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美しいくらし
フランスの一度は訪れたい村 トラベルライター
坂井彰代
最終回 雨露に濡れた礼拝堂を訪ねて「サン・セヌリ・ル・ジェレ」(上)

サン・セヌリ・ル・ジェレの村


 旅先で撮った写真をすぐSNSに上げたり、世界中から即座にレスポンスが届いたりする時代になっても、絵葉書を買い求める習慣はなくなっていないのでしょうか? フランスのどの町に行っても、お土産屋さんや駅の売店、タバコ屋の店先などで、たくさんの絵葉書が売られているのを見かけます。その町の代表的なモニュメントや風景写真が使われているものがほとんどですが、中には郷土料理の写真とレシピを掲載した絵葉書もあって、ひと通り集めれば立派な料理ファイルができそうです。

 フランス北部のノルマンディー地方を旅したとき、さまざまな絵葉書を取りそろえたスタンドで、ちょっとした変わり種を見つけました。「I have a dream」という英語のコピーが入ったその絵葉書には、フランス全土の天気予報を示すイラストが描かれています。よく見ると、ノルマンディー地方だけ晴れ、残りはすべて雨、という天気予報図です。「夢」ですから実際はその逆という、いわば自虐ネタです。お土産屋さんの店内をのぞけば、ノルマンディー名物のガレット(バターをたっぷり使ったクッキー)の箱のフタにも、同じイラストが使われているではありませんか。それほど雨が多い地方なのでしょう。

 サン・セヌリ・ル・ジュレはノルマンディー地方の南端、大きく蛇行するサルト川に挟まれた場所にある小さな村です。車で訪ねたときも、冷たい雨が降っていました。普段なら、どんよりとした空を見ただけでがっかりしてしまうところです。でも、水滴が流れ落ちる車窓を眺めているうち、これもノルマンディーらしい風景と言えるのかな、と思えてきました。晴れの日とはまた違う、日常の風景に出会えるかもしれません。


 その雨も、村に着くころには上がり、しっとりと濡れた石畳の道や趣のある家並みが迎えてくれました。河岸から少し高台になった村まで続く坂道など、至るところに絵に描きたくなるような景色が溶け込んでいます。創作意欲を刺激されて、長く逗留した画家たちも多かったとか。村にはそうした画家たちが滞在したオーベルジュ(宿泊できるレストラン)が今も残っています。

 協会が定める基準をクリアした村や町に与えられる「フランスの最も美しい村」のほか、「個性が光る小さな町」にも登録されているサン・セヌリ・ル・ジェレ。夏のシーズンにはきっと多くの訪問者を迎えていることでしょう。でも、私が訪れたのは11月、しかも雨とあって歩いている人はほとんどいません。あいにく観光案内所も閉まっていましたが、小さな村なので地図なしでも歩けそうです。(つづく)


【サン・セヌリ・ル・ジェレの行き方】
パリのモンパルナス駅から高速列車TGVで約1時間分のル・マン駅下車。そこから車で北へ約1時間。


(写真:伊藤智郎)

【11月22日から発売開始】
トラベルライター・坂井彰代さんの連載が本になりました!

 フランスの村巡りをつづった連載「フランス小さな村の教会巡り」「フランスの一度は訪れたい村」をもとに加筆して書籍化! 新刊『フランスの一度は訪れたい村』として2019年11月22日(木)から発売になりました。
 本書で取り上げる村は、フランス本土12地方に点在する30の村。これまでに約100回も渡仏し、100カ所以上の村を訪ね歩いた坂井さんの、特に印象に残る村ばかりを集めました。名画を生んだ芸術家ゆかりの村、大地を見下ろす天空の城塞都市、逸話が残る美食の里など、時を経てもさらに輝き続ける村の魅力を、豊富なカラー写真とともに旅人目線で紹介します。新刊の詳細は

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【さかい・あきよ】
徳島県生まれ。上智大学文学部卒業。オフィス・ギア主宰。「地球の歩き方」シリーズ(ダイヤモンド社)の『フランス』『パリ&近郊の町』などの取材・執筆・編集を初版時より担当。取材のため年に3~4回、渡仏している。著書に『パリ・カフェ・ストーリー』(東京書籍)、『パリ・メトロ散歩』(同)がある。
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