最終回 磨き上げられた環境が育むプレミアムな白だし(上)

日本で初めて白だしを手掛けた七福醸造
初めて訪問したときのことは、どの蔵元でも記憶に残っているものです。初対面の緊張に加え、どんな展開が待ち受けているかわからない不安と期待ゆえの印象なのだと思います。
その中でも特にインパクトが強かった蔵元の一つが、七福醸造。ここは、他の蔵元とはひと味違う驚きにあふれていました。
七福醸造は「白だし」を日本で初めて手がけたことでも知られ、商品には“味も品質もプレミアムな白だし”とキャッチフレーズが付けられています。地元のスーパーなどで調味料売場に行くと、他の大手メーカーの商品が200円で売られているのに対して、七福醸造の白だしは760円。この価格差でも、地域での支持は圧倒的だといいます。

白だしの元となるうまみたっぷりの白醤油
七福醸造がある愛知県碧南市は、白醤油の蔵元が多く集まっている地域。白醤油といえば、日東醸造、ヤマシン醸造と並んで名前の上がる七福醸造なので、初めて訪ねたときも、その3蔵を巡る自然な流れで車を走らせました。
工場の敷地に入ると駐車場を兼ねた広いスペースが正方形状に広がっていて、そこを取り囲むように建物が建っています。隅のほうに車を停めて事務所に向かって歩いていると、最初の驚きがやってきました。
荷物を運ぶフォークリフトがこちらに向かってきます。運転している作業員と目が合い、こちらが軽く会釈をしようとすると、フォークリフトが停まるではありませんか。明らかに荷物を下ろす場所ではなかったので、どうしてだろうと思っていると、その作業員の方が地面に降り立ち、「いらっしゃいませ!」と大きな声でキチッとお辞儀をしてあいさつしてくれたのです。

見学もできる工場「ありがとうの里」
不意を突かれました。思わず、こちらの背筋が伸びるほどのあいさつ。多くの蔵元を訪問してきましたが、製造現場は比較的シャイな方も多いので、大きな声であいさつを交わすことはそう多くありません。ですから、作業を中断し、しかもフォークリフトからわざわざ降りてあいさつしてくれるとは、全く想像しなかったことでした。
これまで感じたことのない興奮を抱えたまま事務所に入り、そんなあいさつをしていただいた驚きを伝えると、「当たり前のことですから」と淡々と答えてくれてたのは、製造チームの鈴木貴志さん。そのまま工場見学も快諾してもらいました。こちらでは日常的に工場見学を受け入れているとのこと。そうしたことを説明してくれる鈴木さんの元気のよさと話すテンポが心地よく、すっかり緊張も解けて気分よく工場の扉が開くのを待っていました。(つづく)
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【たかはし・まんたろう】
1980年群馬県生まれ。立命館大学卒業後、(株)キーエンスにて精密光学機器の営業に従事し2006年退職。(株)伝統デザイン工房を設立し、これまでとは180度転換した伝統産業や地域産業に身を投じる。現在は、一升瓶での販売が一般的だった蔵元仕込みの醤油を100mlの小瓶で販売する「職人醤油」を運営。これまでに全国の400以上の醤油蔵を訪問した。