4歳からピアノを習い始め、ピアニストを目指して高校、大学で音楽を学んだものの、結婚後は本格的な演奏活動から離れていた中野万里子さん。ところが子育てを終え、「シニア」といわれる年代になってから再びピアノと向き合い、昨年10月に開催された「第18回大阪国際音楽コンクール・ピアノ部門」では、若手演奏家を押えて見事優勝を果たしました。長年のブランクや年齢を言い訳にすることなく、彼女はなぜコンクール再挑戦への一歩を踏み出せたのか? 目標達成の原動力となったものは何か?――全4回にわたって聞きました。――ピアノをはじめ弦楽器や管楽器、声楽など幅広い部門で行われる大阪国際音楽コンクール。多くの魅力的な演奏家が、その舞台から世界へと羽ばたいている。各国から才能あふれるコンテスタントが集まる中、中野さんは、ピアノ部門「リサイタル」「Age-G」の両コースで1位を獲得。各部門の優勝者によるグランドファイナル(ガラコンサート)でもグランプリに輝いた。主婦業に専念していた数十年のブランクを経て成し遂げた快挙だ。
正直なところ、自分でもびっくりしています。コンクールに出場するからには1位になりたいと思っていましたが、まさか本当に優勝できるとは……。なにしろ初めは、「ちょっとやってみようかな」という軽い気持ちでしたから。
――そもそも、なぜ「シニア」といわれる年代になってコンクールに挑戦を? コンクールを意識したのは4年ほど前のこと。少し弾きこんだ曲があったのでCDを出したいと考えて知り合いの調律師に話したら、「CDの自費出版もいいし、コンクールに挑戦するのもいいですね」と答えが返ってきました。コンクールなんて考えてもいなかったのでびっくり。「私のような年齢で?」と半信半疑だったのですが、年齢制限のない大会もあると聞いて、チャレンジしてみようと思ったのです。
フェイスブックから刺激を受けたことも理由の1つです。自分がピアノを演奏している動画をアップしている人がいますよね。アマチュアであっても、それぞれの目標に向かって、プライドを持ってピアノと対峙している。その姿を見て、「私は今まで何をしていたのだろう」と考えました。そして、もう一度真剣にピアノに向き合おうと決めたのです。
――とはいえ、中野さんは結婚後も伴奏をしたり、子どもたちに教えたりと、ピアノを続けていたのですよね。 確かに、ずっとピアノに触れてはいました。でも、私にとって「ピアノに向き合う」ということは、教えたり、趣味で楽しんだりすることではありません。技術を磨き、楽譜を読み込み、作曲家の思いを受け止めて演奏する――真剣勝負なのです。
奈良市内での演奏会(写真提供:中野万里子)
本格的に演奏活動を再開しようと考えて自分を振り返ったとき、プロフィールに書ける経歴が何もないことにあらためて気づきました。京都市立芸術大学卒業で終わってしまうんです。学生時代や卒業間もないころには、コンクールやオーディションにも挑戦しましたし、大阪フィルハーモニー交響楽団とラフマニノフのピアノ協奏曲第2番の共演もしました。でも、それだけです。
実は、結婚してピアノをやめて関東に行くと決めたとき、大学の恩師から、「結婚するのはちょっと待って、もう少しここでピアノを頑張ったらどうか」と言われました。でも、そのときには続けたいと思わなかった。これ以上やってもダメだろうと、あきらめてしまったのです。あのとき先生の言葉に従っていたら――その思いがずっと心のどこかに引っかかっていました。
第一線で活躍している人は、ずっと頑張り続けていますよね。学生時代の仲間たちの活躍を耳にするにつけ、「私は何をしているのだろう」と落ち込みました。自分は音楽の道からそれてしまった。落伍者だと思っていたのです。
――プロフィールに書くことがないのは、自分が何も成し遂げてこなかったから。それならば、今から始めればいい、納得するまでやり抜けばいい――。そんな思いもあってピアノコンクールへの挑戦を決めた中野さん。次回は、「優勝」という目標を達成するまでの、努力の日々を振り返ります。
(構成・川島省子)
【中野万里子さん出演のコンサート】
大阪国際音楽コンクール受賞者によるガラ・コンサート 日時:6月26日(火) 19:00開演(18:30開場)
会場:兵庫県立芸術文化センター神戸女学院小ホール
問い合わせ先:大阪国際音楽コンクール事務局
電話:06-6625-5931 FAX:06-6625-5934 E-メール:osakaimc@gmail.com
【中野万里子さんのfacebook】
https://www.facebook.com/mariko.nakano.96780