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美しいくらし
フランスの一度は訪れたい村 トラベルライター
坂井彰代
第1回 印象派画家たちが愛した水辺の風景「ラ・ブイユ」(上)
 絵画の中に迷い込んだような美しい風景、教会の鐘や山あいの牧場に響くカウベルの音、村を満たす花の香り……。そんな夢のような場所を訪れる旅のエッセイがスタートしました。キャリア30年以上のトラベルライター・坂井彰代さんが、連載「フランス小さな村の教会巡り」に続いて、フランスの地方都市に点在する至極の村や町を紹介。一度は見て、ふれてみたくなるような旅の情景を軽やかなタッチでつづります。

ラ・ブイユの街並み


 川沿いの町で生まれ育ったせいでしょうか、水辺、とりわけ川辺の風景に親しみを感じます。フランスにもたくさんの川がありますが、日本でもよく知られているのは、やはりセーヌ川でしょう。水源はフランス中部のブルゴーニュ地方にあり、北部ノルマンディー地方でイギリス海峡に注ぎ込むまで全長780キロメートルという大河です。
 パリとセットでイメージされることが多いのですが、市内を通るのはごく一部。さまざまな町や村を経由しながら、大きく蛇行して流れてゆきます。そんなセーヌ川の流域が、パリとはまた違う美しさをもつことを教えてくれたのは、印象派の画家たちでした。

 ポプラ並木が続く河畔の小道、綿菓子のような雲、ゆらゆらと浮かぶ小舟……。印象派画家たちが描いたセーヌ河畔は、いつも穏やかな光に照らされています。描かれた場所に行けば、こんな風景なのかしら。そんな思いを抱きながら旅をしていたとき、ある村と出合ったのです。

ノルマンディーらしい木骨組みの家


 「ラ・ブイユに行ったことある?  シスレーが絵を描いたところだよ」
 教えてくれたのは、ノルマンディー地方の町、ルーアンの観光局長でした。初めて聞く名前です。地図を見ると、ルーアンと同じくセーヌ河畔にあり、バスや鉄道は通っていない相当田舎のよう。でも、せっかくすすめてくれたのだからと、ちょっと寄ってみることにしました。

18世紀創業の看板が

 ルーアンから車で30分ほどで到着。車を降りてみると、単なる素朴な村とはちょっと違う空気を感じました。パステル調の壁や木骨組みのファサードは、きちんと手入れされ、どこか上品な趣があります。セーヌ川に面して建つ数軒のホテルも気になりました。海辺のリゾートホテルのような華やかさはないけれど、常連客が秘密にしたくなるような、隠れ家的な雰囲気を持ち合わせているのです。
 看板を見れば、18世紀創業というホテルもあるではありませんか。ひょっとしたら印象派の画家たちが逗留したのかもしれません。
 「いつかここに泊まる!」と心の中で誓って、村をあとにしました。

 あれから3年。昨年の秋、その夢をかなえる機会が訪れました。この辺りを回るプランを考えていたとき、村で空いているホテルを見つけたのです。地図を見れば、セーヌ川沿いに建つという理想的なロケーション。なんてラッキー! と、すぐに月曜の宿泊予約を入れました。ところが、この「月曜日」が失敗だったのです。

 ラ・ブイユに向かう車の中で、プリントしてきたホテルの予約コンファメーションを確認しました。あれ? チェックイン時間が「18:00~20:00」と書いてあるではありませんか。たった2時間? それも夜? きっと間違いだよね、とホテルの前に車を止めて入ろうとしたら……。ガーン。本当に閉まってる! さらに調べてみると、レストランも休み。近くにあるほかのレストランも固く扉を閉ざしています。その扉には「定休日:日・月」の文字が。月曜日に休む店が意外と多いことを、すっかり忘れていました。

左が宿泊したホテル「ル・サン・ピエール」


 このままでは夕食ヌキになってしまいます。そこでスマートフォンのアプリに助けを求めることにしました。探してもらった「一番近いスーパー」は5キロメートル先。食料を無事に調達できた文明の利器に大感謝です。18時過ぎてやっと鍵が開いたホテルに入ると、マダムが満面の笑みで迎えてくれました。
 「今日はレストランが開いていないから、オスシとりたかったら言ってね」
 出前! その手があったとは。(つづく)

【ラ・ブイユへの行き方】
パリ・サン・ラザール駅から列車で約1時間半のルーアン・リヴ・ドロワット駅で下車。ここから車で南西へ約30分


(写真:伊藤智郎)

【トラベルライター・坂井彰代さんの記事】
フランスの教会に魅せられ、これまで100以上を訪ね歩いてきた坂井さんが、人々から愛される個性豊かな教会を紹介してくれます。フランスの美しい教会と村の両方を楽しめる連載「フランス小さな村の教会巡り」はこちら。
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【さかい・あきよ】
徳島県生まれ。上智大学文学部卒業。オフィス・ギア主宰。「地球の歩き方」シリーズ(ダイヤモンド社)の『フランス』『パリ&近郊の町』などの取材・執筆・編集を初版時より担当。取材のため年に3~4回、渡仏している。著書に『パリ・カフェ・ストーリー』(東京書籍)、『パリ・メトロ散歩』(同)がある。
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