フランスの地方について、教育や芸術、政治、経済、観光、郷土料理と、あらゆる分野の取材を続けてきた吉村さん。フランスへ旅行するなら人気のスポットを訪れる以外に、織物、伝統的なお菓子、陶器など、テーマを絞って地方を巡ってみるのもおすすめだといいます。地方の魅力をより身近に感じられる、旅のつくり方とは?ライヨール村のソムリエ・ナイフ フランスの地方を巡る中で、シェフに教えていただいた地方料理のいくつかは、今では私のスペシャリテに。いただいたレシピを綴じたファイルもだいぶ厚くなりました。陶芸の里で求めた焼き物は、パリ滞在中に集めたアンティークと一緒に居間の飾り棚にぎっしり並んでいます。旅の楽しみは尽きませんが、中でも興味をそそられたのは、地方の伝統を受け継ぐ職人たちの技。革職人、シャルキュトリー(食肉加工品)の職人さん、ステンドグラス、造花……いろいろありますが、あなたがもしワイン好きなら、本場のソムリエ・ナイフを求める旅はいかがでしょう。

生ハムやフォアグラは日本でも人気があるシャルキュトリー
' Atout France/Pascal Gr??boval
日本でもプロのソムリエが使っているナイフのブランドといえば、ライヨール。フランスの南西部、アヴェロン県のライヨールという小さな村は、19世紀初頭から続く伝統的な製法を守りながら、職人が1本1本、手仕事でつくり上げるソムリエ・ナイフ、テーブル・ナイフの産地です。
ところが、ライヨールと名乗りながら、肝心のナイフの主な生産地はティエールという町に移ってしまい、本場のライヨール村にはたった1軒しかナイフをつくる工場は残っていません。その工場でさえ一時は完全に閉鎖されていたのです。そんなとき、ライヨール村からナイフの火を消してはいけないと、一人の青年実業家が立ち上がりました。ライヨール社の現社長、ボワサンさんです。
ボワサンさんは当初、パリでブラッスリーかカフェを開こうと思っていたそうです。同郷にはその世界で成功している先輩がたくさんいたからです。でも、この村からナイフ工場をなくしてはいけないと、その計画を反故にしてライヨール社を再興。立ち上げ当時は4人しかいなかった社員は、今や90人近くに増えたそうです。

取材後、吉村さんは市販のブリオッシュで瞬く間においしいサヴァランをつくってくれた
ライヨール社のナイフには、刃の付け根部分に斜めになったL字のロゴがついています。これは建築家フィリップ・スタルクのデザイン。多くの同郷の後押しでライヨールのファン・クラブも誕生し、本家の貫禄がよみがえりました。そんな復活の物語を思い浮かべながら、流線型が美しいナイフを手に入れてみるのもいいのではないでしょうか。
地方のホームステイがおすすめ もし時間があれば、フランスの田舎町にホームステイ(短期語学留学)するのもおすすめです。場所にもよるでしょうが、フランス南部のモンペリエに宿泊したという友人の話によれば、2週間、毎日食事2食付きのホームステイで費用は10万円台前半だったそうです。昔と違ってフランスも滞在中は英語で十分なのですが、語学学習を名目に地方に泊まれば、それぞれの土地の文化や習慣、料理などにも直接触れることができます。もちろん年齢は関係ありません。50歳以上だとしても大丈夫。たとえば温暖な気候に恵まれた憧れのコートダジュールで、フランスの芸術や料理、ワインなどに関する知識を得ながら、豊かな自然を満喫することも可能です。

プロヴァンスを代表する港町、サン・トロペ
' Atout France/Michel Angot
もしもあなたが独身の女性だとしたら、人生を楽しむためには「カップルが当たり前」と考えるフランス人ですから、ホームステイ先の家族がすてきな男性を紹介してくれる親切にあずかれる……かもしれません(笑)。
限りある人生を謳歌したいと思うのは、どの国の人でも同じです。郷土愛にあふれたフランスの地方を体験することで、あなた自身、新たな人生の発見もあるでしょう。見知らぬ町や村を訪れ、未知なるものに出合ったときの驚きや歓び。それが旅の醍醐味だと思うのです。
――パリだけではないフランスの魅力。それを支えているのは、個性豊かな地方でした。そして、その元気を支えているのはフランス人のあふれんばかりの郷土愛。あなたも、新たな発見や感動を探しにフランスの地方を訪ねてみては? 『フランスの美しい村を歩く』や、『フランスの花の村を訪ねる』など、格好の指南書もありますよ。日ごろの雑事を忘れて旅情に酔いしれるその旅は、きっと今、あなたが暮らす足元も新鮮な光で照らしてくれるはずです。(おわり)【吉村葉子さんの公式サイト】
http://www.yokoyoshimura.com/(構成:宮嶋尚美)