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美しいくらし
シニア主婦から夢のピアニストに ピアニスト
中野万里子
最終回 “今”を積み重ねて次のステージへ
――「ピアノにはどんなに時間をかけても惜しくない」と語る、ピアニストの中野万里子さん。大阪国際音楽コンクール優勝という大きな目標を果たし、次はどんなステージに挑むのだろう。

お父様が描いた中野さん

刺繍の壁掛けはお母様の作品

 ある先生から、「これからはプロの演奏家としての自覚を持ちなさい」と言われました。もともとプロの演奏家になるためにコンクールに臨んだわけではなかったので、少し戸惑いがあります。でも、恥ずかしい演奏はできないとは感じています。コンクールではお金を払って演奏させてもらいましたが、これからはお金をいただいて演奏するのですから。

 実は、ここ数年の間に相次いで両親を亡くしました。2人とも音楽が大好きで、いつも私を応援し、演奏を楽しみにしてくれていました。不思議なことに、母も父も、私のコンクールの日程と重ならないように逝ったのです。そんな両親のためにもピアノを弾き続けたい。それが、2人への恩返しだと思っています。
 
 父を送った後に出場した大阪国際音楽コンクールのリサイタルコースでは、自分でも驚くほど集中して演奏できて、聴衆と一体になれたように思います。聴いた方が「涙が出た」と言ってくださって感激しました。この体験が、これから演奏家として活動する私の原点です。聴く人の心に響く演奏、人の心を動かせる演奏ができたら、ピアニストとしてこれほど幸せなことはありません。そのためにも、これまで以上に真摯にピアノと、楽曲と向き合っていこうと気持ちを引き締めています。

――コンクールに優勝した今、「演奏家としてレパートリーを増やすとともに、アンサンブルや伴奏者として他の演奏家と共演し、多くの人にピアノを教えるなど、音楽活動の幅を広げたい」と話す中野さん。何かに挑戦したくても、一歩を踏み出せずにいる人へのアドバイスを求めると……。

2018年2月、フランス・ボルドーで開催されたカップフェレ音楽祭に招待されて演奏。喝采をあびた(写真提供:中野万里子)
 やりたいことがあっても躊躇する人は堅実なのではないでしょうか。それは大切なことだと思います。シニアになってからの挑戦には、20代や30代とは違った勇気が必要です。万一失敗したら、再々挑戦のためにはもっともっと勇気が必要になると覚悟しなければなりません。

 自分の年齢や世間体などを気にして、「そんなことをしたら恥ずかしい」と思っている人もいることでしょう。でも、私がコンクールに出場すると決めたとき、誰も笑ったり、反対したりしませんでした。驚きながらも応援してくれたんです。

 私は、「変わっている」とよく言われます。「好き勝手なことばかりして、他人の意見を聞かない」とも。そう言われてあまりよい気持ちはしませんが、これが自分ですし、今さら性格は変えられません。変わったことでも好き勝手なことでも、真剣に取り組めば、周囲の人はきっと認めてくれます。私も自分の思いに正直に行動し、あきらめずに続けてよかったと実感しています。

――始めたら最後まで、倦まず弛まず、規則正しく、あきらめずに続ける。それが大切だとわかってはいても、実行するのはなかなか難しい。

撮影:中村美奈子

 ときどき私は、「いつまでピアノを弾けるのかな」と考えます。今はまだ大丈夫ですが、体力的、精神的に、演奏することが年々しんどくなっているのは確かです。気持ちは若いころと変わらないんですけれど(笑)。だから、伴奏を頼まれると冗談で、「生きていたらやるね」と言っています。

 先のことを考えようとすると、逆に先に進めない。だから「今」を考えます。「今、何をしたいか」「今、何をしなければならないか」「今をどう楽しむか」……。目の前にあるコンサートに向けて、今、すべきことを一つずつ着実にこなしていく。その積み重ねが、自分自身で納得できる結果につながっていくのではないでしょうか。

――中野さんの人生はソナタだ。ピアニストを目指す華やぎの少女時代が第1楽章で、家庭を守り、子育てをする穏やかな日々が第2楽章、ピアノを再開して練習に励む期間はアップテンポの第3楽章。そしてコンクールに優勝した今、次の楽章のページが開かれようとしている。新しい五線紙に、中野さんはどんな音楽を書いていくのだろう。彼女のピアノの一つひとつの響きを、彼女の人生のきらめく「今」を、コンサートホールで共有できる日を楽しみに……。

(構成・川島省子)

【中野万里子さん出演のコンサート】
 大阪国際音楽コンクール受賞者によるガラ・コンサート
 日時:6月26日(火) 19:00開演(18:30開場)
 会場:兵庫県立芸術文化センター神戸女学院小ホール
 問い合わせ先:大阪国際音楽コンクール事務局
 電話:06-6625-5931 FAX:06-6625-5934 E-メール:osakaimc@gmail.com
 
【中野万里子さんのfacebook】
https://www.facebook.com/mariko.nakano.96780
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【なかの・まりこ】
ピアニストを目指し京都市立芸術大学で学ぶ。卒業後、日本演奏連盟推薦オーディションに合格し、大阪フィルハーモニー交響楽団とラフマニノフのピアノ協奏曲第2番を共演。結婚を機に本格的なピアノの演奏活動から離れて子育てや家事に専念し、シニアになってからコンクールを目指して練習を再開。第41回ピティナ・ピアノコンペティション全国決勝大会「A2」第2位ほか、数多くのコンクールでの入賞を経て、2017年10月、最終目標だった大阪国際音楽コンクール「Age-G」「リサイタル」の両コースで第1位、さらにグランプリを獲得。併せて音楽現代賞、セシリア国際音楽コンクール賞を受賞した。受賞記念として18年2月、フランスのカップフェレ音楽祭に招待されて演奏した。
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