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美しいくらし
フランスの一度は訪れたい村 トラベルライター
坂井彰代
第1回 印象派画家たちが愛した水辺の風景「ラ・ブイユ 」(下)

川辺の遊歩道


 朝7時、ホテルの部屋から外をのぞくと、まだ真っ暗です。フランスの人たちは、夜が明けるのが遅くなるにつれて、冬の気配を感じるのでしょうか。そんな中、パン屋さんの明かりが朝であることを伝えてくれます。と、そこにパン屋へ足早に向かうマダムの姿が。宿泊者に出す朝食用のパンを買い出しに行っているのかしら。予約した7時半まであと10分というところでしたが、どうやら少し遅れて行ったほうがよさそうです。

セルフ目玉焼き調理中

 
 朝食の場所として指定された2階に行くと、現れたのは大きな窓を配した朝食サロン。明るくなれば、窓の向こうにセーヌ河畔の風景が広がるはず。よし、寂しい部屋食となってしまった昨日のリベンジ! と眺めのよい窓際のテーブルでいただくことにしました。

 すでにビュッフェスタイルでパンやハムが並んでいます。テーブルの上には湯気が立ち上る何やら温かげなものも。お湯をたっぷりたたえたセルフゆで卵機です。好みの固さにゆでられて、アツアツを食べられる優れもの。こうした調理機器を地方のホテルでよく見かけるのは、のんびり朝食をとる人が多いからかもしれません。その隣には、IHクッキングヒーターとミニフライパン、そしてオイルまで置いてあります。目玉焼きもセルフでどうぞ、とのことなのでしょう。
 卵料理を用意しているうちに、朝の光が感じられるようになってきました。ほどよく半熟になった卵と夜明けのセーヌ川、ささやかだけれど、幸せな気持ちに満たされた朝食タイムとなりました。

シスレーの作品『ラ・ブイユのセーヌ、疾風』のパネル

 ホテルを出るころには青空が広がり、木々の紅葉がきらきらと輝いて見えます。セーヌ川沿いの小道を歩いていくと、川岸にシスレーの絵のパネルが掲げられているのを見つけました。『ラ・ブイユのセーヌ、疾風』と題された作品は、初夏に描かれたものなのか、緑が鮮やか。一陣の風を受けて、かさかさと揺れる木の音が聞こえてきそうです。

 蒸気船が航行していた時代、港町として栄えたこともあったというラ・ブイユ。時は流れ、河畔の風景は変わっても、セーヌ川はきっとこの絵の時代のままなのでしょう。おや、車を数台載せた船がこちらに向かってきます。やがて着岸すると車は下船し、続けて待機していた車の列が吸い込まれるように船に入っていきました。全台乗り込むと、船はまた対岸へと出発。川のフェリー? いや、「渡し船」と言ったほうがしっくりくるのどかさです。

 「パッサージュ・ドー(Passage d’eau)」と書かれた船着き場の看板を見ると、対岸と結ぶこの「渡し船」は、朝から夜まで車を乗せて行ったり来たり。そういえば、ルーアンからラ・ブイユに向かう途中、いやそのかなり先まで橋がまったくなかったことを思い出しました。乗船代は無料。地元の人にとっては、道路の一部といった感覚なのかもしれません。
 そうだ、この船からならラ・ブイユ村の全景を眺めることができるはず。と、船がこちらに戻ってくるのを待って乗り込みました。船が岸を離れるにつれて、村の全景が現れました。セーヌ川に沿って続く家並みが水面に映る様は、まさに絵のような美しさです。

 この流れの終点はル・アーヴル。「印象派」という言葉が生まれるきっかけとなった、『印象、日の出』をモネが描いた場所です。セーヌ川も旅も、まだまだ続いていきます。

船から見たラ・ブイユ

 
【ラ・ブイユへの行き方】
パリ・サン・ラザール駅から列車で約1時間半のルーアン・リヴ・ドロワット駅で下車。ここから車で南西へ約30分


(写真:伊藤智郎)

【トラベルライター・坂井彰代さんの記事】
フランスの教会に魅せられ、これまで100以上を訪ね歩いてきた坂井さんが、人々から愛される個性豊かな教会を紹介してくれます。フランスの美しい教会と村の両方を楽しめる連載「フランス小さな村の教会巡り」はこちら。
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【さかい・あきよ】
徳島県生まれ。上智大学文学部卒業。オフィス・ギア主宰。「地球の歩き方」シリーズ(ダイヤモンド社)の『フランス』『パリ&近郊の町』などの取材・執筆・編集を初版時より担当。取材のため年に3~4回、渡仏している。著書に『パリ・カフェ・ストーリー』(東京書籍)、『パリ・メトロ散歩』(同)がある。
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