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美しいくらし
フランス小さな村の教会巡り トラベルライター
坂井彰代
最終回 ヴァンス「ロザリオ礼拝堂」(上)
 今は、デジタルカメラどころかスマートフォンで、いくらでも好きなだけ写真が撮れる時代です。でも、私が旅を始めたころは、そうではありませんでした。フィルムを何十個もカバンに詰めて、無駄使いしないようシャッターチャンスを狙ったものです。ところが、ついつい写真を撮りすぎてしまい、フィルムの減りが思いのほか早くなってしまう場所がありました。それが南仏です。

南仏の光あふれるニース

 ニースの空港に降り立ち、ホールから外に出た瞬間、ほかのどこでもない南仏の光の洗礼を受けます。いまどきの言葉でいえば、「キラキラ感が半端ない」のです。まさにインスタ映えスポットの宝庫。カメラのない時代なら、絵筆をとりたくなったに違いありません。画家たちがこぞってこの地にやってきたのも、よく理解できます。
 画家アンリ・マティスもそのひとり。生まれはフランス北部、オー・ド・フランス地方のル・カトー・カンブレジという町ですが、その生涯の多くの時間を南仏コート・ダジュール地方で過ごしました。


ロザリオ礼拝堂

 連載の最後にご紹介するのは、そのマティスが晩年に手がけたヴァンスのロザリオ礼拝堂です。
 マティスは私の大好きな画家のひとり。悩みごとがあると、ついこもりがちな私を、力強い色づかいでいつも励ましてくれる画家です。その渾身の作、と聞けば訪ねずにはいられません。「色彩の魔術師」とも称された画家は、どんなマジックを見せてくれるのでしょう?

 ヴァンスへは、ニースの町から路線バスが通っています。バスは、最初こそ「紺碧海岸(コート・ダジュール)」の名にふさわしい海岸道路を走りますが、途中からぐいぐい内陸に入って行きます。せっかく見えた地中海からどんどん離れてはいくものの、海を見下ろす別荘やら高級ホテルやらがぽつぽつと。さすがは19世紀からの歴史をもつ高級リゾート地、文字通り奥が深いのです。

 1時間ほどでヴァンスに到着。ロザリオ礼拝堂に行くには、バス停からさらに15分ほど歩きます。方向音痴なので、どちらに向かえばよいか不安にかられていたら、標識を発見。礼拝堂のイラストを添えたなんとも可愛らしいデザインです。こんな道案内なら、迷わずたどり着けそうです。

ヴァンス歴史地区

礼拝堂のイラストがある標識

 その名もアンリ・マティス大通りを標識に従って歩いていくと、途中、橋のあたりでフォトジェニックな風景に出合い、思わず足を止めました。城壁に囲まれたヴァンスの歴史地区です。石造りの民家が肩を寄せ合う様子は、中世の村そのもの。トレマロ礼拝堂のあるブルターニュ地方では、民家の屋根はシックなブルーグレーでしたが、ここでは暖かなオレンジ色。太陽の光をたっぷり受けて、南仏色に染まっています。
 しばらく歩いていくと、純白の礼拝堂が見えてきました。屋根の上には月をあしらった十字架がすっと天に伸びています。60年以上前に造られたとは思えない、モダンで美しいフォルムにしばしうっとり。
 シュロの木に囲まれた礼拝堂は、いかにも南国風の雰囲気です。まるで、オアシスのように訪れる者を迎えています。(つづく)

(写真:伊藤智郎)
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【さかい・あきよ】
徳島県生まれ。上智大学文学部卒業。オフィス・ギア主宰。「地球の歩き方」シリーズ(ダイヤモンド社)の『フランス』『パリ&近郊の町』などの取材・執筆・編集を初版時より担当。取材のため年に3~4回、渡仏している。著書に『パリ・カフェ・ストーリー』(東京書籍)、『パリ・メトロ散歩』(同)がある。
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