第1回 ヴェズレー「サント・マドレーヌ・バジリカ聖堂」(上)
“パリだけではないフランスの魅力を伝えたい”と、美しい村や花の村をめぐる連載や書籍をお届けしてきた「かもめの本棚」。そんなフランスの小さな村で、人々から愛される個性豊かな教会を紹介する新連載です。案内してくれるのは、フランスの教会に魅せられ、これまで100以上を訪ね歩いているトラベルライターの坂井彰代さん。会いに行きたくなる教会が、きっと見つかります。
聖なる丘、ヴェズレー
学生時代に初めてのヨーロッパ旅行で出合ったロマネスクの教会にひと目惚れ。以来、フランス全土を旅しながら、100を超える教会を訪ねました。教会巡りを始めて気づいたのは、「フランスの田舎にはすごい教会がある!」ということでした。
その背景には、中世の時代、巡礼路沿いに多くの教会が建てられたという事情があるのですが、教会がある村や田舎の風景がまた素敵で、教会巡りの旅がますます楽しくなってきました。
フランスの教会を訪ねる旅を始めた当初は、グルメでもなくファッションでもなく「教会が好きだからフランスが好き」と言うと、「暗い!」と思われることが多くて、自分から積極的に話すことはありませんでした。
でも、時が移り、仏閣巡りを愛する女性たちが「仏女」と呼ばれ、長崎の教会群が世界遺産に登録などというニュースを聞くにつけ、「いよいよ教会ブーム到来か!?」と、期待がふくらむこのごろです。
あなたにもぜひ、教会の魅力を知って、未来のファンになってほしい――そんな思いを込めて、フランスの美しい教会と村の両方を楽しめる、とっておきの場所を3つ選びました。

ブルゴーニュ・ロマネスクの傑作とたたえられるサント・マドレーヌ・バジリカ大聖堂
今回ご紹介するのは、ワインの里として知られるブルゴーニュ地方、ヴェズレーという村にあるサント・マドレーヌ・バジリカ聖堂です。
もし、「フランスで行くべき教会」を10挙げよ、と問われたら、教会好きの人たちの多くがランクインさせること間違いなし。1979年にはユネスコの世界遺産にも登録され、まさに中世ロマネスク教会の花形的存在です。
とあるエッセーを読んで心惹かれ、初めてこの教会を訪ねたのは、まだインターネットもスマホもなかった時代。冬の朝、エッセーに書かれていた情報だけをたよりに、乗客がたったひとりというバスに揺られ、ヴェズレーの村にたどり着きました。
丘の斜面に民家が連なり、その頂に教会が建っています。まだ眠っているかのように静かな村は朝もやに覆われ、まるで天上の世界のよう。
天使が舞い降りてくるって、こんなとき?
神々しさに、体が震えました。
ユネスコの世界遺産では、教会だけでなく、丘も含めた一帯が登録対象になっています。まさに、「聖なる丘」という言葉がぴったりの場所です。

ホタテ貝の印が巡礼者を導く
バスが到着するのは丘のふもと。大聖堂へ向かうためには、村のメインストリートでもある坂道をのぼっていきます。
路上を見ると、何やら光るものが。
これはホタテ貝の形をしたエンブレム。ヴェズレーは、スペイン北部、サン・ティアゴ・デ・コンポステーラへと続く巡礼路「聖ヤコブの道」の出発点のひとつで、ヤコブのシンボルとされるホタテ貝が道標のように埋め込まれているのです。村では、ホタテの貝殻をぶら下げた巡礼の人たちを見かけることも。
ここから中間地点となるピレネー山脈まで約1000km。山を超えてもまだまだ道は続きます。

看板にもホタテ貝のモチーフが
ワイン屋さん、オーベルジュ、観光案内所、郵便局などが並ぶ道は中世の面影が今も残り、石造りの家々やかわいらしい看板などを眺めながら歩けば、のぼり坂も苦になりません。
何より、もうすぐ憧れの教会と対面できるかと思うと、だんだんテンションも上がってきます。
そして、ゴール間近でようやく姿を現す聖堂。小さな村の教会とは思えないほど、堂々として立派なたたずまいです。教会ができたころは多くの人でにぎわい、「小さな村」ではなかったのかもしれませんね。
扉は朝7時から開き、訪れる人を迎え始めています。
(つづく)
(写真:伊藤智郎、オフィス・ギア)