味もふた味も違うおいしさに出合えるかもしれません。次回は”365日違う味が楽しめる”といわれる豊富な種類や各地方の特徴について教えてもらいます。

(写真提供・日本チーズアートフロマジェ協会、構成・坂井彰代)

【一般社団法人日本チーズアートフロマジェ協会】https://www.cheeseart-fromager.jp/

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【むらせ・みゆき】
一般社団法人日本チーズアートフロマジェ協会副理事長。国際線客室乗務員勤務時代にチーズの魅力やチーズにまつわる食文化に魅せられ、ワインスクール講師、チーズ専門店店長を経て、2013年にチーズの教室「The Cheese Room」をオープン。同年、世界最優秀フロマジェコンクール2013で優勝する。「美味しいチーズで幸せな日々を」をモットーに、イベントやセミナー、メディア出演をとおしてチーズのある豊かなライフスタイルを提案。チーズの専門家フロマジェおよびチーズエキスパート育成や普及活動にも力を注ぐ。著書は『村瀬美幸のおうちでごちそう本格チーズクッキング』(草思社)、『10種でわかる世界のチーズ』(日本経済出版社)。現在、日本チーズアートフロマジェ協会では、毎月オンラインセミナーでフランス産チーズが楽しめる「世界チーズ紀行」フランス地方編や、チーズアートを体験できる「チーズプラトー講座」を開催中。
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