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きれいをつくる
香りの科学~バラは百薬の長~ パフューマリー・ケミスト
蓬田勝之
第2回 バラの香りでリラックスする

※このWEB連載原稿に加筆してまとめた単行本(『バラの香りの美学』を好評発売中です(発行:東海教育研究所、発売:東海大学出版部)。


 柑橘系の香りをかぐと、気分がスッキリ、リフレッシュするのに対して、バラの花の香りは気持ちが華やかになり、リラックスするように感じる方も多いのではないでしょうか。
 では「リラックスする」ってどういうことでしょう。「気持ちがゆったり落ち着き、くつろぐ」「精神や肉体の緊張がほぐれ、楽になる」「堅苦しさがとれ、人と親しく話せる」「自分らしく、のびのび活動できる」などありますが、人は自分を表に出せているときに直観的に「楽しい!」と思うもの。普段からバラの香りと仲良くしていると人生はもっと楽しくなりそうです。さらに、「香りは子育てにも活用できる」と蓬田さんは言います。そのカギを握るのは、バラの香りの成分の一つ「ティーローズエレメント」。第2回は香りの実験によるティーローズエレメントのリラックス効果とその活用法を教えていただきます。


ラベンダーの香りとバラの香りの脳波測定、その結果は?

ダマスクローズ系 芳純(ほうじゅん)

ティーローズ系 レディ・ヒリンドン
 現在2万数千種類あるといわれるバラですが、その香りは大きく2系統からなっています。一方は、いわゆる甘いゴージャスな香りのダマスクローズ系(ヨーロッパのバラ系統)。そしてもう一方が、これからお話しする、紅茶に似た上品で優雅な香りのティーローズ系(中国のバラ系統)です。このティーローズが持つある特徴的な香りはジメトキシメチルベンゼンといって、長年私が在籍した資生堂の研究チームが発見し、「ティーローズエレメント」と命名しました。

 さわやかでみずみずしい香りは、“水をまいた花屋さん”の前を通ったときのような香りの印象があります。1867年以降に誕生したハイブリット・ティー種を中心した系統のバラを「モダンローズ」と呼びますが、モダンローズのほとんどに多少なりとも「ティーローズエレメント」が含まれています。そしてこの成分が、人間の生理・心理作用に良い影響を与えることがわかってきました。

 特筆すべきは「鎮静効果」です。どれほどの効果があるかといえば、みなさんもよくご存知のラベンダー精油やベルガモット精油、ダマスクローズ精油よりも高いリラックス効果があるのです。

一般的に睡眠の質を高めてくれるとされるラベンダーの香りを枕元に置いている方もいらっしゃると思いますが、脳波をとると、ティーローズエレメントはその4~5倍も鎮静効果があることがわかります。これまでに発見されたバラの香り成分は540種類ほど。しかし、それらはもちろんのこと、ほかの草花の香りも含めて、いまだにティーローズエレメントより鎮静効果の高い香りは見つかっていません。

運動会にバラの香りはNG!?
 ティーローズエレメントは、単独使用はもちろんのこと、いろいろなタイプの香料に加えることによって鎮静効果をもたらすこともわかってきました。ある実験では昼寝前のリラックスしている脳波に対して、覚醒効果のあるコーヒーを飲むと意識の集中が一気に高まることがわかりました。これは、コーヒー中のカフェフィンの効果と考えられます。これらを踏まえて、覚醒的に働くジャスミン精油の香りをかぐと、意識の集中はより一層高まりました。ところが、ジャスミンにティーローズエレメントをわずかに加えると、脳波はほぼ昼寝前のリラックス状態にまで戻ったのです。だからといって、むやみやたらにティーローズエレメントをかげばいいというわけではありません。緊張感や集中力、瞬発力が必要なときもあります。
 
 たとえば、お子さんが出場する運動会の徒競争では、「よーい、ドン!」の合図で一瞬も遅れることなく駆け出すことが肝要です。オリンピック選手の心拍数をはかると、「よーい」で大きく心拍数を一度下げ、集中力を高めて「ドン!」と同時に心拍数を一気に上げ、体の末端にまで血液をドッと出すことが医学的に検証されています。そんなときにティーローズエレメントをかいだとしたら、気持ちがゆったりして緊張感とは反対の作用が働いてしまいます。では、そうしたスポーツの成績を上げたいと思ったらどうすればいいのでしょう。スポーツ選手がよくレモンを食べているのを見かけますが、レモンには疲労回復のほかに、集中力を高めるための覚醒効果や高揚効果があることがわかっています。ということで、徒競争で一等を狙うならバラの香りよりレモンやミントがおすすめです(笑)。何事も使い分けが大切ということですね。

香りで学習記憶を固定化する
 最後にもう一つ、バラの香りの効能をお話しましょう。それは、睡眠中にバラの香りの刺激を与えると、眠りの質が上がるだけでなく、記憶の固定化(長期記憶)が促進されるというものです。ドイツのリューベック大学の研究チームが行った実験で、学術誌の「サイエンス」に掲載されました。まず、被験者にトランプの神経衰弱のような“ペアになるカードの位置を覚える”記憶トレーニングを、寝る1時間半前からやってもらいます。そして、このトレーニング中にバラの香りをかがせます。勘のいいみなさんならおわかりでしょう。ここで学習した内容と香りを結びつけるわけです。

 トレーニング終了30分後被験者には寝てもらい、被験者が深い眠りに入ったときにこっそり同じバラの香りをかがせます。そして翌朝、ペアのカードの配置をどれだけ覚えているかテストしてみると、香りを与えなかった人たちに比べて平均10%以上正解率がよくなったということです。この実験結果は、非常に興味深いものです。深い眠りに入っているときに、トレーニング中の環境がバラの香りで記憶が呼び起こされるかのように海馬が活性化され、記憶の向上につながったのではないかと考えられます。お子さんの勉強部屋にさりげなくバラの香りをしのばせておくことで、ひょっとするとテストの点数が上がる……かもしれません。

次回は、バラの香りの効果その2、バラの香りと美容の関係についてお話します。

(構成・宮嶋尚美)
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【よもぎだ・かつゆき】
資生堂リサーチセンター香料開発室参与を経て、現在、蓬田バラの香り研究所取締役研究所長。世界で初めてバラの香りをタイプ別に分類した香料分析のエキスパート。「香りの7分類」は、日本ガーデンローズや切花の香り関連分類の標準となり、香りの製品にも広く応用されている。年々複雑化しているバラの香りの一層の理解のために2009年「バラのパルファム図」を作成。最近は「香りの表象マップ」をつくり、香りのさらなる理解に務めている。著書に『薔薇のパルファム』(求龍堂)などがある。講演・執筆多数。
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