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アンチエイジングの教科書
東海大学健康学部 特任教授
石井直明
第1回 自分の体を知ることから始めましょう
 いつまでも若々しく美しく……そんな私たちの思いに応えてきた『アンチエイジング読本』の刊行から5年。著者で健康医科学の専門家・石井直明先生が、最新の知見を携えて帰ってきました! 遺伝子やゲノムといった言葉が日常的に聞かれ、身体の仕組みの解明は日進月歩。一方で、ダイエットや美容に関する情報はあふれるばかりで、振り回されると肝心な健康を害しかねないことも。だからこそ、エビデンス(知見)に基づく正しい情報を理解することが大切です。「元気で健康に過ごせる体づくりこそ、アンチエイジングの目的」と説く石井先生が、美と若さ、そして健康についてわかりやすく解説する新連載。その名もズバリ「アンチエイジングの教科書」の始まりです!

美と若さを求めながら不健康になってしまう理由


 アンチエイジングは美と若さを追求するものですが、その土台となるのは「健康」です。では、私たち日本人の考えるアンチエイジングは、果たして健康に結びついているのでしょうか。
 日本の女性は「やせること」へのこだわりが強く、「やせたね」と言われると、ほとんどの人が喜びます。でも、海外で女性に向かって「やせたね」と言うと、むしろ不快感を示されます。なぜなら、やせていることは不健康を意味するからです。

石井直明先生

 健康な女性なら、アスリートでもない限り体脂肪率は25パーセントくらいが普通です。皮下脂肪には、体内の男性ホルモンを女性ホルモンに転換させる働きがあり、体脂肪が少なくなりすぎると、男性ホルモンの割合が増えて無月経などの月経異常が起こりやすくなります。体脂肪が低下した状態は、そのほかにもさまざまな異常を引き起こし、女性の健康を損ねることにつながるのです。

 一方で、「隠れ肥満」も問題です。隠れ肥満とは、体重やBMI(=体格指数。BMI=体重(キログラム)÷身長(メートル)÷身長(メートル))は標準値以内でも、体脂肪率が標準値をこえ、「肥満傾向」(女性の場合27~34パーセント)や「肥満」(同35パーセント以上)になっている状態のこと。原因は、間違ったダイエット法や運動不足により、筋肉が減ってしまうためです。

 美と若さは、当然のことながら健康な体に宿るもの。それでは、健康な体とは? 病気ではないこと、元気なこと……残念ながら、それだけではありません。
 健康な体の重要な条件は、脂肪と筋肉のバランスが取れ、丈夫な骨で支えられていること。そして、私たちの体の脂肪も筋肉も骨も、食べたものからつくられます。日々食べたものが消化管で消化吸収され、分解されたり、体に必要なものが合成されたりすることで、私たちの健康は保たれているのです。
 少し考えてみれば、当たり前のように思われるこのような体のメカニズム。ところが、きちんと理解している人は少ないように思います。だから、間違ったダイエット法や健康法に飛びつき、結果的に不健康になって美や若さも失ってしまう危険があるのです。

アンチエイジングは体のメカニズムを知ることから始まる


 NHK放送文化研究所が2016年に行った「食生活に関する世論調査」の結果を見ると、日本人がどれほど栄養に無関心かがわかります。少し古いデータですが、いまも大きく変わっていないと思います。
 「食事で重視すること」でいちばん多かったのは「おいしいものを食べること」(40パーセント)で、「栄養がとれること」(24パーセント)は2番目でした。栄養が重要だという意識は若い人ほど低く、16~29歳の男性では8パーセント、同じく女性ではわずか13パーセントです。逆に、「おいしいものを食べること」を重視するのは、男性では50歳代までのすべての年代で40パーセント以上、16~29歳の女性では60パーセントと突出しています。確かにおいしく食べることは大切ですが、私たちが食事をする最も重要で本質的な目的は栄養の摂取であるはず。空腹が満たされ、おいしく楽しく食べられたとしても、体に必要な栄養がバランスよく含まれていなければ、食事本来の目的は果たせないということを理解していない人が想像以上に多いことに、私も驚きました。
 私たちの体が食べたものでつくられる以上、健康づくりにバランスのよい食事は欠かせません。生活習慣病の予防を目的として、2005年に農林水産省と厚生労働省が共同で「食事バランスガイド」を策定しました。1日に何をどれくらい食べたらよいのか、日本人の食事に合わせてわかりやすくイラストで表したものですが、策定からだいぶ時間が経っても、まだまだ私たちの食生活に浸透していないようです。

1日に何をどれくらい食べたらよいのかを、コマのイラストとその中にある料理から考えられるようにしたもの。主食、副菜、主菜、乳製品、果物などを組み合わせて食べる日本の食事スタイルに合わせ、よく目にする料理のイラストで表現している。生活習慣病の予防を目的に、農林水産省と厚生労働省が2005年に策定した

 一方、「自分は栄養に気を遣っているから大丈夫」という人でも、食べたものが体の中でどのように作用し、体の中でどのような変化が起こっているのかまで関心を持っている人は少ないのではないでしょうか。
 例えば、テレビ番組や雑誌、インターネット、SNSなどの情報で、「亜鉛が体によい」と知ったら、牡蠣を食べたり亜鉛のサプリメントを飲んだりします。同様に、メディアで「この食材が体によい」と流されると、スーパーマーケットの棚が一気に空になるほど売れることがよくあるようですね。でも、なぜその食材の栄養素が健康によいのか深く知ろうという人はあまりいません。
 ちなみに、亜鉛は体に必要な微量元素の1つ。不足すると味覚異常になったり、男性では精子がつくられにくくなったりします。その栄養素が不足するとよくないけれど、それだけではダメ。あくまで全体でバランスよい栄養素を含む食事をとることが大事です。

 そして、美しさと若さ、そして健康を支えるアンチエイジングにおいて最も大切なのは、体のメカニズムを知ることです。私たちの体が正常に働くためにはどのような栄養が必要で、摂取した栄養が体の中でどうように使われ、働くのかということを理解している人は、必要な栄養を過不足なく食べるという行動が自然にできます。「ダイエットには○○がいい!」と耳にしても、栄養に関して基本的なことがわかっていれば「これはおかしいい」とすぐに気づき、その情報に踊らされることは決してありません。

 加齢ばかりではなく、ウイルスに紫外線、乾燥に猛暑と、私たちの向かうところ敵ばかりに思われますが、?敵を知るにはまずおのれから?とのことわざもあるように、アンチエイジングのためにもまずは自分の体について知ることから。この連載で説いていきたいのは、一生ものの体をつくるために理解してほしいこと。栄養だけでなく運動など、効果的なアンチエイジングのために知っておきたい体のメカニズムをやさしく詳しく解説していきます。(つづく)

(構成・天野敦子)
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【いしい・なおあき】
医学博士。1951年神奈川県生まれ。東海大学医学部教授を経て2018年より同大健康学部特任教授。専門は老化学、分子生物学、健康医科学。30年以上にわたり老化のメカニズムを研究し、世界で初めて老化と活性酸素の関係を解明。テレビや雑誌などでも幅広く活躍する。著書に『専門医がやさしく教える老化判定&アンチエイジング』『分子レベルで見る老化』『アンチエイジング読本』ほか。
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